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主婦の友社さまより、新刊書『仮設のトリセツ―もし、仮設住宅で暮らすことになったら』をいただきました。ありがとうございます。というわけで、例によって簡単にご紹介と書評を。

もし、仮設住宅で暮らすことになったら――いきなり重い問いかけですが、本書は至って明るく、仮設住宅を住みこなすには?というテーマを扱っています。一言で言えば、「仮設住宅カスタマイズ術」を教えてくれる本と言えるでしょうか。などと書くと冗談だろうと思われてしまうかもしれませんが、中身はビジュアル本と言って良いほど写真が多用されていて、書体や図版もポップ。カスタマイズ対象が仮設住宅でなければ、普通の生活術の本と言っても通用しそうです。

実は本書、同名のウェブページから生まれた一冊とのこと:

仮設のトリセツ - 仮設住宅を住みこなすための方法 -

「はじめに」で経緯が説明されていますので、引用させていただきます:

 2004年から2007年にかけて、新潟は7.13水害・中越地震・中越沖地震という3つの災害に立て続けに遭遇しました。これらの3つの災害でも計5,500戸の仮設住宅が建設され、沢山の人が暫定的で不自由な生活をすることになりました。

 私たち新潟大学工学部岩佐研究室では、同じ新潟に住むものとして何か出来ないかと考え、「仮設de仮設カフェ」というプロジェクトを実施しました。このプロジェクトを通して、仮設住宅にお住まいになっている方々様々な「仮設の知恵」を教えて頂きました。仮設住宅の暑さをしのぐ方法、彩りを与える方法、ご近所と仲良くなる方法など、様々な工夫を知ることができました。

 この「仮設のトリセツ」は、その当時の知恵をまとめた、言わば「仮設住宅の取扱説明書」です。中越の先人たちの「仮設の知恵」は、きっと皆様にも参考になる点が多いと思います。仮設住宅での暮らしを少しでも快適なものとするための一助となれば幸いです。

つまり新潟で起きた災害、そしてその際に建設された仮設住宅での経験をもとに、住民たちの生活ノウハウがまとめられているわけですね。それだけに本書の内容は非常に具体性と説得力があり、実際に仮設暮らしをされている方々に役立つだけでなく、仮設で暮らすとはどんな経験なのかを読者に伝えてくれます。もちろん本書がそもそも想定している使い方は前者だと思いますが、個人的には後者の価値も少なくない本だと感じました。

例えば本書の中で、ある区画がまとめて移転した仮設住宅(つまり人々のつながりが維持された仮設住宅)の方が、そうでない住宅にくらべ、住宅をカスタマイズする情報が伝わりやすかったという結果が紹介されています。言われてみれば当然の結果かもしれませんが、この指摘は「一夜にして人為的に立ち上げられる社会」である仮設住宅においては、情報のネットワーク、あるいはコミュニティの出現・促進をもたらすようにデザインすることの重要性を示していると言えるのではないでしょうか。どんなに頭の良い研究者が開発した被災地向け住宅であったとしても、事前にあらゆる事態を想定し、万人が満足する生活空間を提供することはできません。普通なら街は長い時間をかけて、多くの人々が建てたり壊したりを繰り返して少しずつバランスしてゆくものなのですから、卓上の計画都市がうまく行かないのは当然です(※某研究学園都市に住んだことのある経験ゆえの偏見を含んだ発言です)。だからこそ実際に住んでいる人々が、実際に住む中で得られたノウハウを共有しやすくなるような仮設住宅コミュニティのデザインが必要になるのだと言えるでしょう。

実際に本書で紹介されているアドバイスには、他にも「みんなの地図をつくろう」「掲示板は情報の宝庫」「団地のミニチュアで情報共有」など、住宅というハードそのものではなく、情報共有などソフト面に関係するものも多く含まれています。もちろん必要最低限のハードが整備されるという前提のもとにおいてですが、こうしたソフト面の対応についても、住民任せではなく行政の側で重視して仮設住宅建設が進められるようになって欲しいと感じさせられました。

もしかしたら、「最適な仮設住宅のあり方とは何か」を考えることは、とりもなおさず「最適な住宅や地域社会のあり方とは何か」を考えることなのかもしれません。その意味において、本書は仮設住宅暮らしの人々を助けることが第一の目標でありつつも、そうでない人々に対しては住宅や社会の意味を問い直す一冊になるのではないかと感じた次第です。

仮設のトリセツ―もし、仮設住宅で暮らすことになったら 仮設のトリセツ―もし、仮設住宅で暮らすことになったら
岩佐 明彦

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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