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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

« 2011年12月7日

2011年12月8日の投稿

2011年12月12日 »

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京都で行われた「Infinity Ventures Summit 2011 Fall Kyoto」(IVS)に参加してきました。MixiやDeNA、GREEといったデジタル系の成長企業によるプレゼンテーションを中心に、大手企業の経営者からベンチャーを立ち上げたばかりの若い人々までが集うこのイベント。何かと不景気で、停滞した空気が漂う日本が嘘のように感じられるほど、熱気と熱意が凝縮した2日間でした。

その象徴とも言えるのが、IVSの目玉イベント「Launch Pad」(新サービス/製品の発表コンテスト)で株式会社Labitの「すごい時間割」が1位を獲得したことでしょう。創業者でCEOの鶴田浩之さんは、大学在籍中の20歳の学生。「すごい時間割」はその名の通り、大学の授業を共有するというサービスで、同じく大学在籍中にFacebookを立ち上げたマーク・ザッカバーグを彷彿とさせるかもしれません。時間割という学生共通の関心事を軸に、そこから(時間割の裏返しである)空き時間の共有、授業評価の共有など隣接領域へと進出して行く点も似ています。彼らのような若い起業家や、Ustream等を通じて情報を共有していた人々も含め、この受賞が与えた刺激は非常に大きなものになったのではないでしょうか。

1日目の午後に「次の成長企業を生み出せ!日米インキュベーター最前線」というセッションが行われているのですが、その登壇者であるTechStarsのPatrick Rileyさんが「自分たちはベンチャーのためのエコシステムを構築している」というお話をされていました。TechStarsはシリコンバレーにはオフィスを持たず、コロラド州ボルダーのような場所で有望な起業家を育成(理論家や成功したスタートアップの経営者などをメンターとして抱えているとのこと)、最終的にデモイベントを開催してより多くの出資者を募る、といった活動をされています。最近話題のY Combinatorに近い発想と言えるでしょうか。

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実はIVSに先立つこと1週間前、渋谷のMixi本社で開催されたYouth Venture Summit(YVS)にも参加したのですが、そこで登壇者の一人であるRichard Minさん(韓国のVC、Seoul SpaceのCEO)が同じく「ベンチャーのためのエコシステムをつくる」という発言をされています。面白いのはエコシステムの要素の1つとして、IVSやYVSのようなリアルイベントを入れているところ。ネットワーキングというと否定的な印象を受ける方もいるかもしれませんが、同じ起業家やメンター、協力者が混ざり合うことによって、新しいアイデアや協力関係の出現が促されると考えているわけですね。

昔からハンズオン型の投資などという言葉もありましたが、最近はより組織的にベンチャーを支援しよう・盛り上げようという動きが出てきているように思います。様々なカンファレンスやコンテストといったものも開催されるようになりました。YVS・IVS共に「成功するためにシリコンバレーに行く必要があるか」というテーマが其処此処で交わされていましたが、逆に言えばシリコンバレーが疑う余地のない「ITベンチャーのメッカ」ではなくなりつつあることを示しているのでしょう。それに加えてインターネットやソーシャルメディア、クラウドコンピューティングといった要素が加わり、特にデジタル系のベンチャーに必要な立ち上げコストが低下したことで、スタートアップ熱が再発するに至っているのかもしれません。

ただ一歩その界隈から足を踏み出すと、文字通りの温度差を感じることも事実です。もちろん起業が日本人全員にとって日常風景になるはずがないのですが、例えばGREEという企業を取り上げた時に、そこに注がれる目線の違いという表現をすれば分かりやすいでしょうか。「ベンチャー」的な世界と、「東証一部上場」的な世界。そこにはまだまだ厳然たる境界線があるように感じます。

いや世界が分かれていていいじゃないか、ベンチャーと東証一部情報が交わる部分はカネだけで良い、という考え方もあるでしょう。しかし様々なセッションに出ていて感じたのは、大企業でもベンチャーに学べる部分は非常に多く(新しいビジネスアイデアは当然として)、逆にベンチャーでも大企業に学べる部分が多いという点です。例えばグローバル進出をどうするかという点、これもIVS2日間を通じて様々な場所で話題になっていたテーマですが、大企業でも万能薬があるわけではありません。セッションの壇上やネットワーキングの会場で交わされた会話は、ベンチャーだけでなく多くの企業にとってヒントになるものでしょうし、逆にその場に中国やインドで苦労してきた無数の企業がいれば、彼らの経験を共有できたでしょう。ちょっと話は逸れてしまいますが、2日目最後に行われたセッションでは、将棋の羽生善治さんから「将棋の世界の流行を生み出しているのは20歳ぐらいの人々で、彼らは今までに無かった発想で考えている」などといった発言もありました。

また仕事がら大きな組織と接していて感じるのは、彼らが持つ人的リソースは非常に大きく、かつ価値があるものという点です。経営陣に関してクエスチョンマークが付くことはありますが(失礼)、現場で全力を尽くしている人々は総じて優秀です。ベンチャーの世界だけで完結し、新たな世界を築くこともできるかもしれません。しかし既存企業にあるリソースがアクセス可能になる、あるいは流動性が増すことによって、より容易に、かつ高度な目標を達成することができるのではないでしょうか。また既存組織の人的リソースがベンチャーの世界で新たな経験を得ることで、彼らが新しいスキルや考え方を身につけ、あるいはベンチャーの持つ「熱量」を帯び、もとの組織に対しても大きなリターンを返してくれるようになるはずです。

従ってベンチャーのエコシステムをデザインすることは、とりもなおさず、既存企業のエコシステムをどうリ・デザインするのか?ということとイコールではないかと感じています。ベンチャー/大企業という分類で世界を見るのではなく、さらに日本/外国という区分もいったん取り払ってみた上で、ビジネスの成功を担保するためにリソースをどう配置するのか。そんな視点で考えてみることも必要ではないか、と考えさせられた2日間でした。

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"We can change the world!"

そういえばちょうど、頓智ドットの経営陣が変わるそうです。新しい代表取締役社長兼CEOは谷口昌仁さん。経済産業省、楽天というキャリアを歩まれてきた方とのこと:

頓智ドットが大きく変わります (頓智ドット株式会社)

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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