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先週末、NHKスペシャルで「戦場 心の傷」と題された番組が放送されていました(公式ページはこちら:その1その2)。タイトルの通り、戦場で戦う兵士達が心にどのような傷を負うのか、米国での事例を軸に解説するという内容。戦争は生き残った者に対しても、深刻な心理的ダメージを与えるのだ、ということが嫌というほど理解できる番組でした。

恐らくこの番組を観た人に向けてでしょう。近所の書店で『「戦争」の心理学』という本が平積みにされており、思わず購入してしまいました。この本、タイトルから『戦争における「人殺し」の心理学』を連想された方も多いと思いますが、同じくデーヴ・グロスマン氏の手によるものです(『「戦争」の心理学』のみ共著)。ただし原題のタイトルは"On Combat - The Psychology and Physiology of Deadly Conflict in War and Peace"(戦闘-戦時と平時での致死的対立状況における心理と生理)であり、前作よりも広い視点から「(戦争に限らず)“戦う”という極限状況が人間の心・体に何を引き起こすのか」というテーマが扱われています。

言うまでもなく、日本は他国との戦争状態にはありませんし(「テロとの戦い」の最中だ、と言う人はいるかもしれませんが)、凶悪犯罪が増えたと騒がれてはいても「誰かに殺されるかもしれない」という不安を感じることはあまりありません。従ってこのような本を読む意味は薄いと感じられるかもしれませんが、極限状態に置かれた人間が見せる反応と、その後の行動・言動・心理状況を見ることで、人間というものの本質が見えてくるのではないでしょうか。そしてそれは、普段の生活にも応用して考えることができるように思います。

例えば、非常に汚い例で恐縮ですが、戦闘状況に直面した兵士や警官は大小失禁を経験することが多いそうです。実はそれは人間の生理的反応であり、強いストレスにさらされた身体は、生存の確率を上げるために余計な「荷物」を捨てようとする――体の中に糞や尿が残っていれば、状況などお構いなしにそれを捨て去ろうとするのだ、とのこと(私たちがプレゼンや試験の前など、緊張するとトイレに行きたくなるのは、こういった反応も関係してくるのかもしれません)。問題は、これが誰の身にも起こり得る生理的反応なのに、きちんと語られることが少ないこと。例えば映画や小説でも、兵士が失禁する場面はほとんど登場しません。

まぁそれは当然といえば当然なのですが(悪をやっつける完全無欠なヒーローが粗相をする姿、なんて見たくないでしょう)、本来はきちんと語られるべきことが、単にカッコつけたいがために語られないままだとどうなるか。兵士や警官は何の知識もなく戦闘中に失禁してしまうことになり、本人は「こんなことしてしまうなんて、僕はおかしなやつなんじゃないだろうか」と感じてしまう――実はそれこそが問題なのだ、と本書は指摘しています。

世界には様々な「武勇伝」が溢れています。戦争での話だけでなく、ビジネスや趣味、恋愛に関連したものもあるでしょう。そこでの物語はすべて美化され、通常の精神状態であれば「おかしい」と見なされることは一切語られません。戦闘という重要な分野においてすら、「恥」に属する部分はきちんと説明されないのですから、他の分野ではもっと「こんなことしてしまう自分はきっと変なのだ」と悩む人が多いはずです。成功した人や偉業を達成した人を賞賛し、その行いが美化されればされるほど、逆に自分の行為に悩む人は増えるのではないでしょうか。

その意味で、どんなテーマにおいても、もっと恥や闇の部分が語られて良いのだと思います。例えばまた母校の話で恐縮ですが、Babson College では成功した起業家だけでなく、失敗した起業家に包み隠さず失敗談を語ってもらう、ということが行われていました。また、ネットの匿名性についてはよく非難が行われますが、逆に匿名で語ることのできるネットにおいては、こういった「実は僕もこんな“恥ずかしい”体験をしていた」という話が展開されることが少なくありません。同じ問題に直面した人々が、ありのままを語り合える場というのは、想像以上に大きな価値を提供しているのではないかと感じた次第です。

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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