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妻が美大生ということもあって、ウチにはアート系の本(筋肉がむき出しになった人体が並んでいたり、全ページにわたって骸骨が登場する本などのことです)が溢れているのですが、先日テーブルの上に『美大デビュー』という本が置かれていたので読んでみました。最近出版されたばかりの本で、イラストレーター/漫画家の小林裕美子さんが、東京造形大学での日々を漫画でつづられたもの。普段から真横に美大生がいるとはいえ、外部の人間には神秘のベールに包まれている「美大の中の風景」というものを垣間見ることができる、なかなか面白い本でした。

ちなみに著者の小林さんはブログも開設されています:

小林裕美子blog

妻の勉強する姿を見ていても感じることなのですが、この本を読んで一番印象に残るのは、美大は非常に「泥臭い」場所であるということです。例えば写真を撮るとなれば、銀板カメラの構造を理解し、現像まで自分でやらなければならない。染料で染め物もすれば、骨や筋肉の形状まで頭に入れる。結果、アートという形で現れるのはほんの僅かな部分なわけですが、その「氷山の一角」を作るために……というより、浮上させるために、その下にものすごく大きな「見えない部分」が必要になると。そして見えない部分を身につけるためには、およそ美とは無縁なような泥臭い活動もしなければならないわけですね。

実際、美大は浮世離れした何かを学ぶ場所というより、職人の世界に近いものがあるように感じます。何かを作るまえに、必要な道具も自分で作る。材料の準備や、前処理も自分の手で行う――外野で見ていると、「成果物を生み出すプロセスに限定して、そこに集中すれば良いじゃないか」というような気がしてしまいます。しかし一見すると(他人に任せたり、仕掛品を買うなどして)効率化できそうな部分にも、最終成果物の出来に関係してくる何かがあるのでしょうね。その何かを学ぶために、美大には「何でここまで?」と感じるようなカリキュラムが用意されているのかもしれません(しかし体育まであるというのは、どう考えても解せませんが)。

ちなみに僕はといえば、小学校の習字の時間、毎回「墨汁があるなら墨をすらなくてもいいじゃん!」と思ってしまうようなタイプでした。なので何かの間違いで美大に入っていたら、「そんな前段階の話はやめて、本題入ろうよ、本題!」といきなり制作に入ろうとしていたかもしれません。いやいや、クリエイティブな活動にこそ全体的な視点が必要なんだよ、ということを知るためにも、チャンスがあれば美大の空気に触れてみるというのも良いかもしれません。

……と書くと「またまた適当なことを」と思われてしまうかもしれませんが。しかし僕が卒業した Babson College の MBA コースでは、"Creativity Program"と称して、音楽・絵画・ダンスなど8つの「創造的活動」の中から1つについて成果物を完成させる、という授業がありました。しかもレクチャーしてくれる講師の方は、ちゃんとしたその道のプロの方で、本格的な指導をしていただいたことを覚えています。「美大生は変人ばかりで、就職にも困る」などと陰口をたたかれることもありますが、現代の企業が必要とするスキルを学べるのは、意外と美大なのかもしれませんよ。

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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