AMDラックスケールAIシステム「Helios」詳細
1. システム全体像と基本仕様
ラック構成と物理構造: Heliosは重量約7,000ポンド(約3.17トン)におよぶ巨大システムです。
1ラックあたり72基のGPUと18基のCPUを搭載しています。
ラック中央部には18基のコンピュート・トレイ(左右に9基ずつ)が配置され、これらが6基のスイッチによって相互接続されています。
システム統合アプローチ: AMDが自社内で手がける「GPU」「CPU」「ネットワーキング」「ソフトウェア」の4要素を1つに統合したシステムであり、顧客の用途に合わせてカスタマイズ可能な4つの基本構成が提供されます。
ネットワーキング技術: 2022年に買収したPensando社の技術である「P4エンジン」を採用しており、完全にプログラマブルで、超高性能・低レイテンシのネットワーキングを実現しています。
ソフトウェアスタック: AMD独自の「ROCm」ソフトウェアを採用し、PyTorch、vLLM、SGLangといったオープンフレームワークをネイティブにサポートします。競合(NvidiaのCUDA等)のクローズドなエコシステムに対し、オープンスタンダードに準拠した「オープンシステム」であることが最大の差別化要因です。
電力とコスト:
消費電力: 1ラックあたり約**225,000〜245,000ワット(225〜245 kW)**を必要とします。
システムコスト: Futurum Groupの推計によると、1システムあたり約500万〜550万ドルと見積もられています。
開発の背景: 2025年にサーバービルダーのZT Systemsを49億ドルで買収したことが、Heliosをラックスケールシステムとして形にする上で極めて重要な足がかりとなりました。現在、AMD内では約8,000人規模のエンジニアチームがHeliosの立ち上げと検証に関わっています。
2. 搭載GPUの仕様と技術詳細
GPUモデルとメモリ容量: Heliosには最先端の「MI455(MI455 GPU)」が採用されています。
GPU 1基あたり12スタックのHBM(高帯域幅メモリ)を搭載し、最大432 GBのHBMメモリを確保しています。これにより、推論やメモリ帯域幅において非常に高い優位性(TCOの最適化、トークンあたりのコスト削減)を発揮します。
トレイ内の配置: 1つのコンピュート・トレイあたり4基のGPUが、後述の銅製コールドプレートの下に配置されています。
製造および調達:
GPUは台湾のTSMCにて、最先端の2nmプロセスノードで製造されています。
最先端パッケージング技術(CoWoS等)の供給力不足に対処するため、AMDはASE(Advanced Semiconductor Engineering)などの他の台湾パッケージング企業に10億ドル規模の投資を行って供給能力を確保しています。
深刻なHBM不足の中、主要メモリサプライヤー3社すべてと緊密な関係を維持し、必要なメモリ量を確保しています。
将来のインターコネクト: 今後2〜3年以内には、ラック内の銅線ケーブルがCorning社などの技術を用いた「光インターコネクト(光ファイバー)」に置き換わる見込みです。
3. 搭載CPUの役割と仕様
CPUモデル: 各コンピュート・トレイのフロントに「Venice(ベニス)」と呼ばれるCPUが1基搭載されており、同トレイ内の4基のGPUと直接接続されています
。ラック全体では計18基のCPUが稼働します。
役割と重要性: AMDの強みである一般演算用CPU「EPYC(Epic)」のアーキテクチャがベースとなっています。単なるチャットボットから、高度な自律型AI(Agentic AI)へとAIワークロードが移行するにつれ、GPUにデータを供給し、システム全体を効率的にオーケストレーションする高性能CPUの役割がさらに重要視されています。
4. 液冷・水冷冷却システム
トレイレベルの液冷方式: 各コンピュート・トレイ内では、4基のGPUが「銅製コールドプレート(copper cold plates)」の直下に設置されています。このプレートの内部に液体を循環させ、システム内で発生する大量の熱を直接除去する仕組みです。
施設レベルの水冷仕様: ラックの冷却には、毎分約**750ガロン(約2,839リットル)の冷水(Chilled water)**を循環させる必要があります。
水資源の効率性: テキサス州ロックデールなどの実稼働データセンターに設置されているシステムでは、「クローズドループシステム(密閉循環方式)」を採用しており、使用する冷却水を外部に排水・浪費せず再利用する設計となっています。
5. 初期の顧客および展開スケジュール
すでに業界をリードする複数のハイパースケール事業者やテック大手が、今年中のHeliosデプロイに向けて合意・契約を締結しています:
Meta(メタ): 今年後半からHeliosラックの導入を開始します。将来的に最大6GW(ギガワット)規模のAMD製GPUを導入する計画を発表しており、その初期フェーズとしてまず1GW分がHeliosラックを通じてデプロイされます。
Microsoft(マイクロソフト): データセンターへHeliosシステムを導入する契約を正式に締結しました。同社は2023年にMI300Xを他社に先駆けて導入した実績があります。
OpenAI(オープンAI) / Oracle(オラクル): 今年中にHeliosシステムをデプロイする重要なコミットメントを行っています。
TCS(タタ・コンサルタンシー・サービス): インド最大のIT企業であり、将来的にHeliosを採用することを確約しています。