100億ドルを投じるイラク南部の油田注水インフラプロジェクト
最近イラクの油田に関するニュースをよく目にします。インフラ投資という意味では、世界のオイルメジャーや日本の商社および石油会社によって権益獲得が進んでいる油田に加えて、産出した原油を運ぶパイプライン、関連の道路、タンカー積出港などが投資の対象になってきます。
関連の動きを何回かに分けて拾ってみたいと思います。
■原油輸送インフラの増強が必要なイラク
世界第三位の原油埋蔵量があるイラクでは、戦後の経済復興を原油による外貨獲得で行おうとしています。2009年から主要な油田の権益の競争入札が続いており、原油積出に便利な港に近い南部のWest Qurna(西クルナ)などの油田をExxon Mobil(米)、Royal Dutch Shell(英蘭)、Lukoil(露)、China National Petroleum(中国石油天然ガス集団)、Eni(伊)といったメジャーが獲得しつつあります。日本も経産省の働きかけでNasiriyah(ナシリヤ)油田の権益獲得の可能性が出てきました。
イラクでは現在の原油生産量が1日300万バレルを切る水準。これを2017年までに1,200万バレルにまで増やそうとしています。目標達成のためには、主要油田において急ピッチで産出量を上げる必要があります。しかし、長かった戦乱において、産出した原油を国外へ運び出すためのインフラ、具体的には南部油田の”輸出ハブ”(南部のパイプラインが集まるMina Al Bakr港を指すと思われます)、トルコのCeyhan港(地中海)へ通じるパイプライン、シリアのBanias港(地中海)へ通じるパイプラインにおいて、輸送能力が貧弱になっており、権益を獲得したメジャーがフル操業するためには、これらのインフラの増強が必要だそうです。
イラク政府も米国のエンジニアリング会社Foster Wheeler、シンガポールのエンジニアリング会社Leighton Offshoreと契約し、パイプラインと、バスラ近くのペルシア湾に4基の浮上式原油ターミナルを建設する契約を結んだと伝えられていますが、原油輸送インフラへの投資はまだまだ必要でしょう。
■Exxon Mobil主導で進む巨大な注水インフラプロジェクト
こういうなかで興味を引くのが、Exxon Mobilが南部地域で行おうとしている、総投資額100億米ドルと言われる注水プロジェクトです。同社が権益を獲得したWest Qurna(西クルナ)などの油田では、従来は油井内の圧力が高く、投入単位エネルギー当たりの産出量が多かったものが(例えば自噴するほどの高圧力であればエネルギー投入が極小で済む)、現在では圧力が低下し、何らかのテコ入れをしないと、効率的な生産ができない状況になっているそうです。具体的には、水を注水して油井内の圧力を高めます。
南部の油田地帯では、過去にはチグリス川、ユーフラテス川の水を当てにすることもできたようですが、現在では2大河川の流量が著しく減っており、結果として、ペルシャ湾の海水を引いてきて油井に注水できるようにする注水インフラが必要だとのこと。これの建設に100億米ドルという巨額の初期投資が必要だそうです。この注水インフラにより、1日当たり1,000万〜1,200万バレル(160万〜190万立方メートル)という大量の海水を確保します。先日見た世界第二位のシンガポールの海水淡水化プラントの造水量が13万〜14万立方メートルですから、いかにこの注水プラントが巨大であるかわかります(ただし、あくまでも海水をそのまま注水するためのプラントです)。
この巨大なインフラ建設プロジェクトは、イラク政府によるPPP案件の体裁をとり、Exxon Mobilが契約を受注しています。おそらくは、この注水インフラを運営する特別目的会社が設立され、そこに「参画する」と報じられているRoyal Dutch Shell、Eni、Lukoil、China National Petroleum、Petronasなどが出資をし、主要銀行などもプロジェクトファイナンスを行って資金がまかなわれるものと思われます。インフラ建設の技術面では英国のGaffney Cline and Associatesがアドバイスをすると伝えられています。
PPPの形態としては、報道資料を総合すると(こちらなど)、設計、ファイナンス、建設までは民間が行うものの、できあがった注水インフラをイラク政府がリースで借り受けるというスキームのようです。イラク政府は各国の石油会社から徴収する石油収入によってリース料を賄います。Exxon Mobilなどの投資側から見れば、投資回収の財源がある案件ということになるでしょう。