オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ものを書いて食うための環境として「Amazon Kindle+Twitter+リアルイベント」が大きなポテンシャルを持つというお話(下)

»

パーソナルブランディングはいわば、遠いところにいる潜在顧客に自分に気づいてもらうための「フェロモン発生装置」というところでしょう。これにおびき寄せられてたくさんの方が集まってきますw。
もう1つの大切な要素「エンゲージメント」は、実際の売りにつながる自分の畑です。種を巻いて、耕して、水をやって、雑草を取って、実ってきたものを収穫するというような、定常的な手間ひまを要する作業が展開します。私は、パーソナルブランディングとエンゲージメントの両輪を動かさないと、うまく行かないのかなと思っています。

■エンゲージメントの基本原理

現実問題としてカラダが1つしかない書き手は、企業のセールスマンのように、様々な顧客を訪問して1冊1冊売って歩くということができません。直接的な売りができにくいところにいらっしゃいます。従って、自分の書いたものが売れるには、「売れるように仕向ける」という間接的な売りに注力するしかありません。エンゲージメントの考え方を採り入れると「顧客の方が自分のところの商品を自然と手に取って、自然にお財布を開いていた」というような流れを作ることができます。間接的な売りということでは最高峰の方法論なのではないかと思っています。著者の方が「コレ買って下さーい」と直接的なメッセージを出さずに済むようになります。

また、エンゲージメントは、主義主張を持った書き手の方、テーマがはっきりとある書き手の方、自分の世界の構築がしっかりとできている方にとって、非常に親和性の高い方法論だということもあります。こちらの投稿で記しましたが、

エバンジェリストは自分が述べ伝えるべきものがあり、それを述べ伝えていくなかで聴き手とのエモーショナルな絆を形作る。それがエンゲージメントである、という順序なのでしょう。エンゲージメントは単体で成立するものではなく、それに先立ってエバンジェリズム、すなわち、テーマなりストーリーなり主義信条がなければならない。これが2008年以降、断続的にこの周辺を考えてきて得られた現在の自分の考えです。

エンゲージメントは、何かを伝えていきたい方にとって(エバンジェリズムのテーマがある方にとって)、よい方法論となってくれる可能性があります。

エンゲージメントの何たるかは上で引用した投稿にも書いていますが、やはりまとまった本を読まれるのがよいでしょう。日本語では上記投稿でも紹介している「『自分ごと』だと人は動く」(博報堂DYグループ エンゲージメント研究会著、ダイヤモンド社)がエンゲージメントを本格的に扱った著作第一号です。そして、最近刊行されたばかりの「ツイッターノミクス」(タラ・ハント著、文芸春秋社)でもエンゲージメント的な考え方を敷衍しているようです。自分の場合は少し前に原書"The Whuffie Factor"を取り寄せたのですが、まだ読み切ってはいません。ですが主軸は、自分のネット上の活動によって、どう潜在顧客とめぐり合い、緊密な関係を取り結んで行くかという、まさにエンゲージメントの考え方の啓蒙だなと思いました。Twitterに留まらず、勝間和代さんがやっているような、ネット上の様々なツールの複合的活用ノウハウが理解できます。

エンゲージメントの基本原理を手短に確認すると、

  1. 自分に突っ込みどころを作る。あるいは、突っ込んでもらえるネタを公開する。
  2. 潜在顧客が突っ込んでくる。
  3. その潜在顧客とのダイレクトコミュニケーションを何往復か行う。
  4. その潜在顧客との間に心理的な結びつきができ、ほんとうの顧客となる。
  5. 顧客に何気ないメッセージでもしっかりと受け止めてもらえるようになる。
  6. 場合によっては、自分が出したメッセージを広めてくれる役割を果たしてもらえる。

ということになります。売りは自然と生じる結果です。

書き手の場合、注意すべき点は、エンゲージメントのきっかけとなる「突っ込みどころ」を作りにくいタイプの方がいらっしゃるということです。一般的に、人文主義(シュトルムウントドランク)の中で育ってきた書き手の方は、書くものにおいてスキを作らないということを金科玉条としています。従って著作はもちろんのこと、ブログでの投稿や、Twitterでのツイートにもスキがないということになりがちです。ネット上では突っ込みにくい方になってしまうのです。

コンサルティングの世界では、突っ込みどころの装置としてThougut Leadership系の刊行物を作り、キャンペーンを張るということをよくやります。そういう生真面目な突っ込みどころ作りもたまにはよいのですが、日常的には、軽い話題、むしろ下らない話題をどんどん出して、潜在読者の方との気楽なやりとりを楽しまれるのがよいでしょう。
B級グルメの話、低価格帯のワインの話、よく利用されているIT系のツールの話などは、突っ込みどころ作りとしてはよい素材かと思います。

■リアルイベントのリップル効果

最後のトピックはリアルイベントです。ここで言っているリアルイベントとは、従来型のセミナーや講演会ではなくて、Twitterと連動して行われるリアルイベントを指します。ブログでも同じ原理が働きますが、Twitterと比較すると情報の伝播速度が格段に遅いので、Twitterに限定して考えます。

Twitterをリアルイベントに絡ませて使うと何が起こるかを過去に何本かの投稿で書いてきました。

Twitter起業エコノミー(1) - 最初の顧客はどう生まれるのか?

新しいタイプの集客パターン - Twitter起業エコノミー(2)

Ustreamで突発的に観客が集まるメカニズム - Twitter起業エコノミー(3)

短くまとめると、

  1. 最初の参加者グループがTwitter上で「おもしろい」と書く。
  2. 「おもしろい」が大なり小なりバズ化してTwitter上を伝播していく。
  3. 広範囲に存在する潜在顧客がそのバズを受け止めて記憶に留める。
  4. 次回イベントの案内があった際に実際に来訪する。
  5. 「おもしろい」と書く。
  6. さざ波のような二次三次の伝播=リップル効果が起こる。

となります。

Twitterは基本的には実況に適したメディアなので、リアルイベントは実況の格好の素材となるのです。書き手の方はそこに魅力的なネタを提供する格好になります。リアルイベントでしゃべっていることをネットで書いてはダメ、Ustreamでリアルタイム動画ストリーミングをすることはダメと釘を刺しては、Twitter連動リアルイベントの効果が見込めません。どんどんtsudaっていいし、どんどんUstして下さいとむしろ奨励して臨むのがよいでしょう。

リアルイベントの枠組みは、講演会、セミナーに留まらず、料理会、ワイン試飲会、施設や名所などの見学イベント、小旅行、散歩イベント、軽い飲み会、ランチミーティング、お買いものツアー、他の大型イベントへの団体参加、ゴルフコンペ、ジョイントランニングなどなど、何でもありです。ご自身の得意な分野で、楽しめるもので、軽く運営できるものがよいでしょう。ご自身のテーマに直接的に関わらないリアルイベントでも、読者との直接的な交流の場を持つという意味では、大きな効用があると思います。
ターゲットの年齢も、若い方からシニアな方まで色々に設定できると思います。
弊社で試験的に実施した、料理研究家みなくちなほこさんによる鉄なべごはん会はなかなか好評でした。こういう20名程度のイベントでぜんぜんよいかと思います。

私がフォローしている人の中で、特にリアルイベント系の活動に注目している方々を挙げておきます。

@ktamiyaさん

@gototakuhiroさん

@YHiraharaさん

@omeishiさん

@nyatttaさん

必ずしもみなさんが著述をしている訳ではありませんが、Twitterを使ったリアルイベントがどのように告知され、実施され、その後の展開につながるかということが、定常的にウォッチしておくとよくわかると思います。
なお、3月18日木曜日の夜に東京赤坂でこの関連をテーマにした弊社主催立ち飲みイベントを開きます。上の方のうち、@gototakuhiroさん@YHiraharaさん@omeishiさんがご登場されて、お話をしていただきます。告知でした(^^;

さて3回シリーズになってしまった本投稿も大詰めです。
書き手の方がリアルイベントによって、読者とダイレクトに触れ合うことのもっとも大きな効用は、ふだん、活字を通してしかコミュニケーションをしていない、メディアの向こうにいる読者と、生の言葉で語りあい、生でレスポンスをもらうという醍醐味にあります。
これ、経験し慣れていないとなかなか腰が引けてしまう世界かも知れませんが(私もどちらかと言うとそういうタイプだったのでよくわかります)、まずは飛び込んでみて、何度かやってみるうちに、ダイレクトにレスポンスをもらうことにひそむ貴重な価値がわかるようになると思います。書斎から出でよ。読者の中に飛び込め、という訳です。

Twitterは、オンラインコミュニケーションのツールとして使っている限りは、既存のツールと大同小異です。しかし、Twitterを使っている人同士がリアルに会って、そのことをTwitter上でツイートするようになると、有形無形のフィードバックが自分自身に還ってきます。その結果、自分が多かれ少なかれTransformを強いられるような状況に陥ります。Transform...最初は「う”ーん」とか思っていても、その要請を素直に受け止めて、まぁしょうがないかと受け入れることによって、色々とおもしろいことが起こるようになります。

@GenTarumiさんという方(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)が非常に興味深いことを書いていました

私たちは喃語からはじめてようやくネット経由の複雑なコミュニケーション過程に到達したのでそう極論して腐らないことですな~♪自ら問題つくり自分で解決に限界を感じて始めて外部依存に展開へと .@yukky_rt @HaRu56 日本人に日本語でツイッターで訊ねることの限界なのでしょうね

「外部依存に展開」…。すなわち、これまでは比較的自分の内に閉じていた活動が「外部」からのフィードバックを前提とするようになって、自分の変化が促され、外へのアウトプットにおいても過去にはなかったものができるようになる、ということを示唆しています。自分が書くものにおいて深みが出てくる可能性がありますし、Twitterを使って起こったこと自体が書く素材になったりします。

この点で非常によい事例があります。内藤みかさんが書いた「夢をかなえるツイッター」(技術評論社)です。多くの読者を前提に非常にやさしい文体で書かれているので、ともすれば見落としてしまうかも知れませんが、私は、この本はTwitterの活用による(リアルイベントも含む)自分のTransformationを書いた本だと思っています。自分にとっての「外部」を取り込むことによって、自分に何が起こるのかを、職業的な書き手の方としてしっかりと述べています。

パーソナルブランディングとエンゲージメント。それらをTwitter+リアルイベントで自分なりにアレンジし、読者と緊密な関係を構築し、書き手としての自分を少しあるいは大いにTransformさせていくならば、その方は大いに成功するでしょう。食えるという次元ではなく、自分のライフテーマに集中し、かつそれが顧客にも喜んでもらえる方になるのではないでしょうか。

Comment(2)