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生成AIで生産性を高める3つの条件----GartnerのWILLとケイパビリティ

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ガートナージャパンは2026年4月21日、企業が生成AIによる生産性向上を実現するための指針を発表しました。

Gartner、企業が生成AIによる生産性向上を実現するための指針を発表

導入から2〜3年が経過するなか、国内外で「期待したROIが出ていない」との声が増えている状況です。多くの企業はツール導入で短期的な効率化を見込んできましたが、個人の時間短縮が組織の成果に結びつかないケースが続いています。Gartnerは、人と組織がAIを使いこなす意思(WILL)と能力(ケイパビリティ=AI筋肉)の形成こそが生産性向上の本質と位置づけています。

今回は、ROIが伸び悩む構造、WILLとケイパビリティの形成や余剰時間の再配分、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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ROIが伸び悩む構造的背景

ガートナージャパンが2026年4月21日に公表した指針は、生成AI導入が抱える「期待ギャップ」を整理する内容となっています。同社のディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストである亦賀忠明氏は、生成AIを導入すれば自動的に生産性が高まるわけではない点を、企業が理解する必要があると述べています。

導入から2〜3年が経過した現在、国内外の企業から「期待したほどのROIが出ていない」との声が増えている状況です。背景には、生成AIを既存業務の効率化ツールとして位置づけ、PoCで成果を測ろうとした初期の投資設計があります。個人タスクの所要時間が短縮されること自体は成果と呼べますが、その時間が新たな価値を生む業務に再配分されなければ、組織全体の収益や競争力にはつながりません。

技術ベンダー側もモデル性能とトークン単価の競争に集中してきたため、人材と組織能力の形成という需要側の論点は後回しになりがちでした。導入企業の側でも、生成AIを情報システム部門の予算枠で扱う限り、組織横断の人材戦略として語る場面は限られていた状況です。投資対効果の議論を、ツールから組織能力へと移し替えることが求められています。

個人の効率化と組織成果のあいだに横たわる溝

Gartnerは、個人の生産性向上がそのまま組織の成果に直結するわけではないと指摘しています。生成AIによってメール作成や資料要約、コード生成などの所要時間が縮まる事例は広がっているものの、それが部門売上や付加価値の伸びとして観測されているケースは限定的です。

現場で生まれる余剰時間は、これまで後回しにされてきた既存業務に充てられる傾向があり、結果として従来業務の延長線にとどまる構図が指摘されています。Gartnerはこの状況について、組織として新たな価値創出を狙うのであれば、短縮された時間を意図的に価値創出型の業務へ再配分することが必要だと整理しています。

この再配分の設計はマネジメント側の責任領域となります。営業部門であれば顧客提案の質的深掘りに、研究開発部門であれば仮説検証の回数増加に振り向けるなど、業務再設計と一体で運用することが求められています。個人効率化と組織成果のあいだに横たわる溝は、現場任せでは埋まりにくい構造を持つと考えられます。

「WILL」と「ケイパビリティ」が生産性の本質を決める

Gartnerは、生成AIの効果を引き出す要因として、個々人が自らの意思で活用法を試行錯誤する「WILL」と、そこから獲得される能力「ケイパビリティ」、いわゆるAI筋肉の形成を挙げています。亦賀氏はこれを山登りに例え、基礎的な力を段階的に養わなければ高い成果には到達しないと説明しています。

この見立ては、AIを技術導入の問題ではなく人材育成の問題として捉え直す視座を提供するものです。プロンプト設計や業務適用ノウハウは、研修で一度に習得できるものではなく、日常業務での試行錯誤を通じて身に付く性質のものとなります。

国内企業の現場でも、好奇心と業務改善意欲を持つ少数の人材が先行的に成果を生み、その手法を周囲に広げていく事例が増えている状況です。一方、全社一律のリスキリング施策に頼る企業ほど、活用が形式化しがちで成果が散発的にとどまる傾向も指摘されています。WILLを尊重しケイパビリティを段階的に高める設計が、組織全体の生産性に直結すると考えられます。

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段階的アプローチとJカーブの現実

Gartnerは、生成AIの効果は導入直後から全員に一律に現れるわけではないため、ケイパビリティを持つ一部の人材が先行して成果を出し、組織全体に展開していく段階的アプローチが有効と説明しています。新しいテクノロジー導入時に一時的な生産性低下を経て向上に転じる、いわゆるJカーブの存在も挙げています。

このJカーブは、業務プロセスの再設計、データ整備、社内ガイドラインの策定など、利用拡大に伴う準備コストが先行するために生じるものです。導入初年度に効率化が見えないことを理由にプロジェクトを縮小すると、習熟段階に至る前に投資を取り下げる結果となります。

経営層には、四半期単位の成果指標と、人材育成や業務再設計を含む中期的な投資計画を切り分けて評価する仕組みが求められています。米国企業の一部では、生成AI関連投資をR&D予算に近い枠組みで管理し、短期ROIではなくケイパビリティ蓄積の観点から評価する動きも広がっている状況です。日本企業にも、評価軸そのものの再設計が問われていると考えられます。

余剰時間の再配分はマネジメントの責任領域

生成AIで生まれる余剰時間をどう使うかは、現場任せでは付加価値に結びつきにくいとGartnerは指摘しています。亦賀氏は、短縮された時間を意図的に価値創出型の業務へ再配分することが必要であり、これはマネジメントが設計する領域だとしています。

実務的には、業務棚卸しの段階で「効率化対象業務」と「価値創出業務」を分類し、生成AIで節約された時間の振り向け先をあらかじめ定義する手法が考えられます。営業ではアカウント深耕、開発では新規機能の仮説検証、コーポレート部門では制度設計やリスク分析など、組織として伸ばしたい領域に再配分する設計です。

ここで衝突しがちなのが、現場マネージャーの評価指標と全社目標のズレです。短期的な処理件数で評価されるマネージャーほど、節約時間を新規業務ではなく既存業務の追加処理に充てる傾向があります。評価指標を価値創出側に寄せる人事制度の見直しが伴わなければ、生成AI投資は組織成果に転換されない構造が残ると考えられます。

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People-Centricへの転換と国際競争

亦賀氏は、生成AIの本質は仕事の再設計とマネジメントにあるとし、管理職や経営層がPeople-Centricの観点から人を「大事に、元気に、活躍いただく」責任ある将来像を示す必要があると述べています。人を歯車のように扱い効率のみを追求する発想では、AI導入以前にモチベーション低下を招くといいます。

世界的にも、生成AI活用の競争軸はモデル性能から、組織能力と業務再設計に移りつつある状況です。米欧ではAIガバナンスや人材政策を含む包括的な企業変革が議論されており、日本企業も同じ土俵で評価される段階に入っています。

国際競争の観点でも、ケイパビリティ形成に投資できる企業ほど、業界横断的なAIユースケース蓄積で優位に立つと予想されます。逆に、ツール導入を成果として誇示するにとどまる企業は、数年後の競争力で差をつけられる可能性が考えられます。生成AIを経営課題として扱い、人材戦略と業務再設計を統合する姿勢が、産業競争力の差を生む要素として重要となります。

今後の展望

生成AI市場は2026年以降、ツール販売中心のフェーズから、組織能力形成を支援するサービス市場へと重心を移すと予想されます。コンサルティング各社や大手SIer、人材育成企業が、業務再設計とリスキリングを一体提供するメニューを拡充していくでしょう。

政策面でも、リスキリング支援の補助制度や、AIガバナンスを巡る指針整備が進む状況です。経済産業省や総務省が議論する人材育成の枠組みは、生成AI活用を前提とした内容にシフトしていくと考えられます。

企業に求められるのは、ツール導入の進捗管理から、ケイパビリティ蓄積の指標化への転換です。WILLを持つ人材を可視化し、業務再設計の権限をマネジメント層に明確に与え、評価制度を価値創出型に再構築することが必要となります。

技術、人材、制度、競争環境が連動するなかで、生成AIの成果を享受する企業と取り残される企業の差が、今後数年で明確になっていくと予想されます。

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