ネオクラウドはAI時代のネットワーク要件を満たせるのか
調査会社Omdiaが2026年4月15日に発表したネオクラウド50社の監査レポート「Neoclouds Not Ready for AI Networking」では、AIワークロードが求めるネットワーク性能に対して多くのプロバイダーの準備が十分ではないとしています。
Neoclouds Not Ready for AI Networking, Omdia Warns
生成AIから予測AI、そしてエージェンティックAIへとワークロードの性質が移るなかで、低遅延・高耐障害性・主権対応を兼ね備えた接続基盤の整備が事業継続の前提となる状況です。計算資源の拡大だけでは差別化できず、ネットワーク基盤の成熟度が事業者選定の基準として重要となります。
今回は、Omdiaが挙げている5つのリスク領域、相互接続と主権の力学や、ネオクラウドの出自が規定する構造差、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

Omdiaが監査した50ネオクラウドの実像
Omdiaによると、調査対象の50社は計算資源の拡大には対応してきたものの、ネットワーク領域では課題が残るとしています。発表ではTelco B2B担当リサーチ・ディレクターのCamille Mendler氏が、バックボーンからエッジに至るまでの低遅延・耐障害性・セキュリティの確保がネオクラウド成否の前提になると述べています。
Omdiaが挙げているリスク領域は5つです。43%の事業者がネットワークエンジニアやセキュリティ専門人材の採用を急いでいる点、3分の1以上の事業者が契約上の責任範囲を限定している点、半数以上がインターネット相互接続点を活用していない点、46%が小規模なIPv4アドレスブロックしか保有していない点、そして5社に1社がIPトランジットを単一事業者に依存している点が挙がっています。
計算資源の豊富さだけでは選定基準として不十分となる状況を示しています。
AIワークロードの性質がネットワーク要件を再定義
Omdiaの資料では、AIモデルの種類によってネットワーク負荷の形が異なることが示されています。生成AIはユーザー端末とクラウド間で南北方向のスパイクを発生させ、予測AIはセンサーや車両からAIファクトリーへのサイクリカルかつ継続的なトラフィックを生成します。対してエージェンティックAIは、API同士、エージェント同士の東西トラフィックが恒常的に発生するといいます。
従来のクラウド設計で想定してきたフロント・エンド中心の帯域設計では、エージェント連携型のAIサービスを支えきれない状況です。データセンター内部およびデータセンター間の東西方向通信を低遅延で処理する設計思想が求められています。
AIの社会実装が進むほど、ネットワーク構造そのものの再設計が求められる展開となるでしょう。

Tier1バックボーンへの集中とIXP活用の偏り
Omdiaの調査では、Arelion、Cogent、Lumenを筆頭とする15社のTier1 IPバックボーン事業者が、ネオクラウドのIPトランジット関係全体の47%を占めるとしています。Cogentが8%、Arelionが7%、Lumenが6%、Zayoが5%と続き、NTTアメリカ、Tata Communications、Singtelなども一定のシェアを確保しています。
相互接続点(IXP)では、世界191カ所で合計64Tbpsのポート容量が利用されており、フランクフルトのDE-CIXが10%を占めるといいます。EquinixとDigital Realtyが最も多くのネオクラウドを自社設備内で接続しているとしています。
この集中構造は、効率的に見える一方で、地政学的リスクやルーティング主権の観点からは単一依存という別の脆弱性を生み出す状況です。
出自が規定するネットワーク成熟度の差
ネオクラウドの出自は多岐にわたります。1989年設立のNebius(検索エンジン由来)、1996年のGMOインターネットグループやさくらインターネット、1999年のOVHCloudといった通信・ホスティング系の事業者が早期に存在した一方、2010年代後半以降はビットコインマイニング、コンテンツ配信、AIネイティブ事業者の参入が相次いでいるといいます。
2017年設立のCoreweaveや2018年設立のCrusoe Energy Systemsはビットコインマイニング由来、2023年以降のTensorwaveやVoltage Park、2025年のCorvexなどはAIネイティブとして立ち上がっています。
出自の違いは、ネットワーク設計、IP資産管理、ピアリング文化の成熟度に影響を与えています。ビットコイン事業から転身した事業者は大規模電力インフラや冷却設備を強みとする一方、広域接続の運用経験やルーティング設計の蓄積が限定的な場合があります。
主権・責任・契約:エンタープライズ選定の評価軸
企業がAIを実装するにあたり、ネオクラウドのネットワーク成熟度を評価する視点として、認証・サービスレベル・データ主権への対応が重要となります。Omdiaは3分の1以上の事業者が契約上の責任範囲を抑えていると指摘しており、ネットワーク稼働率やセキュリティ、データ所在地に関するコミットメントの確認が求められています。
IP資産の観点では、46%の事業者が小規模なIPv4アドレスブロックしか保有していないといいます。IPアドレス所有はトラフィックのローカライズやルーティング制御、拡張性に寄与するため、成長余力を測る指標となります。
契約条項と技術資産の両面で、計算性能以外の評価軸を整備することが導入企業に求められる段階です。
欧州・アジアで進む接続戦略の再編
Omdiaは、ネオクラウドのネットワーク戦略が各地域で動いているとしています。パートナーシップや買収、自社構築を通じて、依存度が高まる接続基盤の整備を急ぐ展開です。フランクフルトのDE-CIXが全体ポート容量の10%を占める状況は、欧州におけるデータ主権と相互接続の要衝としての地位を示しています。
アジアではSingtel、Tata Communications、NTTアメリカなどが一定のシェアを確保し、地域内のAIワークロード循環を支える構図がかたちづくられています。日本国内ではGMOインターネットグループやSakura Internetが早期から存在する一方、AIネイティブ領域での存在感は限られている状況です。
欧米のTier1に依存しない接続ルートをどう確保するかが、アジア太平洋域の事業者にとって重要な論点となりそうです。
今後の展望
AI基盤競争の軸は、計算性能から接続性能、さらに主権とガバナンスの設計へと移行していくと想定されます。生成AIから予測AI、エージェンティックAIへとワークロードが移行するにつれ、トラフィック設計、低遅延の相互接続、IP資産の戦略的保有、契約上の責任分担の整備が事業者選定の評価軸として定着していくでしょう。
Tier1バックボーン15社への集中、主要IXPへの集積、そして出自による成熟度格差は、地政学的リスクと運用リスクの両面で企業のAI導入戦略に影響を与える展開です。導入企業には、計算資源の調達とは別立てで、ネットワーク要件に基づく評価指標を内製することが求められています。
