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CEOの80%が能力変革を予測――Gartner調査が描く自律型ビジネスへの移行構造

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米調査会社Gartnerは2026年4月23日、CEOおよびシニアビジネスエグゼクティブを対象とする調査結果を公表しました。世界中の469名を対象に、2025年第4四半期までの3四半期にわたって実施されたものです。

Gartner Survey Reveals 80% of CEOs Say AI Will Force Operational Capability Overhauls

調査では、80%のCEOがAIによって自社の業務遂行能力に高〜中程度の変化が必要になると回答し、企業戦略の関心軸が「デジタルビジネス」から「自律型ビジネス(Autonomous Business)」へとシフトしている構図が示されました。自己学習型のソフトウェアエージェントや機械顧客が意思決定を担い、新しい価値を生み出す経営モデルが、CEOの直近の経営課題として位置づけられ始めています。

今回は、Gartner調査の概要、自動化から自律化への時間軸、収益モデルへの影響、機械顧客の台頭、日本企業への示唆、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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「能力優先(Capabilities-First)」戦略の構造――469名CEO調査の概観

Gartner調査の対象は、CEOおよびシニアビジネスエグゼクティブ469名で、2025年第4四半期までの3四半期にわたって実施されました。

調査の中核となるメッセージは、80%のCEOがAIによって自社の業務遂行能力に高〜中程度の変化が生じると認識している点にあります。同社のDistinguished VP AnalystであるDon Scheibenreif氏は「自律型ビジネスとは、自己学習型のソフトウェアエージェントとマシンカスタマーが意思決定し、行動し、組織のために新しい価値を生み出す戦略です。CEOはこのシフトを直近の経営目標として捉えています」としています。

ここで問われているのは、デジタルビジネスと自律型ビジネスの違いです。Gartnerは「デジタルビジネスは組織が何をするかを変えるもの、自律型ビジネスは組織がどのようにそれを行うかを変えるもの」と整理しています。デジタル化の対象が「事業内容」から「業務遂行プロセスそのもの」へと移行している構図です。

この差異は、ツール導入ではなく組織の能力(Capability)そのものを再設計することを意味します。Gartnerが「能力優先(Capabilities-First)」という言葉でCEOに求めているのは、業務プロセス、人員配置、資産構成、財務構造といった企業の基礎構造を、AIを前提に組み直す視座です。

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自動化から自律化への時間軸――54%から13%への移行の含意

調査が示す数字のうち最も示唆的なのは、自動化レベルの変化予測です。

現状、54%のCEOが「自社の自動化は特定タスクに限られている」と回答しています。一方で、2028年末までにこの水準にとどまると見ているのは、わずか13%です。つまり、3年から4年の時間軸で、現在のタスク単位の自動化から、より広範な領域への自律化が進むシナリオが描かれています。

その先の姿は、二つの方向に分化しています。32%のCEOは、自己学習型で適応可能なAIツールを人間の意思決定支援として展開することを想定しています。一方、27%のCEOは、人間の介入を伴わずに業務が遂行される自律型ビジネスエコシステムへと移行していくと回答しています。

ここで示されているのは、AIが補助的な役割から、業務遂行の主体へと位置づけを変えていく局面です。GartnerのDistinguished VP AnalystであるDavid Furlonger氏は「CEOはAIが自動化のもう一段の積み重ねではないことに気づいています。AIは企業そのものを再構築するための触媒です」と指摘しています。

この時間軸は、企業のIT投資計画や人材戦略にとっても示唆を持ちます。2028年までという射程は、日本企業の中期経営計画のサイクルとほぼ重なるためです。

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収益モデルの再設計――取引型収益28%が直面する圧力

AIによる効率化は、競争上の脅威にもなり得ます。

調査では、28%のCEOが「取引型収益(Transactional Revenue)がAIによって最も大きなリスクにさらされる」と回答しています。AIエージェントが既存の仲介システムを迂回し、リアルタイムでの価格交渉や購買判断を自律的に担うようになると、取引手数料に依存する収益モデルが圧迫されるためです。

Furlonger氏は「AIエージェントが購買、価格設定、交渉を自動化することで、取引手数料が補ってきた余分なステップや非効率が消えていきます。CEOは収益モデルの見直しと、利益喪失を避けるための継続課金型・成果連動型の収益モデルへの転換を迫られています」としています。

ここで焦点となるのは、収益の発生地点の再設計です。一回ごとの取引に対して手数料を取る構造から、結果や成果に対する継続的な関係性へと、収益の根拠を移すという捉え方が妥当でしょう。

日本企業にとっても、商社、卸、決済仲介、広告流通といった取引仲介型の事業は、自律型エージェントの台頭によって構造的な見直しを迫られていく局面となります。サブスクリプション、成果報酬、マネージドサービスといった継続課金型へのモデル移行は、新規事業ではなく既存事業のアーキテクチャ変更として進めることが必要となります。

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顧客基盤の安定とマシンカスタマー市場の倍増

一方、AIが顧客基盤に与える影響について、CEOの認識は限定的です。

AIによって自社の顧客基盤が大きく変化すると見るCEOは17%にとどまっています。デジタル化の局面で同様の質問に対し39%が変化を予測したのに比べると、顕著に低い水準です。AIは新規顧客の獲得手段というよりも、既存顧客との関係を深化させる手段として位置づけられている構図です。

ここで論点となるのは、深化の対象が人間の顧客にとどまらず、機械顧客(Machine Customer)へと広がっている点です。Gartnerは2026年までに、急速に成長する機械顧客市場へのアクセスを目的とした専門部門や販売チャネルを持つ大企業の数が、2024年比で倍増すると予測しています。

機械顧客とは、自動化された購買エージェントや、IoTデバイス、AIアシスタントといった、人間を介さずに購買・契約・取引を担う主体を指します。この概念が経営の中核に組み込まれていくことは、マーケティング、営業、商品設計、顧客サポートのすべての業務が、人間と機械の両方の意思決定主体に対応する設計へと書き換えられていくことを意味します。

CIOにとっては、人間と機械の双方の意思決定者を支えるシステムを構築することが求められます。信頼性、正確性、データの整合性が、その中核に置かれることになります。

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日本企業への示唆――「能力再構築」という経営課題

ここまでの調査結果は、グローバル企業のCEOが描く近未来像です。日本企業の文脈で読み替えるとき、いくつかの論点が立ち上がります。

第一に、自律型ビジネスへの移行は、IT部門の課題ではなく経営課題として受け止められているかという問いです。Gartner調査でCEOの80%が能力変革を予測しているのに対し、日本企業の経営トップが同レベルの危機感を共有しているかは、検証が必要となります。

第二に、収益モデルの再設計です。日本企業の多くは取引手数料、仲介マージン、流通マージンを収益の柱に据えています。AIエージェントの介在が広がる時間軸と、自社の収益モデル転換の時間軸を重ね合わせて評価する作業が必要となります。

第三に、マシンカスタマー市場への対応です。製造業、素材、部品、エネルギーといった日本の強みを持つ領域では、相手側がAIエージェントになる構図が早く到来する可能性があります。専門部門・販売チャネルの設計を、人間顧客と機械顧客の双方を前提に組み直す論点が出てきます。

第四に、人員・資産・財務構造の再設計です。Scheibenreif氏は「CEOとCIOは、組織の業務基盤を再構築し、人員、資産、財務構造を再エンジニアリングするよう、組織を率いていく必要があります」と述べています。能力再構築は単一機能の改善では済まない総合的な作業と捉えることができるでしょう。

今後の展望

CEO調査が示す自律型ビジネスへの移行は、2026年から2028年にかけて、企業の競争条件を再定義していく流れと位置づけられます。

もし能力再構築が中期経営計画の期間内に進まなければ、取引手数料を主軸とする企業は、AIエージェントによる仲介迂回の影響を直接的に受けることとなります。逆に、継続課金型・成果連動型の収益モデルへと早期に転換できれば、AIによる効率化を自社の差別化要因として取り込むことが可能となります。

時間軸としては、2026年後半までに機械顧客市場への対応部門を設置できるかが、一つの節目となります。Gartnerの予測どおりに2024年比で倍増が起きるとすれば、出遅れた企業は機械顧客との取引関係を構築する機会を失っていく構図です。

加えて、2027年から2028年にかけては、自動化が「特定タスクに限定された段階」から、「自己学習型・適応型のAIによる意思決定支援」または「人間の介入を伴わない自律的な業務遂行」へと移っていく時間帯となります。この移行に伴って、人員配置、業務プロセス、財務構造の再設計が同時並行で進められるかが問われます。

日本企業にとっては、AI投資の意思決定を「IT予算の話」ではなく「経営構造の再設計」として捉え直し、人員、資産、財務、収益モデルの四つを一体で組み替える組織能力が問われています。その組み替えの速度と精度が、自律型ビジネス時代における日本企業の立ち位置を形づくることになると想定されます。

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