AIグラス市場、2026年に1,000万台突破へ ― Omdiaが予測
英調査会社Omdiaは2025年9月16日、AIグラス市場の最新予測を発表しました。
AI glasses market poised to hit 10 million units in 2026, Omdia forecasts
同社によると、2025年の世界出荷台数は前年比158%増の510万台に達し、翌2026年には1,000万台を突破する見通しです。さらに2030年には3,500万台規模に拡大し、2025年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)は47%を維持するとしています。
背景には、GoogleやXiaomiをはじめとする主要テック企業の参入や、生成AIの急速な実用化があります。一方で、プライバシー懸念や日常利用への抵抗感といった課題も指摘されています。Omdiaは「プラットフォーム非依存のAIが真に普及する鍵になる」と分析しています。
今回は、市場拡大の要因、主要プレイヤーの戦略、中国市場の台頭、そして技術的・社会的な課題について取り上げ、今後の展望を考えます。
市場成長の加速とその背景
AIグラス市場は2024年から急速に立ち上がり、2025年には世界出荷が510万台に達する見込みです。この急成長を後押ししているのは、スマートフォンやウェアラブルで培われたユーザー体験と、生成AI技術の進展です。従来の「スマートグラス」は、視覚的な拡張現実(AR)体験や通知機能にとどまりましたが、AIグラスはクラウドや端末上の大規模言語モデル(LLM)を活用し、音声や映像を組み合わせて文脈に応じた情報提供が可能といいます。
OmdiaのリサーチディレクターであるJason Low氏は、「AIを日常的なメガネに統合することは、生活体験を根本から変革する可能性がある」と指摘しています。ただし、プライバシー問題や社会的受容性といった障壁が依然として存在し、短期的にはアーリーアダプター層にとどまる可能性があることも警告しています。
メタの躍進とブランド戦略
市場の先行者として存在感を示しているのがMetaです。同社はエシロールルックスオティカとの提携を通じ、Ray-BanブランドのAIグラスを展開し、これまで「オタク的」とされがちだったスマートグラスをファッションアイテムとして普及させました。OmdiaのシニアアナリストであるQiran Ju氏は、「ブランド力と流通網の組み合わせが、過去のGoogle Glassのような失敗を克服する突破口となった」と評価しています。
Ray-Banという既存ブランドのカルチャー的価値を活かすことで、テクノロジー製品を生活に溶け込ませることに成功した点は、他社にとって大きな示唆を与えています。今後はGoogle、Xiaomiといった企業が追随し、エコシステムやデザイン面で差別化を図る競争が激化する見通しです。
中国市場の台頭と独自のエコシステム
Omdiaの予測によると、2026年に中国市場の出荷台数は120万台に達し、世界シェアの12%を占めると見込まれています。米国に次ぐ規模へと拡大する背景には、中国特有のデジタルエコシステムがあります。百度やアリババ、テンセントといった巨大IT企業に加え、Xiaomiやファーウェイといったスマートデバイスベンダー、さらに新興スタートアップが次々と参入し、独自の競争環境を形成しています。
生成AIの商用化が急速に進む同国では、音声認識から画像解析、リアルタイム翻訳まで、多様なユースケースがAIグラスに統合されつつあります。結果として、エンターテインメント、教育、ヘルスケアなど幅広い分野での普及が期待されます。他方で、規制や個人情報保護に関する国際的な議論は、中国市場の拡大をめぐる重要な焦点となるでしょう。
エコシステム戦略と課題
AIグラスは単体の製品ではなく、AIプラットフォームやデータサービスとの統合によって価値を発揮します。そのため各ベンダーは自社エコシステムにユーザーを囲い込もうとしていますが、これは一方で利便性の制約につながるリスクもあります。
Omdiaは「真にプラットフォーム非依存のAIが実現すれば、AIグラスは日常生活に欠かせない存在になり得る」と分析します。しかしそのためには、常にユーザーをサポートするためのデバイス間連携やデータ活用基盤が不可欠です。さらに、バッテリー持続時間、装着感、データセキュリティといった技術課題が克服されなければ、普及は限定的にとどまる可能性があります。
今後の展望
AIグラスは2026年に1,000万台を突破し、2030年には3,500万台規模に成長する見通しです。短期的にはファッション性やブランド力を武器にした製品が市場を牽引し、長期的には生成AIの進化とマルチモーダルな機能拡張によって実用性が高まることが期待されます。
一方、プライバシーや社会的受容性、エコシステムの閉鎖性といった課題は残ります。これを解決するには、透明性の高いAIの設計と、業界横断的な相互運用性の確保が求められています。データセキュリティや規制対応は市場拡大の成否を左右する要因となるでしょう。
企業は、AIグラスを通じて「どのようなユーザー体験を実現するか」が重要な競争軸になります。生活支援や業務効率化、エンターテインメントといった具体的なユースケースを示すことで、市場拡大の加速が期待されます。
今後、AIグラスはスマートフォンやスマートウォッチに続く「次のプラットフォーム」として成長する可能性があり、その市場の行方を注目していきたいと思います。
出典:Omdia 2025.9