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生成AIの進展でクラウド市場の成長率は25%に

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ChatGPTの公開から2年余り、生成AIの実用化がクラウドサービスの需要曲線を鮮明に塗り替えています。Synergy Research Groupによれば、2025年1〜3月期のクラウドインフラ支出は前年同期比23%増の940億ドルへ拡大し、為替影響を除けば伸び率は25%に達しました。AI計算需要が高性能GPUや専用ネットワークを押し上げ、市場全体の成長率を従来より約7ポイント引き上げています。

今回はSynergy Research Groupが2025年5月1日に発表した「AI Helps Cloud Market Growth Rate Jump to Almost 25% in Q1」の資料をもとに、クラウド市場の背景や成長要因、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

生成AIが成長率を押し上げる

クラウド需要の加速は単なるワークロード移行ではなく、生成AIに最適化した演算基盤へのシフトが牽引しています。Synergy Research Groupは、2022年末からの累計成長率が52%に達したと指摘し、そのうち約7ポイントは生成AIの追加需要によるものだと分析しました。

推論・学習処理は高密度GPUクラスターを前提に設計されるため、ベアメタルGPUサービスやInfiniBand互換ネットワーク、超高速ストレージがセットで採用されます。これがクラウド事業者の平均単価を押し上げ、売上高を底上げする仕組みです。生成AI特化サービスだけを見れば前年同期比で140〜160%という爆発的伸びが観測され、生成AIブームが一過性でないことを裏付けています。

寡占化するトップ3

市場シェアはアマゾン29%、マイクロソフト22%、グーグル12%で、上位3社が合計68%を握る構図が続きます。

AWSはEFAやTrainiumチップでAI計算コストの最適化を訴求し、規模の優位を維持しました。一方、AzureはOpenAI連携を前面に出し、モデル開発環境と企業データ統合を鍵に案件単価を伸ばしています。Google CloudはTPU v5pなど自社AIアクセラレータの世代更新を高速化し、特定業界向け生成AI APIを拡充することで差別化を図ります。

いずれも巨額のデータセンター投資を継続しますが、重視する指標は異なり、汎用演算コストかモデル精度かで強みが分岐しています。こうした多層戦略が急増するAI需要の取り込み合戦を過熱させています。

台頭するティア2:CoreWeaveが生成AIで急拡大

巨大3社の背後には、GPUに特化したCoreWeaveが"ゼロからの急伸"を遂げ、12位以内への躍進が目前です。AI推論向けA100/H100クラスタをレンタルできる柔軟性と、オープンソースモデルの学習に適した課金体系が支持を集めました。

またOracleはデータベース連携、DatabricksやSnowflakeはデータクラウド基盤との統合で開発者コミュニティを広げ、CloudflareはエッジAIを訴求しています。ハードウエアの差別化からサービス設計まで、ティア2各社は自社の"尖った価値"を工夫し、AI時代のすき間の市場を狙っています。

結果として競争軸は多様化し、企業はワークロードごとに最適サービスを組み合わせるマルチクラウド運用を加速させています。

地域別ダイナミクスとローカル通貨成長

地域別に見ると、ブラジル、スペイン、イタリア、韓国、インド、オーストラリア、インドネシアなどが現地通貨ベースで世界平均を上回る伸びを示しました。

米国は規模で依然突出し、APAC全体を単独で上回る大市場ですが、伸び率も24%と高水準を維持しています。

欧州ではアイルランドのハイパースケール投資が続き、スペイン・イタリアの需要拡大がドイツ・英国を追い上げています。

各国政府が生成AIの国内活用を政策目標に掲げる動きが追い風となり、電力確保や土地規制を巡るローカル課題が浮き彫りになっています。それでも需要側の勢いが強く、グローバル事業者はエリアごとのエネルギーミックスとネットワークレイテンシを見極めながら、投資配分を加速しています。

今後の展望

今後、クラウド成長率を決める鍵はAIワークロードです。生成AIのモデルサイズが大規模化する一方、企業の実装フェーズは実験から本番運用へ進み、推論コストの最適化とガバナンス対策が差別化要因になります。

上位事業者は自社チップ開発で経済性を高めると同時に、SaaS連携や業界特化APIで収益源を多層化する方向です。ティア2は専門性と迅速性で隙間を突き、マルチクラウド間の接続性をサービスに組み込むことで市場参入を加速させていくことが想定されます。

一方、電力供給、冷却方式、AI人材の逼迫が投資計画の制約として顕在化し、サステナブルなデータセンター設計とエネルギー調達のトレードオフが経営課題として顕在化しています。

2025年度後半以降は、エッジ側での小型LLM運用や推論専用GPUの低価格化が新たな成長波を呼び込み、クラウド市場は"AIインフラ最適化競争"の段階へシフトしていくでしょうか。

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出典:Synergy Research Group 2025.5

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