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地域活性化起業人と地方創生

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近年、都市部に偏在している経営・技術・マーケティングなどのノウハウを地方へ還流させる取り組みが増えてきました。都市部の企業に所属する人材が地方自治体に派遣されることで、双方に新たな気づきや学びが生まれ、地域の課題解決につながる動きが活発化しています。

こうした流れの背景には、人口減少や高齢化が進む地方自治体の現場で、多角的な支援が求められていることが挙げられます。一方で、企業側も社会貢献と人材育成を両立させる機会として、地域との連携を積極的に模索している現状があります。この取り組みが、「地域活性化起業人」です。

今回は2025年4月4日に発表した「令和6年度における地域活性化起業人の資料」をもとに、地域活性化起業人の背景や概要、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

総務省|報道資料|令和6年度における地域活性化起業人の状況等
今般、令和6年度に活動した地域活性化起業人の活動状況等をとりまとめましたので、 別紙 のとおりお知らせします。

「地域活性化起業人」の概要

地域活性化起業人は、三大都市圏に所在する企業などの社員が一定期間、地方自治体で業務に従事し、その知識や知見を活用して地域の魅力発掘や産業振興に取り組む仕組みです。

総務省の資料によると、令和6年度の受け入れ自治体数は全国で439団体に上り、派遣された人材は企業派遣型が780人、副業型が91人となっています。企業派遣型の場合、企業と自治体が協定を結び、月の半分以上は現地で活動します。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

一方、副業型は企業に勤める個人と自治体が直接契約を交わし、月4日以上かつ20時間以上を目安に地域で活動するかたちです。こうした取り組みにより、都市部の社員が地域に入り、観光振興やDX推進、地域産品の開発などへ貢献し始めています。

「地域活性化起業人」は企業派遣型と副業型のパターンに

令和6年度には、企業派遣型と副業型を合わせて871人が全国各地の自治体で活躍しました。これは前年から92人増加した数値で、地域に対する企業・個人双方の関心が高まり続けていることを示唆しています。性別比を見ると、全体のおよそ8割が男性、2割が女性でした。年齢層では企業派遣型の場合40歳以上の社員が多いのに対し、副業型では30代から40代が主体となっています。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

実際に企業派遣型を活用した企業は390社にのぼり、大手旅行会社や通信事業者、ITコンサルティング企業などが積極的に参画しています。一方、副業型は「個人」の契約形態であるため企業数としてのカウントには含まれませんが、所属企業の幅は多岐にわたります。こうした多様なバックグラウンドが、地域課題への新しい解決策を生み出す原動力にもつながっています。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

「地域活性化起業人」の具体的な活動事例

観光振興や地域産品の開発など、多彩な分野での活用が見られます。企業派遣型では、令和6年度の分野別内訳で「DX推進」が最も多く255人(全体の約29%)に上り、次いで「観光振興・観光誘客対策」が189人(約22%)となっています。

たとえば福岡県川崎町とIT企業が連携し、庁内の業務効率化や町内商工会のデジタル化に取り組む事例があります。また観光の面では、愛媛県八幡浜市と大手航空会社が連携し、ご当地グルメや特産品の全国発信を成功させました。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

副業型の事例では、岐阜県山県市とIT企業が連携して中小企業のDX化を支援したり、北海道訓子府町でまちづくり会社の設立準備を進めたりと、住民目線で柔軟な活動が行われています。いずれも都市部の豊富なノウハウや広範なネットワークが、地方の新たな魅力創造につながっているのが特徴です。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

「地域活性化起業人」による自治体・企業が得られるメリット

企業派遣型や副業型の取り組みが拡大する背景には、自治体と企業それぞれのメリットがあります。自治体側にとっては、自前では確保しづらい専門知識や広い人脈を活用できる点が大きいです。たとえばデジタル技術の導入、地域ブランディングの強化、新商品開発と販路拡大など、自治体単独では実現が難しかった取り組みを外部の知見で実行できるようになります。

また、企業側にとっては社会貢献や地域連携によるブランドイメージ向上に加え、社員の視野拡張や新規ビジネスのヒントにつながる場合もあります。副業型の場合、比較的短いスパンで始められるため、企業が抱える人材リソースを効率よく地域に還元する手段としても注目されています。

こうした取り組みを通じて、都市部と地方の双方向の学びが進み、新たな経済循環を生み出す可能性も想定されます。

今後の展望

今後は企業派遣型に加えて副業型、さらには令和7年度から始まるシニア起業人の活用への期待も高まっています。シニア層は長年の職業経験や専門スキルを持ち、地域課題の解決に即戦力として貢献できると期待されています。実際に、企業と連携しながら定年後に地域へと移り、農業や観光など新たなチャレンジを始める動きも生まれています。

出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4
出典:総務省 令和6年度における地域活性化起業人の状況等 2025.4

オンライン会議やリモートツールの普及で地理的な制約が緩和され、遠隔でもコンサルティングやプロジェクト管理を実施しやすくなっています。今後は官民が一体となり、地域活性化起業人などを通じて、地方創生の継続的な取り組みがますます求められていくでしょう。

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