国内ITサービス成長は、モダナイゼーションとAI活用
日本企業におけるIT活用が一気に加速しています。生産年齢人口の減少やグローバル競争の激化などに直面する中、企業は既存システムを抜本的に見直し、クラウド化やAI(人工知能)の活用に踏み切る必要性が高まっています。こうした動きに伴い、ITサービス市場は大幅な成長が期待されていますが、その一方で技術者不足やシステム運用の複雑化など、乗り越えるべき課題も浮かび上がっています。
成長とリスクが表裏一体で進む今、どのような視点をもってITサービスを活用するかが企業の競争力を左右する鍵といえるでしょう。今回は国内ITサービスの市場トレンドとともに、モダナイゼーションやAIのユースケース拡大がもたらすインパクトについて取り上げたいと思います。
国内ITサービス市場の拡大、投資意欲は顕著に
IDC Japanの予測によると、国内ITサービス市場は2024年から2029年まで年平均成長率(CAGR)が6.6%で推移し、2029年には9兆6,225億円規模に達すると予測しています。2024年は7兆205億円と前年比7.4%増が予想され、企業のデジタルビジネス化に向けた旺盛な投資意欲が顕著になっています。
国内ITサービス市場予測を発表~AI活用の実践とユースケース拡大が市場成長を促進~
背景には、長らくメンテナンスを続けてきたレガシーシステムからクラウド環境への移行が企業課題として浮上していることがあります。大企業のみならず、中堅・中小規模の企業でもクラウド化やモダナイゼーションのニーズが高まり、ITコンサルティングやシステムインテグレーションサービスの需要を底上げしています。官公庁や地方自治体でも、大型の既存システム刷新や自治体システム標準化が進むなど、公共分野の需要拡大が市場全体の成長を後押ししています。
出典:IDC Japan 2025.3
プロジェクトベース市場とマネージドサービスの動向
ITサービスの中でも、レガシーシステムのモダナイゼーションやクラウド移行を支援するプロジェクトベース市場が大きく伸びる見込みです。ITコンサルティングやシステムインテグレーション(SI)企業は、高度な専門知識をもとに企業独自のシステム要件に合わせた最適化を進めており、これがビジネス変革の推進役となっています。
一方で、マネージドサービス市場は従来型の運用管理サービス支出が減少傾向にあるものの、クラウド基盤の運用・監視を請け負うサービスやホールセールコロケーションサービスが堅調に拡大しています。クラウド環境の最適化やセキュリティ対策は企業にとって専門性が高い領域であるため、外部パートナーの活用が避けられない状況になっているのです。
AI活用の本格化とユースケースの広がり
IDCはAI利活用がPOC(Proof of Concept)から実践フェーズへと移行し、ビジネス全体を変革する主役として定着すると見ています。これまでAIは画像解析やチャットボットなど、限定的な導入事例が多い傾向でした。しかしビッグデータ解析や予測モデルの高度化が進み、AIのユースケースは製造ラインの自動制御や金融商品開発、店舗の在庫予測など多岐にわたる分野で急拡大していくと予測しています。
製造業ではIoTセンサーのデータをAIで分析し、故障リスクや生産効率をリアルタイムで予測する取り組みが進んでいます。金融業では与信管理やリスク評価にAIが活用され、流通業では需要予測の精度向上や顧客へのパーソナライズ提案など、新たな競争優位を生むチャンスが広がっています。
国内ITサービス市場成長における課題も
成長が見込まれる国内ITサービス市場ですが、課題も少なくありません。まず、人材不足が深刻です。モダナイゼーションやAIといった先端技術に精通するエンジニアは限られており、プロジェクトが集中することで開発リソース確保が難しくなっています。
セキュリティやデータプライバシーの問題も大きな懸念事項です。クラウド上での運用が一般化するほど情報漏えいリスクは高まり、AIモデルに用いるデータの扱い方には法的・倫理的な配慮が欠かせません。システム刷新やAI導入に費用と時間を投じても、現場ニーズとの乖離が生じたり、運用フェーズで想定外のトラブルが発生したりすれば、ROIが低下する恐れもあります。
さらに、各業界でDXが加速するにつれ、企業規模や地域によるIT活用の格差が拡大する懸念も指摘されています。都市部の大企業だけが最新技術を取り入れて効率化やイノベーションを加速させる一方、リソースが限られた企業や地域では導入が進みにくいケースも少なくありません。こうした格差が広がれば、社会全体での生産性向上やサービス水準の底上げを阻害する要因になりかねないでしょう。
成功へのポイントと導入戦略
ITサービスの活用を成功させるには、経営陣の明確なコミットメントと現場との連携が不可欠です。トップダウンだけではなく、現場の知識や要望を反映したボトムアップの提案を融合し、短期的な成果と長期的なビジョンを両立させるアプローチが望まれます。とりわけAI導入にあたっては、目的や効果を定量的に示したロードマップを作成し、小さな成功体験を積み重ねることで組織全体の理解と協力を得やすくなります。
また、パートナー企業との連携や協業体制の構築は、専門人材不足を補完するうえで重要です。最新のクラウド技術やデータ分析手法を熟知した外部人材との協業によって、社内リソースを有効に活用しつつ、プロジェクトのスピードと品質を高めることができます。加えて、自治体や教育機関などと連携して次世代IT人材を育成し、長期的な視点での競争力強化を図る取り組みも求められています。
今後の展望
2025年以降の国内ITサービス市場は、クラウド化とモダナイゼーションの波がさらなる拡大をもたらすと同時に、AIが多様な業種で本格導入される段階へ移行すると考えられます。製造業、金融業、流通業の各セクターはそれぞれの業務プロセスをAIで高度化することで競争優位を確立し、公共分野でも自治体システム標準化などを通じて行政サービスの効率化が進むでしょう。国内企業が海外市場を視野に入れたDX戦略を推進する動きも広がり、グローバル基準でのセキュリティ・コンプライアンス対応も不可欠になっていくと予想されます。