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AIデータセンターのネットワーク設計とセグメンテーション手法

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AI活用が急速に広がるなか、データセンターのネットワーク設計にも新しい要件が求められています。

高性能GPUサーバーや大容量ストレージを支える基盤であるAIデータセンターネットワークは、従来のインフラ構成と比較して拡張性や運用管理の熟度が求められ、しかもセキュリティ対策も欠かせず、マイクロセグメンテーションと呼ばれる技術にも関心が集まっています。

AI特有のワークロードや大量データを扱うネットワークを効率的かつ安全に運用するためには、接続形態やセグメンテーション手法を柔軟に選択できる環境が重要となっています。そうした観点から、業界内ではInfiniBandとイーサネットの共存シナリオが検討され、導入企業も増加傾向にあります。

今回はIDC Japanが2025年4月14日に発表した「AIデータセンターネットワークとセグメンテーションに関する調査結果」をもとに、その背景や概要、今後の展望などについて取り上げたいと思います。

AIデータセンターネットワークの背景

AIを支える基盤として、多数のGPUサーバーや大容量ストレージが相互にデータをやり取りするAIデータセンターネットワークは、近年大きな注目を集めています。

AIワークロードは膨大なデータ量を高速に処理するため、ネットワークに求められる帯域幅や低遅延の要件は高度化しています。これまでこうした要件を満たすネットワーク技術としてはInfiniBandが中心的な存在でしたが、技術の進歩やベンダーの拡充によってイーサネットの信頼度も高まりました。AIの学習に適したバックエンドネットワークでは、高い拡張性や運用経験が豊富というイーサネットならではのメリットに注目が集まっています。さらに、マルチテナンシー機能に対応したイーサネットソリューションが整備されつつあり、新たな導入形態を可能にしています。

イーサネットのメリットと成長可能性

今回の調査によれば、AIデータセンター向けイーサネットスイッチ市場は2024年から2029年まで年平均成長率(CAGR)42.0%と予測され、2029年には489億円に達すると見込まれています。

これはAIワークロードの拡大や、GPUクラスタなどを支えるネットワークとしてイーサネットの導入が加速するためといいます。イーサネットは運用管理ツールが成熟しており、ベンダーが多いことから幅広いソリューションを選びやすい環境が整っています。さらに広帯域化のロードマップが明確であり、大規模環境への対応も視野に入れやすい点が評価されています。ただし、AIの進化スピードは極めて速く、不透明な要因も多いため、実際の市場規模が予測を下回る可能性も残されています。

セグメンテーション再注目の背景

一方で、セキュリティ対策として見直されているのがセグメンテーションです。セグメンテーションはマイクロセグメンテーションとも呼ばれ、利用者の役割やアプリケーションの権限に応じてネットワークを複数のセグメントに分割し、境界を細かく管理する手法です。これは決して新しい発想ではありませんが、脅威が侵入した場合に横方向への広がり(ラテラルムーブメント)を抑える効果が再認識されたことや、事前対策の重要性が増していること、そしてセグメンテーションそのものの知名度が高まったことにより、再び注目を集めるようになっているといいます。

セグメンテーションの価値提案

IDCの見解によると、セグメンテーションはサイバーハイジーンの観点から脅威の侵入を防ぎ、ネットワークを健康な状態に保つうえで効果的な対策として位置づけられます。可視化や柔軟性、自律制御機能を備えたソリューションを適切に活用することで、ネットワーク全体の防御力が高まり、事後対策だけでなく事前にセキュリティを強化できる意義があります。ただ導入企業が増えるほど、その運用やルール設計の煩雑さが課題になるケースもあります。そこでベンダー側は運用管理を簡素化する機能強化を進め、セグメンテーションが多様なユーザー層に受け入れられるよう働きかけています。

今後の展望

今後はAIを活用する領域が拡大し、データセンターのネットワーク構成もより多様化すると予想されます。膨大なデータ処理を高速かつ安全に行うためには、AI専用ネットワークに求められる要件はさらに厳しくなるでしょう。その一方で、セグメンテーションを中心に据えたセキュリティ対策の需要も一層高まりそうです。AIワークロードとセグメンテーションの両面からインフラへの投資が進むにつれ、InfiniBandとイーサネット双方の技術革新や、クラウド事業者によるソリューション開発が活性化すると見込まれます。ユーザー企業は、自社のワークロード特性とセキュリティ要件を総合的に検討し、最適なネットワーク設計を実現する必要があります。

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出典:IDC Japan 2025.4

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