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生成AI、企業が見極めるべき3つの視点

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生成AIは、人工知能の進化を具体的に示す象徴的な存在として、近年注目を集めています。企業の業務効率化や新サービスの開発ばかりでなく、消費者向けデバイスにもAI機能が標準装備される時代が到来しつつあります。

こうした流れは産業界の予測を大きく上回るスピードで進展し、その影響度合いは広範囲に及ぶことが想定されます。企業の競争力強化や社会全体の利便性向上に資する一方で、初期導入段階におけるPoC(概念実証)の失敗率や成果の不透明さに対する不安も少なくありません。生成AIの性能を支える基盤モデルの成長はめざましいものの、その真価を引き出すためのIT部門やビジネスサイドの取り組み方が大きな鍵を握るといえます。

今回は2025年3月31日に発表したGartner社の資料をもとに、生成AIの背景やインパクト、ハードウェアへの影響、今後の展望などについて取り上げたいと思います。

Gartner Forecasts Worldwide GenAI Spending to Reach $644 Billion in 2025

生成AIの背景と現状

生成AIは、人間が作成するのと見分けがつかないコンテンツを自動生成する技術として広まりました。大規模言語モデルなどが相次いで登場し、テキストや画像の生成だけでなく、ビジネスロジックの提案やプログラムコードの生成など、応用の幅が広がっています。しかし、こうした大きな盛り上がりに反し、PoC段階で期待を下回る成果に終わるケースも増えつつあるようです。

Gartnerのアナリスト、ジョン=デイビッド・ラブロック氏によれば、生成AIに対する過度な期待はしぼみ始めており、実際のビジネス価値を問われる段階に移行しているといいます。

一方で、基盤モデルを提供する事業者は年々巨額の投資を続けており、モデルの規模や性能、信頼性をさらに高める方向性が鮮明になっています。こうしたギャップがしばらく続く中、生成AIがもたらす価値に対する見極めと実装戦略が企業側に求められています。

Gartner予測が示すインパクト

Gartnerによると、2025年の生成AI関連支出は前年から76.4%増の6,438億ドルに上る見込みです。この急拡大の主因としては、ハードウェア分野におけるAI機能の標準搭載化が挙げられます。スマートフォンやPCなど、消費者向けデバイスにおける生成AI機能の搭載率は今後ますます高まり、2028年頃にはほぼ全デバイスがAI対応になるとされています。

しかし、Gartnerは消費者が自発的に「AI機能付き端末が欲しい」と強く求めているわけではない点も強調しています。メーカー側が標準仕様としてAI機能を盛り込むことで、結果としてユーザーが生成AI技術を活用できる環境が自然に拡大していくというわけです。この動向に合わせ、企業は新製品・サービスへのAI機能導入の検討を急速に進める必要があります。

CIOの視点と変化する導入戦略

企業が生成AIを実際にビジネスへ取り入れる上では、CIO(最高情報責任者)の視点が重要です。2024年に多くの企業が野心的な内製プロジェクトを立ち上げるものの、成果を得るには時間がかかり、高い失敗率が明らかになるだろうと予測されています。

そのため、2025年以降は自社でPoCや独自開発を続けるよりも、すでに成熟したAI機能を搭載するソフトウェアを選択する傾向が強まる可能性があるといいます。これは、急激に進化する基盤モデルの性能を常にアップデートし続けるコストやリスクを自社内で負うよりも、市場で提供されるソリューションを活用する方が投資対効果を高めやすいためです。

従来のIT導入と同様に、安定したパッケージソフトウェアやクラウドサービスを使う形で、生成AIの恩恵を享受する戦略にシフトしていく企業が増えるとみられます。

ハードウェア市場への影響とビジネス機会

Gartnerは生成AI市場の支出構成を詳細に分析しており、2025年には全体の80%がハードウェアに向かうと試算しています。高性能サーバーはもちろん、スマートフォンやPCなども含めた「AI対応機器」が消費者・法人の両面で需要を牽引する形です。

企業にとっては、従業員に配布する端末の更新サイクルを利用してAI対応デバイスを導入することで、業務プロセスやカスタマーサポートを効率化できる可能性があります。これらのデバイスに実装されたAI機能は、ディープラーニング用の専用チップから音声認識や画像解析機能まで多岐にわたります。

こうしたハードウェアの進化によって、データ分析やモデリングのリアルタイム化が進み、企業が生成AIをビジネス変革に活用できる幅がさらに広がるでしょう。

今後の展望

生成AIは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスなどを横断する形でビジネスの在り方を変えていくと考えられます。PoCの失敗率が高いという現実がある一方、基盤モデルの改良やソフトウェアの高度化により、より安定したAI機能を簡単に活用できる環境が整いつつあります。

これによって多くの企業は、独自開発よりも成果を確実に得やすいソリューションの導入へと軸足を移し、市場全体としては堅実な拡大が続くと推測されます。一方で、AI機能の標準化が進むほど、企業が付加価値を生み出す創造的な使い方がいっそう求められる局面に移るでしょう。

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