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信頼が会社を動かす:人事が今すぐ取り組むべき4つのこと

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生成AIの導入、業務プロセスの刷新、世界規模の情勢変動──企業を取り巻く環境はかつてない速度で変化し、人々の働き方や価値観も揺れ動いています。こうした不確実性の高い時代に組織が持続的な成果を上げる鍵は「従業員が経営層を信頼できるかどうか」に集約されます。

ガートナーの調査では、上層部を信頼する従業員はエンゲージメントが有意に高く、生産性と定着率も向上することが示されています。逆に信頼が損なわれると、情報隠蔽や責任転嫁の連鎖が起こり、パフォーマンス低下と離職増加を招きます。今回はGartnerが2025年4月22日に発表した『HR Leaders Take Four Key Actions to Build Employee Trust Amid Times of Disruption』の資料をもとに、信頼構築の背景や概要、今後の展望などについて取り上げたいと思います。

組織パフォーマンスと信頼の相関

信頼は心理的安全性を支える土台であり、従業員が自律的に挑戦し、組織目標を自分事として捉える動力源です。ガートナーによると、経営層を信頼する従業員は業務に費やす努力が1.8倍、推奨意向が2倍に達するといいます。給与水準や福利厚生を上回るインパクトを持つため、経営指標としてKPIに組み込む価値があります。信頼が高まるほどイノベーション提案や問題提起が活発化し、経営陣は現場の知見を迅速に意思決定へ反映できます。結果として事業スピードが上がり、変化への適応力が向上します。

行動① 信頼診断と改善サイクル

最初の一手は現状把握です。人事部門はエンゲージメントサーベイに信頼項目を追加し、部門別フォーカスグループや1on1インタビューを活用して温度差を可視化します。データは速やかに全社員へ共有し、経営陣が改善計画と進捗を自ら発信することで「声が届いた」という実感を生み出します。また、調査頻度を年1回で終わらせず、短期のパルスサーベイを併用すると、変化の兆しを早期に捉えやすくなります。フィードバックが継続して行動につながる循環が構築されれば、信頼は雪だるま式に高まります。

行動② 意思決定の透明化

信頼を揺るがす主因は「情報不足」です。経営層が意思決定の背景や評価軸を開示しないまま施策を導入すると、従業員は猜疑心を抱きます。ガートナーの分析では、意思決定を説明するリーダーは説明しないリーダーより4.3倍信頼されやすいといいます。透明化には三つの段階があります。第一に、決定に至るプロセスを要約し共有すること。第二に、期待される影響とリスクを明示すること。第三に、実行後に結果を振り返り、成功点と改善点を公表することです。タウンホールミーティング、社内ポッドキャスト、動画メッセージなど多様なチャネルで繰り返し届けることで、社内の理解と納得を醸成できます。

行動③ 経営層と従業員の対話設計

診断と透明化の基盤ができたら、次は双方向の対話を仕組み化します。オンラインAMA(Ask Me Anything)や少人数ラウンドテーブルを月次で実施し、従業員が疑問や懸念を直接経営陣へぶつけられる場を設けます。対話の目的は"問題点の抽出"だけではありません。共通の価値観を確認し合い、組織文化をアップデートする契機として活用します。ガートナーは、従業員の懸念に誠実に向き合うリーダーは信頼を6.5倍押し上げると指摘しています。人事はファシリテーションとフォローアップを担い、対話がアクションに結実するよう伴走することが重要です。

行動④ リーダーシップスキルの再構築

信頼維持には、経営層自身が学び続ける姿勢を示す必要があります。人事部門はエモーショナルインテリジェンス、アクティブリスニング、倫理的判断、透明コミュニケーションに焦点を当てた研修プログラムの設計が推奨されます。360度評価に信頼項目を組み込み、行動変容を定期的に可視化することで施策効果を測定できます。さらに、コーチングやメンタリングを通じてリーダー一人ひとりの課題に寄り添うと、学習成果が組織文化として定着しやすくなります。成功事例は社外にも共有し、企業ブランドと採用力を高める相乗効果を狙うのも重要となります。

今後の展望

2025年以降、AIによる意思決定支援が広範に広がり、従業員が判断根拠を理解できる仕組みづくりがより求められます。意思決定プロセスを社外にも公開する「ラディカル・トランスペアレンシー」を実践する企業は、投資家や顧客からの評価を高める可能性があります。

また、ハイブリッドワークが常態化する中で、物理的距離を超えたコミュニケーションシステムが信頼のインフラとして機能するでしょう。日本企業は、人事と経営が協働し、信頼データを経営指標と連動させることで、外部環境に揺るがない組織を築いていくことが求められています。

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