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製造業の特定国依存を回避するサプライチェーン

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国際情勢が大きく揺れ動く中、日本の製造業は供給途絶リスクにも向き合っていく必要があります。米中両国による輸出管理措置の強化や、特定国依存の構造的問題は、日本の生産基盤を揺るがす要因となっています。

経済産業省は2025年1月23日、「第17回 産業構造審議会 製造産業分科会」を開催し、経済安全保障におけるサプライチェーンのあり方についても議論・検討を行っています。

米中の輸出管理措置と日本製造業への影響

ここ数年、米中間の技術覇権争いが激化し、双方の輸出管理措置が強化されています。中国は2023年からガリウムやゲルマニウム、黒鉛、アンチモンといった重要鉱物の輸出管理を次々に拡大。米国も先端半導体やAI関連製品、自動車関連技術への規制を強化し、貿易管理の厳格化を進めています。

エスカレートする米中の輸出管理措置 出典;経済産業省 第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 2025.1

こうした状況により、日本の製造業は原材料調達の不安定化に直面しています。特に、ガリウムやレアアースなどの重要鉱物の多くを中国から輸入している日本にとって、輸出規制の強化は生産ラインや供給網全体に深刻な影響を及ぼします。重要鉱物の不足は、生産コストの上昇や供給遅延を引き起こし、ひいては日本の国際競争力を低下させる可能性があります。

出典;経済産業省 第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 2025.1

こうしたリスクに対応するため、日本政府は国内備蓄の拡大や同盟国との協力を進めています。これにより、緊急時でも生産を継続できる体制を整える動きも始まっています。

特定国依存を回避するサプライチェーン強化の取り組み

日本が現在抱える供給途絶リスクの大きな要因は、中国をはじめとする特定国への依存で、この問題を克服するため、政府は供給源の多角化とリスク分散を進めています。

政府は国内での備蓄を強化し、輸出規制が生じた際に柔軟な対応が可能となる体制を整備しています。また、オーストラリアやカナダといった同志国との協力を強化し、鉱物資源の多国間供給ネットワークを構築しています。これには、上流の採掘から下流のリサイクルまでを含めた包括的な取り組みが含まれます。

さらに、レアアースやガリウムといった重要鉱物の代替技術の開発も進行中です。これにより、特定の鉱物への依存度を下げ、持続可能なサプライチェーンの形成を目指しています。

政府はリスク分析にも注力しており、サプライチェーン全体の現状を把握し、得られた情報を企業と共有しています。これにより、企業は価格だけでなく供給安定性を重視した調達方針を採用できるようになっています。

特定国依存を回避したサプライチェーンの構築に向けた施策 出典;経済産業省 第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 2025.1
出典;経済産業省 第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 2025.1

国内事業者撤退による供給途絶リスクと解決策

国内素材産業における事業者の撤退は、供給途絶リスクをさらに深刻化させる要因となっています。採算性の悪化や長いサプライチェーンが原因で、どの事業者がどの段階で重要な役割を担っているかが不透明な「ブラックボックス化」が進行しているためです。

この課題に対応するため、政府はサプライチェーン全体の透明化を進めています。企業間の情報共有を強化し、どの段階でリスクが存在するかを特定する取り組みが進められています。また、政府による資金支援や代替供給ルートの確保も、事業者撤退による影響を緩和する手段として有効です。

さらに、価格競争に苦しむ事業者に対しては、適切な価格転嫁が可能となる仕組みを整えることで、採算性の向上と供給安定の両立を図っています。

国内事業者撤退による供給途絶リスク 出典;経済産業省 第17回 産業構造審議会 製造産業分科会 2025.1

今後の展望

日本の製造業は、特定国依存からの脱却と、多角化したサプライチェーンの構築が求められています。国内では、リサイクル基盤の整備や代替技術の研究開発が進められており、廃材を活用した資源循環型社会の形成が期待されています。一方、国際的には同志国との連携を深化させ、新たな鉱物供給源の開拓や多国間協調を強化することが不可欠となります。

さらに、政府と企業が一体となり、リスク分析を基にした戦略的な投資と政策実行による供給途絶リスクを最小限に抑え、持続可能な成長基盤を築いていくことが求められています。こうした取り組みにより、日本の製造業は国際競争力を維持しつつ、より強靭で安定した供給網を持つ経済モデルの実現が期待されます。

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