サイバー安全保障分野と日本
近年、サイバー攻撃の脅威は国内外で急速に拡大しており、政府や重要インフラを標的とした攻撃が深刻化しています。これに対応するためには、従来の手法では限界があり、官民連携の強化や新たな法制度の整備が求められています。
政府のサイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議は2024年11月29日、「サイバー安全保障分野での 対応能力の向上に向けた提言(案)」を公表しました。
今回は、サイバー安全保障分野における今回の提言をもとに、現状把握からサイバー攻撃への対応、今後の展望について取り上げたいと思います。
サイバー安全保障の現状と課題
サイバー攻撃は、その手法が巧妙化・高度化しており、社会全体に深刻な影響を及ぼしています。特に、ランサムウェア攻撃やゼロデイ攻撃のような高度な侵入手法は、重要インフラや企業の内部システムを標的にすることで、国の安全保障にも影響を与える可能性があります。
政府や企業だけでなく、サプライチェーン全体のセキュリティ確保が必要不可欠であり、単独の対策では十分な効果が得られない状況です。このような現状を踏まえ、社会全体での情報共有と連携が求められています。
官民連携による対応能力の向上
官民連携は、サイバー攻撃に対する対応能力を向上させる取り組みが求められています。今回の提言では、以下のような取り組みが示されています。
情報共有の促進
政府と民間事業者の双方向の情報共有を進めるため、情報共有の枠組みを整備することが必要。また、サイバーセキュリティ協議会の改組による新たな情報共有体制の構築も提案。
脆弱性対応の強化
ソフトウェアの脆弱性に対する迅速な対応が重要。具体的には、脆弱性情報の提供やサポート期限の明示を法的責務とし、ユーザーがリスクを適切に理解し対応できる環境を整える必要。
政府による情報提供
政府が情報提供を主導し、企業や国民に対するリスクコミュニケーションを強化することが重要。これには、緊急性の高い情報発信をワンボイスで行う体制や、セキュリティクリアランス制度の活用も。
通信情報の活用に向けた制度整備
サイバー攻撃の実態を把握し、防御策を強化するためには、通信情報の適切な利用が欠かせません。提言では、以下のような制度整備が求められています。
通信情報の範囲と方式
重大なサイバー攻撃対策に必要な通信情報は、メールの内容など本質的な情報ではなく、メタデータや通信の宛先情報などに限定されるべき。また、これらの情報を効率的に収集・分析する仕組みを整えることが必要。
プライバシー保護との両立
通信情報の利用が国民のプライバシーを侵害しないよう、独立機関による監督や透明性の確保が重要。これにより、政府の信頼性を高めると同時に、サイバー攻撃への対策を実効性のあるものとすることを期待。
アクセス・無害化への対応
サイバー攻撃の拠点となるサーバーやボットネットに対するアクセス・無害化は、被害の未然防止において重要な手段です。
新たな権限の付与
攻撃者のサーバーへのアクセスや無害化を迅速に行うため、政府に新たな権限を付与することを提言。この権限は、既存の法制度との整合性を保ちながら、サイバー空間の特性に応じて柔軟に運用されるべき。
国際法との調整
アクセス・無害化が国際法上許容される範囲内で行われるよう、制度設計を進めることが重要。また、日本がこの分野で主導的な役割を果たし、国際的な規範形成に貢献することも期待。
今後の展望
サイバー安全保障分野での対応能力を向上させるためには、官民の連携強化や法制度の整備に加え、国際的な協力が重要となります。その対応には、以下の取り組みが期待されます。
- 人材育成の強化: サイバーセキュリティ分野での専門家を育成し、持続可能な体制を構築する。
- 技術開発の推進: 国内での技術力を強化し、国際競争力を高める。
- 国際協力の深化: 他国との情報共有や共同対策を進め、グローバルな脅威に対応する。
こういった取り組みによって、サイバー空間の安全性が高まり、国民や企業が安心してデジタル技術を活用できる環境整備が期待されるところです。