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「フィジカルインターネット」の取り組み

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物流業界では、輸送効率の向上や環境負荷の削減が急務となっている中、「フィジカルインターネット」という新たな物流システムが注目されています。

国土交通省は2024年11月5日、「第4回 官民物流標準化懇談会」を開催しました。本懇談会ではフィジカルインターネット実現に向けた取り組みについても議論・検討されており、フィジカルインターネット実現に向けた取り組みについて取り上げたいと思います。

政策統括官:第4回 官民物流標準化懇談会 - 国土交通省
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フィジカルインターネットとは?

フィジカルインターネットは、インターネット通信の仕組みを物流に応用し、複数の企業が保有する倉庫やトラックといった物流資産を共有することで、物流全体の効率化を図る取り組みです。

2010年ごろに提唱され、以降、国際的に研究が進められている次世代の物流システムです。貨物を規格化された容器に詰め、デジタル技術を活用して物資や倉庫、車両の空き情報を見える化することで、効率的な輸送を実現を目指しています。

たとえば、輸送距離が約20%短縮されるとの試算があり、これにより空輸送の削減や二酸化炭素排出量の削減が可能になります。さらに、物流資産の有効活用を促進することで、業界全体の持続可能性を高めることが期待されています​。

出典:国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024.11.5

フィジカルインターネット実現イメージ

フィジカルインターネットの実現には、以下の要素が重要とされています。

オープンで効率的なハブ拠点の構築
複数の事業者が共同で利用可能な物流拠点を設置し、積替え作業の効率を最大化

リアルタイムなルートと積降拠点の最適化
デジタルプラットフォームを通じて、輸送の計画を最適化し、空輸送や輸送遅延を制御

事業者間でのオペレーション標準化
荷役作業や調達管理の標準化を図り、無駄を排除

これらの取り組みにより、輸送の効率化だけでなく、需要変動への柔軟な対応が可能になります。また、地域や業界を超えた連携による一体的な物流ネットワークの形成が目指しています。

出典:国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024.11.5

フィジカルインターネット・ロードマップの具体的な取り組み

経済産業省と国土交通省は、2040年までのフィジカルインターネットの実現を目指して「フィジカルインターネット・ロードマップ」を策定しています。このロードマップでは、以下のようなフェーズに分けて取り組みが進められています。

準備期(~2025年):物流データの標準化やプラットフォームの基盤整備
離陸期(2026~2030年):業種横断型のデータ共有システムの構築
加速期(2031~2035年):高度な需要予測技術や自動化技術の本格導入
完成期(2036~2040年):完全自動化と持続可能な物流システムの実現

出典:国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024.11.5

例えば、準備期では、物流データプラットフォームの整備が進められており、複数の企業が参加可能なオープンな物流市場の発展を目指しています。加速期以降では、デマンドウェアの活用による需要主導型の物流の実現を視野にいれています。

「フィジカルインターネット・ロードマップ」のゴールイメージは、効率性、強靭性、成長性、そして社会インフラとしての普遍性を目指した次世代の物流システムの構築を目指しています。

効率性では、リソースの最適活用や輸送効率向上、カーボンニュートラル達成。強靭性では、災害や危機にも対応可能な物流基盤の構築。成長性では、労働環境の改善や新しい物流サービスの創出、中小事業者を巻き込む経済モデルを実現を目指しています。

さらに、社会インフラとしては、地域経済の発展を促すユニバーサル・サービスの提供を目指しています。これらを通じて、持続可能で柔軟な物流ネットワークの構築を目指しています。

「業界」でのフィジカルインターネットに向けた取組の進展

フィジカルインターネットの実現には、各業界が抱える課題に対応する具体的なアクションが必要です。このため、各業界ごとにワーキンググループ(WG)が設置され、取り組みが進められています。

例えば、百貨店WGでは、クラウドプラットフォームを通じて取引先事業者と物流事業者のデータ連携を図り、物流効率化の効果を検証しています。また、2024年度に新設された医薬品WGでは、短納期や物流コスト転嫁の課題に対応し、医薬品サプライチェーン全体を最適化するアクションプランを策定中です。

出典:国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024.11.5

「地域」におけるフィジカルインターネットに向けた取組

地域ごとに異なる物流課題にも対応するため、地域フィジカルインターネット懇談会が開催されています。北海道では、地元事業者が連携し、物流のデジタル化や共同輸配送の実現に向けた実証実験が進行中です。

例えば、札幌圏外で積載率が全国平均を下回る現状に対し、共同輸配送の推進により50%まで向上させる計画が進められています。また、納品伝票の電子化やリアルタイムマッチング技術を活用することで、輸送効率とリードタイムの改善が期待されています​。

出典:国土交通省 第4回 官民物流標準化懇談会 2024.11.5

今後の展望

フィジカルインターネットは、物流の効率化と持続可能性を実現する次世代の物流システムとして注目されています。実現に向けては、2030年や2040年といった長期目標の達成が含まれる一方で、2025年問題への対応が喫緊の課題となっています。

2025年問題とは、物流業界における深刻な労働力不足と輸送力の低下を指します。少子高齢化の進行や労働環境の厳しさが要因で、現在の物流システムでは持続可能性が危ぶまれています。地方や中山間地域では、物流ネットワークの維持が困難になることが懸念されています。

フィジカルインターネットの実現は、この問題の解決に向けた鍵とされています。デジタル技術を活用した輸送ルートの最適化や、企業間での輸送資産の共有を通じて、効率的な物流網を構築することが期待されます。さらに、地域ごとの共同輸配送やデータ連携基盤の整備によって、地域物流の課題にも対応できる可能性があります。

また、カーボンニュートラルやゼロエミッションといった環境目標も視野に入れつつ、物流業界の労働環境改善や新たな雇用創出にも寄与することにもなるでしょう。

フィジカルインターネットは、単なる物流改革にとどまらず、社会全体の効率化と持続可能性の基盤となる取り組みとして期待されるところです。

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