「AI社会」を⽀える基盤としての情報通信ネットワーク
総務省は2024年4月12日、「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」に関する報告書(案)を取りまとめました。
今回はこの中から、「AI社会」を⽀える基盤としての情報通信ネットワークとBeyond 5Gに焦点をあてて解説します。
AI の爆発的普及
2022年のChatGPTの登場以降、世界各国で生成AIの開発競争が激化しており、さまざまな分野での活用が急速に普及しています。
AIを積極的に活用することにより、国民の利便性や社会経済活動の効率性を高め、社会が抱える諸課題の解決や国際的な競争力の向上が期待されています。
他方で、AIがもたらす社会的課題も指摘されており、G7の広島AIプロセスで議論がなされたほか、各国では、AIの積極的な活用・開発とAIによってもたらされる課題への対応について政策的な議論が展開されています。
日本では、2023年5月、AI戦略会議が「AIに関する暫定的な論点整理」を取りまとめ、これに基づき、前述の広島AIプロセスを主導したほか、リスクへの対応、AI利用の加速、AI開発力の強化などの各種取組が極めて速いスピードで進められています。
Beyond 5GにおけるAIの位置づけとしては、これまで、仮想化技術などの活用による情報通信ネットワークの運用効率化のためのツール(AI for Network)や、Beyond 5Gにより実現されるCPS(Cyber Physical System)で、実空間から吸い上げた膨大なデータをサイバー空間で高速・効率的に解析するためのツール(AI for CPS)として活用されることが想定されていました。
これらの活用形態に加え、既に生成AIは、一般の利用者とのインターフェースの一部として情報通信ネットワークの端末側に埋め込まれつつある点を挙げています。
今後は、人間の利用者だけでなく、生成AIを搭載したアバターや我が国が強みを持つロボットなども広く社会で利用され、情報通信ネットワークを通じて相互に通信を行う形態が急速に広がっていくことが想定されます。
こうした社会においては、AIは情報通信ネットワークの運用効率化やCPS運用の機能として活用されるにとどまらず、情報通信ネットワークがAIが隅々まで利用された社会、いわば「AI社会」を支える基盤(Network for AIs)としての機能を果たしていくことが想定されるとしています。
こうしたAIの爆発的普及は、情報通信ネットワークに対して従来とは異なる機能要件を求める可能性も挙げています。
処理や判断に一定の時間が必要な人間や、蓄積された少量のデータの定期的な収集のためのIoT機器などとは異なり、瞬時の処理や判断が求められる、ミッションクリティカルなロボットや機器を、情報通信ネットワークを介して繋ぐという需要が高まれば、情報通信ネットワークに求められる低遅延性や信頼性・強靭性などの要求が高まることが想定されるとしています。
また、小規模なAIを分散させ連携させることにより機能させる「AIコンステレーション」というアイディアも出ています。そうした機能を実現する上でもネットワーク機能の高度化が求められる可能性があるといいます。そして、データセンターやエッジコンピューティングなどの計算資源とネットワークの連携や一体的運用がさらに進むことが想定されることも挙げています。
さらに、社会のさまざまな現場においてAIが学習・高度化するために必要となるデータが発生・流通し、これが通信トラフィックの増加とそれに伴う消費電力の増大に拍車をかける可能性が考えらるといいます。
現在は、生成AIなどの開発自体に大規模な計算資源が必要とされており、その膨大な消費電力の削減を図るため、低消費電力半導体の開発などの取組が経済産業省を中心に進められています。
カーボンニュートラルの達成に向けて、デジタルインフラ全体の消費電力削減に向けた努力を重ねていく観点からは、その一部を構成する情報通信ネットワークについても低消費電力化の要請が高まることが想定されるといいます。
さらに、情報通信ネットワークを活用してデータセンターの分散立地を促進することにより、エネルギー需要の分散や再生可能エネルギーの効率的な利用に繋げていくことが想定されるとしています。
Beyond 5Gネットワーク進化の方向性
特にAIが爆発的に普及するとの⾒込みやコンピューティングとネットワークの⼀体的運⽤の進展、NTN提供事業者の存在感の増⼤等を踏まえ、Beyond 5Gネットワークの進化も必要になります。
サービスレイヤでは、さまざまな分野で利用される多数のAI同士をBeyond 5Gでつなぎ、自律的に協調させることで、AIの省電力化やさらに複雑な社会的課題の解決に貢献するといったアプローチが求められます。
以下の図では、サービスプラットフォーム、デジタルインフラ、端末などでの進化の方向性をまとめています。
特に、重要と考えられるのがオール光ネットワークなどの優先や無線、NTN(衛生・HAPS)などからなる複層的なネットワークにより、どこでもつながる環境の実現です。
さらには、オール光ネットワークは、AI時代に増大が予想される大量のトラヒックを超低消費電力で処理することができます。
これからの、「AI社会」を⽀える基盤としての2030年をターゲットとした、情報通信ネットワークの役割やBeyond 5Gの役割はますます増していくでしょう。