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オール光ネットワークによるデータセンター分散化とAI開発・利用

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内閣府は2024年5月10日、「第5回経済財政諮問会議」を開催し、先端技術の実装と競争力強化を中心とした中長期の重点課題について議論・検討を行っています。スクリーンショット 2024-05-18 18.27.14.png

今回はこの中から、総務省の次世代情報通信基盤(Beyond 5G (6G))の取組から、オール光ネットワークを活用したデータセンターに焦点をあててとりあげたいと思います。

研究開発と社会実装に関する問題意識

日本の技術開発は、これまで「技術で勝てても商売で勝てない」という課題に直面してきました。先端技術の開発成果を「社会課題の解決」や「経済成長」に繋げるためには、「研究開発のための研究開発」ではなく、「社会実装」及び「海外展開」を最終目標とすることが必要となっています。ビジネスとして自走し、エコシステムの拡大を目指すことが求められます。

このため、研究開発支援においては、開発段階から各企業の覚悟を見極め、「戦略商品」を絞り込み、「研究開発」、「国際標準化」、「社会実装・海外展開」などを有機的に連携させ、総合的に取り組むことが基本となります。あらゆる政策ツールを用いて強力に支援することが重要としています。

次世代情報通信基盤等に関する総務省の取組

総務省は、AI利用をはじめとする我が国全体のDXを支える、低遅延・低消費電力で、品質が保証され、かつ柔軟・低コストな次世代情報通信基盤(Beyond 5G)の早期実現に向け、「戦略商品」を特定し、研究開発・国際標準化・社会実装・海外展開の取組を一体的かつ集中的に推進しています。

国際標準化

研究開発や国内実装の成果について、2027年頃までにフォーラム標準に反映させるため、民間企業による戦略的な国際標準化活動への支援を強化します。これにより、市場獲得を目指す

研究開発

2023年度より、Beyond 5G(6G)基金を活用し、社会実装・海外展開に本気で取り組む民間事業者の研究開発プロジェクト17件を採択し、継続的に支援しています。特に、オール光ネットワークについては、多数の事業者が相互に接続して通信を行うための共通基盤技術の確立を2028年頃までに目指し、国が開発を主導する

社会実装・海外展開

開発成果の技術検証や提供側と利用側が新ビジネスを共創するためのテストベッド環境の整備に取り組み、順次開放。さらに、現時点で強みを有するシステムの欧米やグローバルサウスなどへの海外展開に対する支援を強化しています。また、放送コンテンツのプラットフォーム機能を強化し、日本のコンテンツ産業の競争力を高めることを目指す。

2030年頃の国内主要事業者による本格実装と、Beyond 5Gの世界的な普及が見込まれる2030年代半ばにおける国際市場獲得を通じ、脱炭素や省人化・省力化などの社会課題の解決と経済成長に貢献していくとしています。

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出展:第5回経済財政諮問会議 2024.5

次世代情報通信基盤(Beyond 5G)の活用による電力消費の分散化

AI・データセンター関係の最近の国内投資動向

近年、日本国内ではAIおよびデータセンターへの投資が活発化しています。以下に主要な投資事例が挙げられています。

  • Googleは、2021~2024年に1,000億円を投資し、千葉県印西市にデータセンターを開設(2023年4月)
  • AWSは、2023~2027年の5年間で東京・大阪のクラウドインフラに2兆2,600億円を投資すると発表1月19日)
  • Microsoftは、AIおよびクラウド基盤の強化を目的に、2024~2025年の2年間で4,400億円を投資すると発表(4月10日)
  • OpenAIは、日本法人設立を発表(4月14日)
  • オラクルは、クラウド・AIインフラの需要拡大に対応し、今後10年間で80億ドル(1兆2,000億円)以上の投資を発表(4月18日)

データセンター等の電力需要の増大

データセンターおよびネットワークが日本全体の電力需要に占める割合は、2019年の約3%から、2040年には約6~13%に急増するとの予測があります。例えば、OpenAIの「GPT-3」の学習の際の消費電力量(1,287MWh)は、原発1基の1時間分の発電量を上回ると試算されています。また、ユーザーが生成AIと5~50回やりとりするだけで、データセンターではボトル1本分の冷却水が必要になるとの試算もあります(国際経営開発研究所(IMD)HPより)。

オール光ネットワークを活用したデータセンターの分散立地(将来イメージ)

生成AI等の普及で急速に電力消費が増加する中、低遅延なオール光ネットワークで接続することで、データセンター・利用者間の距離の制約が緩和され、大都市周辺に集中するデータセンターの分散立地が可能になるとしています。

また、オール光技術によるネットワーク自体の省電力化に加え、データセンターによる電力消費の分散化・地産地消が可能となり、脱炭素の実現に貢献していく将来イメージをまとめています。

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出展:第5回経済財政諮問会議 2024.5

オール光ネットワークによるデータセンターの分散化が進めば、AI活用・利用モデルの構成が変化していく可能性も挙げています。

現在のAI開発

AIモデルの開発には、学習用の大量データを計算資源(GPU)と一体的に保存して処理する必要があります。計算資源を自己保有している場合は、データと計算資源を一体で処理することになるため、陳腐化が早く高価な計算資源を自己保有するといった経済的ではないケースもあります。

また、データセンター上の計算資源を利用する場合は、データをネットワーク経由でデータセンターにアップロードして保管するため、機密性の高いデータをデータセンター上に保管することへの不安やアップロード又は持ち込みに時間がかかり機動的な開発の制約も出てくる可能性があります。

オール光ネットワークを活用したAI開発・利用(将来イメージ)

一方、低遅延なオール光ネットワークを通じて、遠隔にあるさまざまなデータセンター(計算資源)と柔軟に接続してAI開発・利用が可能になるとしています。

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出展:第5回経済財政諮問会議 2024.5

自動車、製薬、素材などの研究開発を行う企業・学術機関、金融機関など、さまざまな主体が、機密性の高い自社データを基本的に手元に保管しつつ、最新の計算資源を直接利用できるようになることで、機動的なAI開発やAIを活用した製品開発などが可能となります。これにより、さまざまな産業分野や科学技術分野などにおける競争力強化に貢献することが期待されます。

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