« 2012年1月13日

2012年1月15日の投稿

2012年1月17日 »

永井さんのこちらのエントリで仮説思考の大切さが非常にわかりやすく紹介されています。

1週間かけて調べて詳細な企画を立てる「網羅思考」よりも、間違ってもいいから30分で仮説を立てて半日で検証し改善し続ける「仮説思考」の方が、短時間でよりよい結果が得られる、という話

永井さんのエントリにこのようにあります。

英語で議論のためのたたき台を"strawman proposal"と呼ぶことがあります。「わら人形」という意味ですが、みんなで叩くために、とりあえずその議論のベースとなる「たたき台」(=仮説)を作ることが、いい企画を短時間で作るために必要なのだと思います。

ところが私の経験ではこれまでに何度か「仮説」を「仮設」してしまうような場面を見たことがあります。こういうとまるで言葉遊びのようですが、仮説でなくて「たたき台」という言葉を使うとはっきりします。仮説(たたき台となる論理や想定シナリオ)は皆であーでもないこーでもないという意見を集めるための土台として耐えうる筋が通っていなくてはなりません。叩いて簡単に壊れるようではいけないのです。「わら人形」は日本では五寸釘をグサグサと刺されても人形としての容姿を保ってくれます。あれが一瞬で崩壊したら恨みをはらす方も報われないでしょう。

現実のビジネスは大変複雑ですが、誰もが賛同しそうな「Aが成り立つならばBだ」という論理的な仮説が生まれたとします。その時点で周囲に意見を募ったならば、ある人はAを実験するための方策を考え、またある人はAという結果からB’やCでなく確かにBなのかということを考えてくれるかもしれません。

例えば「タバコを吸う人はコーヒーをよく飲む」という傾向があるそうです。実際に新幹線の車内販売が喫煙車両でのコーヒー販売を強化して売上アップにつながったそうですが、闇雲に売り込むのではなくて実験環境でいくつもの仮説を確かめて全体に展開したほうがうまくいきそうな気がします。

例えば「新幹線には遅刻しないよう早めにホームに着く人が多く、一服して待つ時間がある。だから乗って一本目は30分後あたりが多いので、そのタイミングで喫煙車両に売りに行く。」といった仮説ならば、ホームを観察して一服して乗る人が多いかどうか確かめられますし、ニコチンが切れて2本目が吸いたくなるまでにどれくらいかかるのかもすぐに調べられそうです。

こうすると科学実験のようです。例えば有名なラザフォードの実験では「アルファ線が一部のみ強く跳ね返るならば、原子核は雲状でなくて中心に小さく集まっているのでは?」ということが確かめられました。(Wikipediaの記載によればラザフォードは実験自体を行ったわけではないそうです。)この実験で確かめたいのは原子核のことであって、金箔がアルファ線を跳ね返すことを調べてその性質を活用しようというわけではなかったはずです。

しかしビジネスの現場では時に「いや、ちょうど45度に跳ね返してくれるようにするにはどうしたらいいだろう。45度に跳ね返してくれたら我社はライバルをあっと言わせることができるんだ。君、来週までに考えて。」というように、仮説の「A」のほうが変な方向に飛んでいってしまうことがあるように思います。もともとAはBであることを確かめるための前提で、Bのほうが自分自身に欲しい結論であるはずです。Aを満たせばBが手に入る、という関係だったはずなのにせっかくAを確かめるならばもっと効率よくやろうとか、ついでにこれもという「仮設工事」を始めたが故にいつしかA'という「ゴール」になってしまう。そんなこと今までに見たことがありませんか?

この原因は仮説という言葉がどうも適当でいいやという印象を与えるからではないかと思います。しかし実際には「Aが成り立つならばBだ」という仮説の立案に関係者が賛同した後は、本気でAを実現しにかからなくてはなりません。上でラザフォードの実験を例に挙げましたが、科学の歴史を一般の人に解説する本を読むと科学者がいかに仮説を検証するための苦労したかという話がたくさん出てきます。

仮説自体は間違っていてもいいかもしれません。むしろ仮説が間違っていることがはっきりと確認されれば、別の事実がわかるかもしれません。しかし「どうせ仮説だし」という免罪符で検証作業を適当に片付けたり、はたまた別に遂行されている「本命」のプロジェクトのパーツとして取り込んでしまえば、仮説が正しかったかどうかすらわからず、手元に何も残らなくなってしまいます。ましてや仮設工事で未検証の仮説を土台にしてビルを立ててしまったら、どのような恐ろしい結果になるかわかりません。

「仮」という言葉の印象に惑わされないようにしなくてはならないですね。

(なお私は物理学に詳しいわけではないのでラザフォード云々のあたりは何らかの誤りがあるかもしれませんが。そこは例え話としてご容赦いただき、コメント欄で教えていただけると助かります。)

yohei

« 2012年1月13日

2012年1月15日の投稿

2012年1月17日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
yohei
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ