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 ソーシャルブックマークの衆愚化について巷でちょっと話題になっている。
(参考「はてぶがドンドン馬鹿になっていく」「はてブの衆愚化とロングテールで思ったこと」)このところメディアに取り上げられて有名になったからか夏休みによってユーザ数が増えたからか、はてなブックマークの参加者が増えてその結果、ランキング上位が通常のニュースサイトのランキングと変わり映えしなくなったということらしい。読んでいて思ったのは別にこれはWeb2.0の限界だとかそういうのではなく、単にソーシャルブックマークも普及の過程でいったん越えなければならない壁にぶち当たっただけだということ。

 ブックマークの登録者が増えることで、本来の趣旨(?)にあわない登録やタグつけのない空虚な登録が増えた結果、今までの仕組みがついていかなくなったということだ。ナレッジマネジメントに携わっていると、こうした母数が増えることによる衆愚化現象にしばしば直面する。
 古くは、

  • 業務に関する意見交換をするために社内フォーラムを立てたが、発言が少なく閑散とした雰囲気となったため、発言を増やすべく趣味等の仕事に関係ない話題も発言可能としたら、そちらでばかり盛り上がってしまい、役員から「遊びならフォーラムを辞めろ」と言われてしまった。

というものから

  • 先進事例集や優良提案書をデータベース化して登録し共有して過去のプロジェクトノウハウを活用しようとしたが数がなかなか増えないので、とりあえず過去2年分の受注プロジェクトについてプロジェクト名と受注部署だけを全部データベースに登録したら、検索結果には出てくるが中身のないものばかりとなって最終的には誰も使わなくなった。
  • 検索エンジンを導入し文書管理システムを全文検索できるようにしたが、キーワードを入れても欲しいドキュメントが見つからない。検索対象が少なすぎると思って各部のファイルサーバまで検索対象を広げたら、今度は同じような文書がたくさん検索結果に出てくるようになってやはり欲しいものにたどり着けなかった。

といった割と典型的なもの。さらには

  • 社員の顔写真を入りのKnow-Whoデータベースを整備して、社員の頭のなかに入っている暗黙知をそのまま共有できる仕組みを構築した。ところが利用アクセスログを解析して良くKnow-Whoページを見られている社員のランキングを作ってみると、上位は女性社員ばかりだった(ちなみに全体での男女比は8:2で男性の多いシステム会社での話)
  • 社内で配信されているニュースサービスの一覧画面から皆がクリックしているニュースの上位ランキングを割り出して、社員の関心分野を解析したところ、上位のほとんどはサッカーやプロ野球といったスポーツニュースだった。

などという人間の性がそのまま表出化した事例も知っている。
そして、最近の流れを考えると

  • 社員の小さな気づきを共有したりや不満を吸い上げるために自由に書ける社内ブログを導入したが、書く人が少ないので日記のように昼飯や娯楽の話題を書くように推奨したら全体の記事数が増えてしまい、他人の日記をいちいち読んでいられるような状態ではなくなった。管理者も全ユーザの日記をサーベイする暇はない。
  • 社内人脈を可視化するためにSNSを導入したが各社員が数名しか友達に登録をしないので、業を煮やして仕事絡みの人は友達登録するように指導した。結果、皆が同じ部署と上司を友達登録して、社内人脈図は組織図と同等のものになった。
    というような話が聞こえてくるまでもうそんなに時間はかからないと思う。

 おっと!あまりにも思い当る経験が多いのでついつい例示に陶酔してしまい、大きく本題から逸れてしまった。話をもとに戻す。

 情報を登録・蓄積して再利用するナレッジ系のシステムの場合、皆に使える仕組み、使ってうれしい仕組み、便利さを実感できる仕組みとするための質と量のバランスはとても難しい。たとえばデータベースに10個の登録データがあってその半分は普通の情報、3つが非常に役に立つ情報、残りの2つがくだらないクズ情報であった場合、このシステムのユーザはどう感じるだろうか?3回に1回は有益な情報があって便利だと思うのか、3つでは少なすぎて使えないと思うのか、2つも無駄があると非難するのか、全体が10しかないとがっかりするのか、これが人と場合によって変わるので難しい。
 登録の数を調整する場合、一般にデータの登録の入り口で情報の出入りを監視するゲートキーパーで制御をする。ゲートキーパーの機能は通常人やワークフローや運用ルールが担うが、さきほどの悪しき例のようにゲートキーパ部の品質チェックの基準を安易に下げたりするのは危険だ。全体の数が10個しかないことのみに注目し安易に母数を増やすことに邁進してはいけない。母数は単純に増やせても良質な情報の割合(3割)を簡単に維持できるとは限らないのである。

 今回の解決方法のひとつにゲートキーパのハードルを上げて不良な情報の流れ込みを防ぐこと(SBMの場合ブックマークできる人を招待性など制限するなど)も考えられるが、これではWeb2.0の参加型という原則には反してしまう。

 となると、登録側の調整ではなく出力側の調整を解決案とするしかない。先程の例ならデータ一覧の表示の際に上位に3/10を下位にクズの2/10を表示すればユーザの満足度は上がる(Googleが成功した秘訣はまさにこれである)今回の事件が、この表示順を決めるパラメーターが単なる累積数であったために、レベルの高いユーザのみで登録作業を行っていたときは良かったものがレベルの低いユーザの増加でうまく機能しなくなったということならば、この表示順のロジックを見直せば良いのだ。
 既にこの面については「ハテナガの野望」ロジックを始めいくつかの案が提唱されている。ただし「はてぶでは、100日かけて100usersに到達する様な「ロングヒット型」エントリーが埋没してしまう」という指摘もあり、より良いものにする為のさらなる議論は必要であろう。

 再度経験に戻って話をすると、一度ユーザに「使えない」と評価を下されたものが再度評価を上げるのはとても難しい。またこういう「使えなくなった」という不満は多数の人が「まだまだ」と思っているうちも積極的に使ってくれていたコアユーザがまず最初に言い出す。コアユーザ全般に悪い評判が広がる前に改善策が見つかるか、一部で言われているように自然に収束をするのか、今後の議論やはてなの動きを見守りたい。

yoi

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吉川 日出行

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みずほ情報総研勤務。情報共有や情報活用を主テーマにコンサルティングや新ビジネスモデルの開発に携わっている。

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