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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

人型ロボはITドメインのニューカテゴリー。IT業界も食えます

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日経様が「人型ロボ」という用語で「ヒューマノイド」を紹介し始めましたので、弊ブログでもその対応をいたします。

日経新聞:ヒト型ロボ100億台の未来 車工場から消える労働者(2025/6/3)


はじめに:ヒューマノイドは"遠い未来"ではない

「ヒューマノイドロボット」と聞くと、多くの人はSF映画の世界や、まだ実用化には程遠い未来の技術という印象を抱くかもしれません。しかし、その認識は急速に過去のものとなりつつあります。2023年から2025年にかけて、世界各国の企業や研究機関から発表されたヒューマノイド実機のデモンストレーションは、その進化の速さと実用化への現実味を帯びた衝撃を私たちに与えました。

米Tesla社の「Optimus」、Figure AI社の「Figure 01」、中国Xiaomi社の「CyberOne」、Unitree社の「G1」といったヒューマノイドは、二足歩行の安定性向上はもちろんのこと、周囲の環境を認識し、人間と自然なインタラクションを行い、さらには具体的な作業をこなす能力をデモンストレーションで見せつけています。これらのロボットは、もはや研究室の中だけの存在ではありません。特に中国やシンガポールでは、一部のヒューマノイドについて具体的な量産計画が報じられるなど、産業応用への動きが加速しています。

こうした世界の潮流の中で、「ヒューマノイド=SF」という固定観念に縛られていることは、特に変化の速いIT業界に身を置く日本のビジネスパーソンにとって、大きな機会損失を生む可能性があります。本記事では、急速に立ち上がりつつあるヒューマノイド市場の巨大なポテンシャルと、それがIT業界にどのような変革とビジネスチャンスをもたらすのか、具体的なデータと事例を交えながら解説します。

1:ヒューマノイド市場は、どれだけ大きいのか?

ヒューマノイドロボットがもたらす経済的インパクトは、私たちの想像をはるかに超える規模になる可能性を秘めています。

1-1 世界市場の予測

複数の調査会社が、ヒューマノイド市場の将来性について驚くべき数値を発表しています。

これらの予測には幅がありますが、いずれも市場が今後10年で急拡大することを示唆しており、イーロン・マスクなどのヒューマノイド起業家の推計を元にすると2035年には10兆円から40兆円規模に達する可能性もあります。

サービスタイプ別に見ると、市場は以下のような分野での活用が期待されています。

  • 製造: 繰り返し作業、精密作業、重量物運搬など、人間が行うには過酷または危険な作業の代替。
  • 物流: 倉庫内でのピッキング、仕分け、配送センターでの荷役作業。
  • 介護・医療: 高齢者の生活支援、リハビリテーション補助、医療施設での患者サポート。
  • 受付・接客: 商業施設、ホテル、公共施設での案内、情報提供、顧客対応。
  • 家庭用: 家事支援、コンパニオン、教育・エンターテイメント。

Teslaのイーロン・マスク氏は、Optimusのようなヒューマノイドが将来的には自動車ビジネスよりも大きな市場になると公言しており、その潜在需要は数億台に達する可能性を示唆しています。また、NVIDIAは、AIとシミュレーション技術(Omniverseなど)を通じてヒューマノイド開発を加速させるプラットフォームを提供し、市場の成長を後押ししています。Figure AIのようなスタートアップも、汎用ヒューマノイドによる労働力不足の解決を目指し、巨額の資金調達に成功しています。

特に注目すべきは、中国の国家戦略である「新質生産力(New Quality Productive Forces)」との連携です。中国政府は、AIやロボット技術を核とした産業の高度化を強力に推進しており、ヒューマノイドもその重要な要素と位置づけられています。具体的な数値目標としては、中国工業情報化部が2023年11月に発表した「ヒューマノイドロボットイノベーション発展指導意見」の中で、2025年までにヒューマノイドの量産体制を確立し、2027年までに総合力を世界先進レベルに引き上げるという目標が掲げられています。一部報道では、2030年までに数十万台単位での普及を目指す動きもあるとされています。

1-2 日本市場のポテンシャルと制約

翻って日本市場に目を向けると、ヒューマノイドの活躍が期待される社会的背景が際立っています。

  • 高齢化社会における需要: 世界でも類を見ないスピードで進行する高齢化は、介護人材の不足を深刻化させています。身体的負担の大きい移乗介助や、24時間体制での見守りなど、ヒューマノイドによる支援は喫緊の課題解決に貢献する可能性があります。また、清掃、調理補助、買い物支援といった生活支援サービスでの活用も期待されます。
  • 日本の産業界全体の人手不足: 日本では、かねてより人手不足が叫ばれてきました。経済産業省の「未来人材ビジョン(2022年)」の試算では、日本の生産年齢人口(15~64歳)は減少傾向にあり、2050年には約5,700万人まで減少すると予測されています。これは2015年の約8,300万人から大幅な減少となります。

こういう中で人型ロボット/ヒューマノイドが普及するためには、いくつかの制約も存在します。

  • 政策と現実のギャップ: ロボット導入に対する補助金制度などは存在するものの、ヒューマノイドのような高度なロボットの導入コストや、実証実験から本格導入への移行を促すインセンティブはまだ十分とは言えません。
  • 法整備の遅れ: 公道での自律移動や、人間と協働する際の安全基準、事故発生時の責任問題など、ヒューマノイドが社会で活動するための法制度やガイドラインの整備が追いついていないのが現状です。

こうした状況下で、仮にAI(例:ChatGPTのような大規模言語モデルを活用した分析)に日本のヒューマノイド市場規模を推計させるとすれば、以下のような試算が考えられます。

AIによる推計:2040年に最大1.2兆円の国内市場規模

  • 試算根拠の骨子:
    1. 労働力不足の代替需要: 2040年時点での労働力不足予測(仮に1000万人規模と仮定)のうち、ヒューマノイドが代替可能な業務領域(製造、物流、介護、清掃など)とその割合(例:5~10%)、ヒューマノイド1台あたりの年間コスト削減効果(人件費換算で500万円~800万円)から算出。
    2. 介護市場の潜在需要: 2040年の高齢者人口予測と要介護者数、介護職員の不足数から、介護施設や在宅介護におけるヒューマノイド導入ポテンシャルを推計。1台あたりの貢献価値(例:介護職員0.5人分相当)と導入台数から市場規模を算出。
    3. 新規サービス市場の創出: 上記に加え、家庭内でのコンシェルジュサービス、教育・エンタメ分野など、新たな市場の創出も考慮。

この1.2兆円という数値は、あくまで現時点での情報や社会構造の変化予測に基づいた一つの試算であり、技術革新のスピードや社会受容性の進展度合いによって大きく変動する可能性があります。しかし、日本が抱える課題の大きさを鑑みれば、ヒューマノイドが解決策の一翼を担うことで、巨大な国内市場が形成されるポテンシャルは十分に秘めていると言えるでしょう。

2:IT業界はこの市場と「無関係」なのか?

ヒューマノイドと聞くと、機械工学やロボット工学といったハードウェア中心の領域というイメージが先行しがちです。しかし、その認識は大きな誤解を生む可能性があります。現代の、そして未来のヒューマノイドは、まさにIT技術の塊であり、IT業界こそがその進化と普及の鍵を握っているのです。

2-1 IT業界の多くの人が勘違いしていること

「ヒューマノイドはハードウェアだから、ソフトウェア中心のウチの会社や自分のスキルは関係ない」――そう考えているITビジネスパーソンやエンジニアは少なくないかもしれません。しかし、それは自動車産業におけるかつての認識と似ています。かつて自動車はエンジンやシャシーといったハードウェアが主役でしたが、現代の自動車は「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義車両)」へと急速にシフトしています。自動運転、コネクテッド機能、インフォテインメントシステムなど、自動車の価値や競争力の源泉はソフトウェアへと移行しつつあります。

ヒューマノイドも同様です。これからのヒューマノイドは「SDR(Software Defined Robot:ソフトウェア定義ロボット)」になると言っても過言ではありません。ヒューマノイドが人間のように振る舞い、複雑なタスクをこなし、人間と円滑にコミュニケーションするためには、高度なソフトウェア技術が不可欠です。具体的には、以下のような要素がヒューマノイドの中核を担っています。

  • 制御: 二足歩行やマニピュレーション(物体の操作)を安定かつ高精度に行うためのリアルタイム制御システム。
  • ナビゲーション: 周囲の環境を3Dマッピングし、障害物を避けながら目的地まで自律的に移動するためのSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術や経路計画アルゴリズム。
  • 視覚認識: カメラやセンサーからの情報を処理し、物体、人物、状況を正確に認識・理解するためのコンピュータビジョンとAI。
  • 対話: 人間の言葉を理解し、自然な言葉で応答するための自然言語処理(NLP)と音声認識・合成技術。
  • 意思決定: 状況を総合的に判断し、次に取るべき行動を自律的に決定するためのAIプランニングや強化学習。

これらの要素はすべて、ソフトウェアによって実現されます。ハードウェアとしての身体も重要ですが、その身体に知能と魂を吹き込むのは、まさにソフトウェアなのです。

2-2 ヒューマノイド × ITの具体的な接点

では、具体的にどのようなIT技術やスキルがヒューマノイド開発・運用に求められるのでしょうか。

  • ◎エッジAIと組込みAI開発者: ヒューマノイドがリアルタイムに周囲の状況を判断し行動するためには、クラウドだけでなく、ロボット本体に搭載されたエッジデバイス上で高度なAI処理を実行する必要があります。NVIDIA Jetsonシリーズ(Jetson Orinなど) のようなパワフルな組込みAIプラットフォームは、ヒューマノイドの「脳」の一部として機能します。これらのプラットフォーム上で、センサーフュージョン、物体認識、行動生成などのAIモデルを開発・最適化し、実装できる「組込みAI開発者」の需要はますます高まります。C/C++、Pythonといった言語スキルに加え、TensorFlow Lite、PyTorch Mobile、NVIDIA TensorRTといった推論エンジンやSDKの知識が求められます。

  • ◎自然言語処理・対話エンジンとAPI・クラウド連携: ヒューマノイドが人間と自然なコミュニケーションを取るためには、ChatGPTのような高度な自然言語処理(NLP)能力と対話エンジン が不可欠です。Figure AIがOpenAIと提携し、同社の汎用ロボット「Figure 01」に人間との流暢な会話能力を実装したことは、その象徴的な事例と言えるでしょう。こうした機能をヒューマノイドに組み込むには、大規模言語モデル(LLM)をファインチューニングしたり、外部のLLM APIと連携したりするための開発スキルが求められます。クラウドプラットフォーム(AWS, Azure, GCPなど)上でのAPI開発、データ管理、セキュリティに関する知識も重要になります。

  • ◎クラウド/デジタルツインによる群制御・遠隔操作: 多数のヒューマノイドを効率的に運用・管理するためには、クラウドベースのロボットフリート管理システムが不可欠です。また、NVIDIA Omniverse のようなデジタルツインプラットフォームを活用することで、仮想空間上でヒューマノイドの動作シミュレーション、学習、遠隔操作、協調作業のプログラミングなどが可能になります。これにより、現実世界でのトライ&エラーを大幅に削減し、開発効率を飛躍的に向上させることができます。こうしたシステムは、5G/6Gといった次世代通信技術 と組み合わせることで、低遅延かつ大容量のデータ通信を実現し、より高度な遠隔操作やリアルタイム協調作業を可能にします。クラウドアーキテクト、ネットワークエンジニア、3Dシミュレーションエンジニアなどの活躍の場が広がります。

  • メンテナンスや機能拡張のための「ヒューマノイドOS」とアプリ開発: スマートフォンにOS(iOSやAndroid)があり、その上で様々なアプリが動作するように、ヒューマノイドにも共通の「ヒューマノイドOS」と呼べるようなプラットフォームが登場し、その上で特定のタスクを実行するためのアプリケーションが開発される未来が予想されます。NVIDIAのIsaacプラットフォームは、ロボット開発のためのSDK、ツール、シミュレーション環境を提供しており、こうしたOS的な役割を担う可能性があります。ヒューマノイドのメンテナンス、アップデート、新たな機能の追加は、ソフトウェアを通じて行われるようになり、そこではモバイルアプリ開発者やエンタープライズシステム開発者が持つスキルセットが、そのままヒューマノイドアプリ開発者として活かせる時代 が到来するかもしれません。ROS (Robot Operating System) の知識も引き続き重要となるでしょう。

このように、ヒューマノイドの開発、運用、そしてその能力の拡張に至るまで、IT業界の持つソフトウェア技術、AI技術、クラウド技術、開発手法が幅広く求められるのです。

3:IT業界がヒューマノイドで「稼ぐ」ための未来地図

ヒューマノイド市場がIT業界にとって「他人事ではない」どころか、むしろ大きなビジネスチャンスを秘めていることをご理解いただけたでしょうか。では、IT企業やIT人材は、この成長市場でどのように「稼ぐ」ことができるのでしょうか。具体的な戦略と、すでに始まっている事例を見ていきましょう。

3-1 IT企業がヒューマノイド市場で取り得る3つの戦略

IT企業がヒューマノイド市場で価値を提供し、収益を上げるための戦略は多岐にわたりますが、ここでは大きく3つの方向性を示します。

  1. ソフトウェアスタックの部品提供(コンポーネントプロバイダー戦略): ヒューマノイドを構成するソフトウェアは、前述の通り、認識、判断、制御、対話など多岐にわたります。これらの特定の機能に特化した高性能なソフトウェア部品(API、ライブラリ、AIモデルなど)を開発し、ヒューマノイドメーカーやシステムインテグレーターに提供する戦略です。

    • 例:
      • 高精度な物体認識・顔認識API
      • 特定の環境下での自律移動ナビゲーションAIモジュール
      • 業界特化型(例:医療、小売)の対話エンジン
      • リアルタイムモーションプランニングエンジン この戦略は、自社の強みである特定の技術分野に集中投資し、多くのヒューマノイドプラットフォームで採用されるデファクトスタンダードを目指すものです。
  2. コンサルティング・システムインテグレーターとしての参入(ソリューションプロバイダー戦略): 特定の業界(例:製造業、物流業、介護・医療)のニーズを深く理解し、ヒューマノイドを活用した業務改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する役割です。顧客企業の課題分析から、最適なヒューマノイドの選定、導入、既存システムとの連携、運用体制の構築、効果測定までをトータルでサポートします。

    • 例:
      • 製造ラインへのヒューマノイド導入による自動化・生産性向上コンサルティング
      • 物流倉庫におけるピッキング作業のヒューマノイド化PoC(概念実証)開発支援
      • 介護施設向けのヒューマノイド導入と運用サポート この戦略では、業界知識とITシステム構築のノウハウを組み合わせ、顧客に具体的な価値を提供することが求められます。特にPoC開発支援は、初期の市場開拓において重要な役割を担います。
  3. ヒューマノイドに特化したSaaSやBaaS(Bot-as-a-Service)の構築(プラットフォーム戦略): ヒューマノイドの運用管理、タスクスケジューリング、データ分析、ソフトウェアアップデートなどをクラウドベースで提供するSaaS(Software-as-a-Service)モデルです。さらに進んで、ヒューマノイドロボット自体をサービスとして提供する「BaaS(Bot-as-a-Service)」も考えられます。企業は高価なヒューマノイドを購入するのではなく、必要な時に必要なタスクを実行できるロボットサービスをサブスクリプション型で利用できるようになります。

    • 例:
      • 複数メーカーのヒューマノイドを一元管理できるフリートマネジメントSaaS
      • ヒューマノイドの収集したデータを分析し、業務改善に繋げる分析SaaS
      • 清掃、警備、受付などの特定業務をヒューマノイドで提供するBaaS この戦略は、継続的な収益モデルを構築できる可能性があり、市場の成長と共に大きなプラットフォームへと発展する潜在力を秘めています。

3-2 すでに始まっている事例

これらの戦略は絵空事ではなく、すでに世界中で具体的な動きとして現れています。

  • Figure AIとOpenAIの提携: 前述の通り、ヒューマノイド開発スタートアップのFigure AIは、OpenAIと提携し、同社のLLMを活用してヒューマノイドに高度な言語理解と対話能力を実装しました。これは、AI企業がヒューマノイドの「知能」という重要なソフトウェアスタックを提供する典型的な事例と言えます。

  • NVIDIA IsaacプラットフォームとOmniverse: NVIDIAは、ロボット開発のためのシミュレーション環境「Isaac Sim」や、AIモデル開発ツールキット「Isaac Manipulator」「Isaac Perceptor」などを提供しています。これらはOmniverseプラットフォームと連携し、ヒューマノイド開発者が仮想空間で効率的にロボットを訓練し、現実世界に展開することを可能にしています。これは、ヒューマノイド開発の基盤となるプラットフォームとツールを提供する戦略です。

  • 日本企業の関与: 日本国内でも、ヒューマノイド市場への関与の動きが見られます。

    • サイバーエージェント: AI技術やデジタルツイン技術を保有しており、これらの技術はヒューマノイドの知能化やシミュレーション環境構築に応用可能です。同社のAI Labではロボティクスに関する研究開発も行われています
    • ソニーグループ: ロボティクス事業(例:aibo)で培ってきたAI、センシング、アクチュエータ技術はヒューマノイド開発にも通じるものがあります。エンタテインメント分野や産業分野での応用が期待されます。
    • ティア1自動車部品企業: 例えばデンソーのような企業は、自動車で培った高度なセンサー技術、モーター制御技術、ECU(電子制御ユニット)開発ノウハウなどを保有しており、これらはヒューマノイドの基幹部品や制御システムに応用できる可能性があります。実際に、人手不足に悩む自社工場ラインでの活用や、新たな事業領域としてのロボット部品供給などが視野に入ってくるでしょう。

これらの事例は、IT企業や技術系企業が、自社の強みを活かしてヒューマノイド市場に多角的に関与できることを示しています。

4:ヒューマノイドは「産業のiPhone」になるか?

2007年に初代iPhoneが登場したとき、多くの人はそれが単なる多機能な携帯電話だと捉えていたかもしれません。しかし、iPhoneが真の革命をもたらしたのは、そのハードウェア性能もさることながら、「App Store」というエコシステムを通じて無限のソフトウェア(アプリ)が生み出され、私たちの生活やビジネスのあり方を根底から変えた点にあります。

ヒューマノイドもまた、同様の道を辿る可能性を秘めています。現在、Tesla OptimusやFigure 01といった先進的なハードウェアプラットフォームが登場しつつありますが、これらのヒューマノイドが真に社会に浸透し、価値を生み出すためには、その上で動作する多様な「ソフトウェア」や「アプリケーション」が不可欠です。

初期のiPhoneアプリ市場がそうであったように、ヒューマノイドという新たなプラットフォームの上では、まだ誰も思いついていないような革新的なアプリケーションやサービスが次々と生まれるでしょう。そして、その「キラーアプリ」を開発した企業や個人が、次世代の"ソフトウェアの覇者"となるのです。

重要なのは、ヒューマノイドの進化はハードウェアメーカーだけが進めるものではなく、むしろその知能や実用性を高めるソフトウェア開発において、IT業界が中心的な役割を担うということです。人間と協調し、複雑な現実世界でタスクをこなすヒューマノイドの能力は、AI、センシング、制御、通信といったIT技術の進歩そのものに依存しています。

日本のIT人材にとって、これは大きな岐路を意味します。この巨大な変革の波を対岸の火事として「見ているだけ」になるのか、それとも自ら波に乗り、新たな価値創造の担い手となるのか。その選択が、個人のキャリアだけでなく、日本経済の将来をも左右するかもしれません。

今から「ヒューマノイド × IT」という視点を持ち、自身のスキルセットや自社の技術アセットが、この新しい市場でどのように活かせるのかを考え、具体的なアクションを起こし始めること。それこそが、10年後、20年後に花開く巨大マーケットの"主語"となり、その成長の果実を享受するための、最も確実な第一歩となるでしょう。ヒューマノイドはもはやSFではありません。IT業界のすぐ隣に広がる、次なるフロンティアなのです。

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