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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

世界の自動運転技術を「11の派閥」にまとめて整理したら全体像が見えた!

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2025年現在、自動運転技術は世界中で多様なアプローチが並立していますが、あえて11の「派閥」に分類してみると、全体が俯瞰できるようになります。

本記事では、各派閥の技術的特徴を簡潔に解説します。各セクションでは、AIモデルのタイプ(エンドツーエンドかモジュール分離型か、シミュレーション活用の有無など)、センサー構成(LiDARの有無、カメラ・レーダー構成)、ソフトウェアスタック(ミドルウェア、OS、API層、SDK提供の有無)、主要な採用企業・地域・用途(MaaS、量産車、都市限定、ADASなど)、そして技術的長所・短所・今後の展望について述べます。

1. テスラ派

テスラ派はカメラ(ビジョン)ベースのアプローチが特徴です。テスラは2022年に自社の「Autopilot/FSD」システムからレーダーや超音波センサーを廃止し、カメラのみによる認識に一本化しましたviksnewsletter.com。イーロン・マスクCEOは高価なLiDARに否定的で、「量産スケールでの自動運転には人間と同じくカメラ視覚が十分」と主張しており、LiDARに頼る企業は「高コストな松葉杖に依存している」とまで言及していますviksnewsletter.com。実際、テスラと同様に中国のXpengも近年LiDARを廃止して純粋カメラ方式へ転換するといった動きも見られますviksnewsletter.com

テスラのAIモデルは大量の走行データを用いたディープラーニングが核です。各車両から収集される映像と人間ドライバーの操作を「影で学習(シャドーモード)」し、不一致やイレギュラーをクラウドに集約することで、膨大なデータによるAI訓練を行っていますviksnewsletter.comviksnewsletter.com。ソフトウェアアーキテクチャ的にはHydraNetと呼ばれるマルチタスク学習ネットワークで視覚認識を行い(車両検知、車線検出、道路占有空間推定などを一括実行)、オキュパンシーネットワークによりカメラ画像から高精度な3次元環境把握を実現していますthinkautonomous.aithinkautonomous.ai。プランニング(経路計画)にはモンテカルロ木探索とニューラルネットを組み合わせた独自手法を採用し、映像から直接ハンドル操作を生成するようなエンドツーエンドに近い制御も一部導入されていますthinkautonomous.aithinkautonomous.ai。もっとも完全に中間処理を省いた単一AIではなく、認識と経路計画のモジュールは分離され、安全設計も併用されています。

センサー構成はカメラ主体8台+前方レーダー(※現在は停止)+超音波(※新車は未搭載)という低コスト構成です。LiDARに頼らないことでハード費用を抑え、200万台を超える市販車のフリートからデータ収集できるのが強みですviksnewsletter.comviksnewsletter.com。一方でカメラのみでは暗所や逆光での性能確保や距離測定の正確さが課題となり、また高精度地図も使わないため「周囲環境の完全な事前把握なし」にAIがどこまで対応できるかに挑む形です。このため、公道での無人運転(レベル4)達成には依然不確実性が伴い、2025年時点でもテスラの「Full Self-Driving (FSD)ベータ版」はドライバーの監視を要するADAS止まりで、人間の介入なしに走行できる距離は平均13マイル程度との報告もありますviksnewsletter.com。技術的長所は大量データによる自己学習能力コスト効率ですが、短所は安全性検証の難しさ規制当局からの慎重な視線です。今後はオキュパンシーネットワーク強化や自社設計スパコン「Dojo」で学習を加速し、ドライバーモニタ無しの自動運転実現を目指しています。

2. Mobileye派

Mobileye派はイスラエル発のモジュール分離型アプローチで、多数の自動車メーカーにADAS技術を供給してきた実績に基づく堅実な設計が特徴です。カメラとLiDAR+レーダーの二重系統(True Redundancy™)を採用し、それぞれ独立に環境モデルを生成して結果を統合する手法を提唱していますmobileye.commobileye.com。具体的には「カメラ単独でも走行可能なサブシステム」と「LiDAR・レーダー単独でも走行可能なサブシステム」を車載し、両者が完全に冗長な世界モデルを構築して相互チェックする仕組みですmobileye.commobileye.com。これにより一方のセンサー系統に不具合が生じても走行継続可能であり、また低レベルでセンサーフュージョンする一般的手法に比べ検証用データ量を大幅に削減できる利点がありますmobileye.commobileye.com。MobileyeのCEOであるアムノン・シャシュア氏は、安全性指標「RSS(責任感知安全)」の提唱者でもあり、システム全体を形式的に安全証明するアプローチも重視していますen.wikipedia.org

AIモデルは各機能ごとに独立したモジュールで構成されています。例えば物体検知はカメラ映像からのパターン認識とステレオ視差(三角測量)両方で実装しmobileye.com、経路計画は検知結果に基づくルールベースアルゴリズムと機械学習モデルの双方を用いるなど、アルゴリズム面でも冗長性を持たせていますmobileye.com。エンドツーエンドでブラックボックス化せず、人が理解・検証しやすい構成にしている点が特徴です。その一方、近年はニューラルネットの活用も進めており、特に画像認識にはディープラーニングを導入しています。またシミュレーション(仮想環境)も積極的に活用しており、自社開発の走行シーン生成やオープンデータセットでAIの挙動を磨いています。

センサー構成は目的に応じ柔軟です。一般車のADAS向けには低コストな単眼カメラシステム(EyeQチップ搭載)を提供し、例えばFordやNissanなど多くの車種で前方カメラ+EyeQによるAEBや車線維持機能が普及していますen.wikipedia.orgen.wikipedia.org。一方、無人タクシー(レベル4)向け開発車両には複数のLiDAR・レーダーを増設し、カメラのみでも走行可能な車両とLiDARのみでも走行可能な車両をそれぞれ開発して統合するといった実証も行っていますmobileye.commobileye.com。特筆すべきはREM (Road Experience Management)マップ技術で、世界中のMobileye搭載車から走行データをクラウド収集し、高度な道路地図「Roadbook」を自動生成・配信する仕組みですmobileye.commobileye.com。数千万台規模の車両データを低帯域で継続アップロードし、地図を常時アップデートすることで、自動運転車が事前情報を用いて走行可能なエリアを着実に拡大しています。このクラウドソーシング型HDマップはMobileye派の大きな強みであり、未知エリアへの展開スピードに寄与していますmobileye.commobileye.com

ソフトウェアスタックは自社製SoC(EyeQシリーズ)上で動作する専用プラットフォームです。リアルタイムOSとしてQNXや自社DriveOSを採用し、各社OEM向けにAPIを提供することで車両統合を容易にしています。最近では「EyeQ Kit™」として開発者向けツールも公開し、車メーカーがMobileyeチップ上で独自アプリケーションを開発する道も開いていますmobileye.commobileye.com。主要な採用企業は世界中に及び、ADAS分野ではGM、BMW、トヨタ、ホンダなど多数がMobileye技術を組み込んでいますen.wikipedia.orgen.wikipedia.org。またMaaS(無人タクシー)用途にも進出しており、イスラエルやドイツ・中国でロボタクシーの試験運行を実施中ですen.wikipedia.org。例えばミュンヘンではSixt社と提携し、NIO製EVにMobileye Driveキットを搭載した自動運転タクシーの展開計画があります。

技術的長所は安全重視の設計哲学既存OEMとの親和性です。冗長構成により単一センサーの限界を補い、RSS理論で事故リスクを定義・低減するアプローチは堅牢性が高いと評価されています。また現行車のADASから段階的に高度化できるため、広範な車両への適用が期待できます。短所としては、テスラ派に比べAI活用が慎重で開発速度が穏やかな点や、LiDAR等を用いるためコスト高になりがちな点が挙げられます。ただしMobileye自身もセンサーコスト低減に取り組んでおり、自社開発の安価なHD LiDARや4Dレーダー技術を投入し始めていますmobileye.commobileye.com。今後は提携先(例:ポルシェとの協業en.wikipedia.org)でレベル3自動運転機能を商品化しつつ、ロボタクシー運用でWaymo派などと競合する展開も見込まれます。

3. Waymo派

https://waymo.com/media-resources/


Waymoの第5世代自動運転システム(Waymo Driver)では、車両上部にLiDARを含む複数種類のセンサーを多層配置している。この堅牢なセンサー・スイートが周囲360°の高精度な環境認識を実現している(写真はJaguar I-PACEベースの車両に搭載されたWaymo Driver、第5世代)。

Waymo派(旧グーグル自動運転プロジェクト)は、最高水準のセンサー技術と高精度地図を駆使したフルスタック方式が特徴です。Waymoの自動運転車(Waymo One)は車体各所に合計29台ものカメラ、5基以上のLiDAR、6基のレーダーを搭載しboringsage.comboringsage.com、昼夜を問わず全方向にわたる環境把握を可能にしています。センサーはミッションクリティカルな冗長配置がなされており、一つのセンサーが故障しても他のセンサーでカバーできるよう重複視野・重複機能を持たせていますboringsage.comboringsage.com。例えば夜間や逆光で性能が落ちるカメラをLiDARで補い、LiDARが苦手な悪天候(雨・霧)はレーダーで補完するという具合ですboringsage.comboringsage.com。このような多層防御的なセンサー融合により、Waymo車両は非常に信頼性の高い「目と耳」を持つに至っています。また各センサーには自動洗浄機構が備わり、雨や泥による視界不良にも対応していますboringsage.com

AIモデルおよびソフトウェアスタックはモジュール細分型ですが、各段階で高度なディープラーニング技術を投入しています。Waymoのシステムは大きく地図生成・自己位置特定(ローカリゼーション)→周囲認識(パーセプション)→予測(予測モジュール)→経路計画→制御というパイプラインになっていますwaymo.comwaymo.com。まず走行エリアについては事前にHDマップ(高精度地図)を構築し、車両はLiDARなどで周囲をスキャンしながら地図と照合して自車位置をセンチメートル精度で特定しますwaymo.com。次にカメラ・LiDAR・レーダーから得た生データを融合し、ディープラーニングによる物体検知・分類を行います。WaymoはGoogle研究陣の先端技術を取り入れ、Transformerなど最新のAIアーキテクチャを用いた認識モデルを独自開発していますboringsage.comboringsage.com。認識された周囲車両や歩行者に対しては軌道予測AIが働き、数秒先までの他者の動きを確率的に見積もりますwaymo.com。その上でルールベースの経路計画アルゴリズムが取りまとめ、安全かつスムーズな経路(走行軌道と速度プロファイル)を決定しますwaymo.com。最後に車両制御モジュールがステアリング・アクセル・ブレーキを操作します。この一連の処理には高性能コンピュータ(車載GPU/TPU)が用いられ、リアルタイムに動作しますwaymo.com

Waymoのソフトウェアは各モジュール間で明確なインターフェースを持ち、検証と安全担保がしやすい設計です。同時に機械学習の恩恵を最大化すべく、シミュレーション環境での訓練も活用しています。Waymoは実車での延べ走行距離2,000万マイル以上に加え、シミュレーションでの走行距離は200億マイルを超えるとされていますwaymo.comwaymo.com。これら蓄積データでAI挙動を徹底テストし、レアなケースにも対応できるようSim2Realギャップ(現実との乖離)の克服を図っています。また、重大なヒヤリハット事例はシナリオ化され仮想環境で何百万回と再現試験されます。

主要な採用用途は完全無人のRobotaxiサービスであり、Waymoはフェニックス市やサンフランシスコ市で商用の配車サービス「Waymo One」を展開していますboringsage.com。2025年にはロサンゼルスやアトランタ等へもサービス拡大中と報じられ、累計ライド提供数は数百万回に上りますboringsage.comboringsage.com。また貨物輸送向けにトラック自動運転のWaymo Viaプロジェクトも進行しており、高速道路主体の長距離輸送で実証を行っています。技術的長所は現時点で最も高度な無人運転実績包括的安全文化です。多重センサーと詳細な地図による走行は極めて安定しており、公道での無事故走行記録も積み上げていますwaymo.comwaymo.com。短所としてはコストスケーラビリティが挙げられます。1台あたり数百万円とも言われるセンサー・コンピュータ構成viksnewsletter.comや、走行エリア毎に地図制作が必要なことは、大量生産車への即適用にはハードルです。しかしWaymoは第5世代・第6世代ハードウェアでコストダウンも進めておりwaymo.com、今後は提携先(JaguarやGeelyなど)の車両に同システムを組み込み、MaaS向けプラットフォーム提供者として収益化を図る戦略です。

4. GMクルーズ派

GMクルーズ派は、ゼネラルモーターズ(GM)の子会社Cruiseを中心としたアプローチで、Waymo派と同様にフルスタック・多センサー方式を採ります。Cruiseの自動運転車(主にシボレーBolt改造車や専用車両「Cruise Origin」)もライダー複数基・レーダー・カメラを車体全周に配置し、事前に作成した高精度地図と組み合わせて自律走行します。基本的な技術構成はWaymoに近く、モジュール分離型のソフトウェアでセンサー融合→物体検知→行動予測→経路計画→車両制御を実現しています。また安全面でもセンサー冗長やフェイルセーフ設計を重視し、各コンポーネントに冗長性を持たせています。

GMクルーズ派の特色は、大手自動車メーカー内製の強みを活かしている点です。親会社GMの量産技術や車両開発力を背景に、専用EVシャトル「Cruise Origin」のようなペダル・ハンドル無し自動運転車を最初期から開発できたことは他派閥にはない利点です。車両生産コストの引き下げや大規模展開に向けた工場活用など、ハード面でのスケールメリットが期待できます。またGM傘下であることから、将来は一般向け量産車へのフィードバック(先進ADAS機能の実装など)も可能です。実際、GMは自社ブランド車へのレベル2+運転支援「Ultra Cruise」開発も進めており、これにはCruiseで培われた知見が活かされています。

センサー構成・AIモデルは保守的安全重視です。例えばCruise車両は白地図が無い状況で走行することは想定しておらず、必ず高精細にレーザーマッピングした都市内でのみ運用します(いわゆるジオフェンシング運用)。カメラの死角はLiDARで補い、LiDARの弱点(悪天候時など)はレーダーで補完する融合戦略もWaymo同様ですreddit.com。一方で、ニューラルネット活用にも積極的で、物体認識や行動予測の高度化に機械学習チームが力を入れています。近年では強化学習を用いた意思決定AIの研究も進めており、シミュレーション内で人間さながらの運転挙動を学習させる試みも報告されています。

主要な用途は都市型ロボタクシーサービスで、Cruiseは2022年よりサンフランシスコ市内で完全無人タクシー営業を開始しました。深夜帯からスタートし、2023年には昼間含めた24時間営業へ拡大しています。またフェニックスやオースティンなど他都市でも展開中です。2025年現在、累計走行距離や輸送人数で見るとWaymoと業界を二分する位置にあります。ただし2023年末にはサンフランシスコでの許可が一時停止されるトラブル(事故調査のための行政処分)があり、Cruiseは体制見直しに迫られましたreddit.com。こうした都市交通当局との調整社会受容性も、この派閥の課題と言えます。

技術的長所はハードとソフトの垂直統合による完成度の高さです。車両プラットフォーム選定からサービス運用まで一貫させることで、実証実験を次々にサービス化できています。短所は巨額の投資負担規制対応でしょう。GMクルーズ部門は毎年数十億ドル規模の費用を投じており収益化の道筋は未だ模索中です。また公道走行では各州規制に従う必要があり、予期せぬ事故時には運行停止リスクもはらみます。今後はより一層AIを洗練させ、安全実績を積み上げることで規制緩和と事業拡大を狙う戦略です。

5. トヨタArene派

トヨタArene派は、トヨタ自動車がWoven by Toyota(旧社名Woven Planet)を通じて推進する車載ソフトウェアプラットフォーム重視の戦略です。自動運転そのものに加えて、**車両OS・開発基盤「Arene(アリーネ)」を構築し、自社・サプライヤー全体で車載ソフトを効率良く開発・更新できる体制を目指していますwoven.toyota。トヨタは「ソフトウェアファースト」への転換を掲げ、車をハードとソフト分離で進化させ続ける「ソフトウェア定義車(SDV)」**コンセプトを追求しています。その第一歩として、2025年度発売の新型RAV4にAreneプラットフォームを初搭載し、音声エージェントや最新ADAS(Toyota Safety Sense)機能をArene上で実装しましたwoven.toyotawoven.toyota

Areneの特徴は統合開発環境+車載OS+ミドルウェア+クラウド連携が一体となった包括的なプラットフォームであることです。Arene SDKはソフトウェアの設計・コーディング・テスト・デプロイ・保守まで一貫する統一ライフサイクルを提供し、従来は車種毎・ECU毎にバラバラだった開発を統合しますwoven.toyota。ミドルウェア層では抽象化APIによりハード非依存のアプリ開発を可能にし、ソフトの再利用性・ポータビリティを高めていますwoven.toyota。またArene Toolsとしてシミュレーション・仮想検証を強化しており、物理車両を用いずとも自動テストを繰り返せる環境を整備しましたwoven.toyota。実際、新RAV4のADAS開発でも高度なシミュレーションツールで走行シナリオを検証し、開発期間短縮に寄与したといいますwoven.toyota。さらにArene Dataでは車両から収集する走行データをクラウドで管理し、OTA(Over-the-Air)更新により市場投入後も継続的に機能改善する仕組みを持ちますwoven.toyotawoven.toyota。このようにAreneは車載ソフトを常時アップデート可能なサービスとみなし、トヨタの掲げる「ゼロ事故社会」実現に向け車両を成長させていく基盤となっていますwoven.toyota

自動運転AIモデル自体については、トヨタArene派は段階的アプローチを採ります。まずはドライバーを支援するADAS(Advanced Drive「Teammate」)で安全性とユーザー受容性を高め、そこから徐々に自動化度合いを上げる戦略ですwoven.toyotawoven.toyota。実際に2021年、トヨタはレクサスLSなどにレベル2+相当の「Advanced Drive(Teammate)」を搭載し、高速道路での条件付自動運転を実現しましたwoven.toyota。このシステムはLiDAR・カメラ・レーダーのマルチモーダル構成で冗長性を確保しwoven.toyota、電源・ブレーキ・ステアリング・センサー・プロセッサ・アルゴリズムまで二重化する安全設計となっていますwoven.toyotawoven.toyota。AIアルゴリズムは機械学習による画像認識や予測も使いつつ、ドライバーと協調的に動作するよう設計されています(システム名「Guardian/Chauffeur」の思想)。将来的にはAreneプラットフォーム上で**高度運転自動化(レベル4)**も展開予定ですが、Boschなど外部パートナーとも協業しつつ2020年代後半の実現を見据えています。

主要な採用企業・用途はまずトヨタグループ内です。レクサス/トヨタ車のADASや自動駐車、将来の無人モビリティ(e-Paletteなど)まで、Areneを共通基盤として横展開しますwoven.toyota。地域的には日本国内や北米での展開に加え、中国市場向けには現地ニーズに合わせたカスタマイズ開発も進めています(GD(広汽)やBYDとの協業など)。用途面では、一般顧客向け乗用車の安全機能強化(L2〜L3)と、モビリティサービス(MaaS)での実証(Woven Cityでの低速シャトルなど)双方を視野に入れています。

技術的長所は巨大OEMならではのスケール全体最適の追求です。Areneによって車種横断でソフト共有化が進めば、新機能を一度開発すれば多数の車両に波及できます。また数百万台規模の販売網から得られる走行データは貴重な財産であり、トヨタは既にL2車から4.4百万台・日当たり2TBものデータ収集基盤(プロジェクト「GAIA」)を中国で構築したとされますcariad.technologycariad.technology。短所は開発の遅れ高難度プロジェクトの同時進行です。現状、VWなど他社と同様に計画遅延や投資負担が指摘されており、ソフト開発文化の醸成にも時間を要しています。しかし2023年にトヨタは大幅な組織再編を行い、CARIAD出身の人材を登用するなど巻き返しを図っています。今後はAreneを業界標準プラットフォームの一つに育て上げ、**「トヨタ版Android」**とも言うべき地位を目指す展望です。

6. Baidu Apollo派

Baidu Apollo派は、中国Baidu(百度)が主導するオープンプラットフォーム型の自動運転エコシステムです。Apolloはソフトウェアをオープンソース(GitHubで公開)で提供し、かつ多様な企業・団体と連携して実証と実装を進めている点に特徴がありますautonews.gasgoo.com。技術的にはフルスタックでモジュール化されており、環境認識・高精度地図・ローカリゼーション・経路計画・車両制御といった各コンポーネントを提供します。アーキテクチャはROSを改良した「Cyber RT」ミドルウェア上に構築され、リアルタイム性能や大規模データ処理に配慮した設計です。ApolloはAutowareと並び業界で代表的なオープンソース自動運転ソフトウェアであり、レベル4自動運転まで対応可能と謳われていますarxiv.org。実際、中国国内ではApolloを基盤にした無人運転タクシーやバスの運行例が増えており、名実ともに「自動運転のAndroid」の様相を呈しています。

センサー構成やAIモデルは柔軟かつリファレンス実装を提供する形です。Apolloオープンソース版にはLiDARベースの3D物体検知アルゴリズム、カメラベースの認識、マルチセンサフュージョンによる追跡、ならびにルールベース+機械学習のハイブリッド経路計画など、多彩な手法が実装されていますarxiv.orgarxiv.org。ユーザー企業は自社のセンサ構成に合わせてApolloのモジュールを取捨選択・改変できるため、ある社は低コスト仕様(カメラ+レーダー中心)に、また別の社は高性能仕様(複数LiDAR搭載)にと、応用に応じたカスタマイズが可能です。Baidu自身も「Apollo Go」というロボタクシーサービス車両ではマルチLiDAR+マルチカメラ+レーダーのフル装備を採用しています。一方、高速道路向けADASではカメラ+レーダー主体の廉価版「Apollo Lite」を開発するなど、ニーズに合わせた派生開発も行っています。

Apolloのソフトウェアスタックはクラウド連携とインフラ協調にも強みがあります。中国政府・企業との協働により、一部都市では路側カメラや5G通信と接続したVehicle-to-Everything (V2X)環境でApollo車両の安全性を高めています。またBaiduの強みであるクラウドAIを活かし、シミュレーションプラットフォームやデータ解析ツールも統合的に提供しています。中国内外の開発者コミュニティも存在し、定期的にApolloのアップデートやハッカソンが開催されるなど、オープンイノベーションが推進されています。

主要な採用企業・用途としては、まず中国国内のRobotaxiサービスが挙げられます。Baidu自身が各地で「Apollo Go」という無人タクシーサービスを展開し、2025年1月時点で累計900万回以上の乗車サービスを提供しましたautonews.gasgoo.com。北京・武漢・重慶などでは既に一般客の乗車が可能で、2025年には全国で**完全無人運転(安全ドライバー不在)**体制に移行したと発表していますautonews.gasgoo.com。加えて、車両開発では一汽紅旗や奇瑞汽車など中国OEMがApolloプラットフォームを採用したモデルを開発中で、Valet Parking(自動駐車)機能や高性能ADASとして市販車に搭載する動きもあります。またApolloはバスや物流にも応用されており、福建省の工業団地で無人バス運行、雄安新区でデリバリーロボ運用など、多分野に広がっています。

技術的長所はオープン性による発展スピード政府支援・産学連携です。オープンプラットフォームゆえ世界中の開発者が改良に参加でき、中国政府もApolloを標準プラットフォームの一つとして推進する姿勢を見せています。実際に同国の自動運転関連標準規格の策定にもBaiduは関与しており、Apolloの仕様が事実上のデファクト標準になる可能性もあります。短所は品質・安全面のばらつきです。オープンソースゆえに実装の完成度やテスト範囲はユーザ側の責任となり、商用展開には相応の調整が必要です。またセンサー構成や車種の差によって性能も変わるため、統一的な安全証明が難しい側面もあります。もっともBaidu自身が手掛けるApollo Goでは、自社でシステム統合し継続改善を行っているため、安全性は着実に向上しています。今後の展望として、Apolloは**「自動運転OS」の世界標準**を狙っており、中国国外にもパートナーシップを拡大する計画です。現在すでにシンガポールやドイツ企業とも協業が報じられており、グローバルな開発コミュニティ形成に注目が集まります。

7. Huawei ADS派

Huawei ADS派は、中国の通信機器大手Huawei(華為技術)が近年急速に台頭させている自動運転ソリューションで、高性能ハードウェアとAIアルゴリズムの融合が特徴です。Huaweiは「自社では車を作らないが、自動運転技術の全てを提供する」スタンスであり、いわば自動車業界のティア1サプライヤー的立場で完全な自動運転キット(ADS: Advanced Driving System)を自動車メーカーに供給していますschen583.medium.com。2021年に北汽(ArcfoxアルファS)に初めてHuawei Inside搭載車が登場して以来、長安汽車(Avatr 11)や広汽(Alpha S7)など複数メーカーがHuaweiのADSを採用するモデルを発売しましたschen583.medium.com。これらの車両は搭載するセンサーやチップ構成によってADS 1.0・2.0・3.0世代に分類され、都市部での高度運転支援(NCA: ナビ付きクルーズアシスト)や自動駐車を実現していますschen583.medium.comschen583.medium.com

Huawei ADSの技術的目玉は、高コストなHDマップ(高精度地図)への依存を減らした高度AI運転です。初期のADS 1.0(2021年)は高精度地図前提で限定都市でのみ機能しましたがschen583.medium.com、ADS 2.0(2023年)ではGeneral Obstacle Detection (GOD)とRoad Cognition & Reasoning (RCR)というAI機能を組み込み、詳細地図が無くとも一般道を走行できるように改良されましたschen583.medium.com。この改良により、都市部NCA(市街地ナビ走行)が中国全土で可能となり、依存する地図は簡易な標準地図のみに留めています。またハードウェアもADS 1.0に比べ大幅に簡素化され、カメラ数を2つ削減・ミリ波レーダーを3つ削減・LiDARを3基から1基に削減、搭載チップも自社製SoC「Ascend 610」を2個から1個に減らすなど、コストを約10万元(約180万円)から3万元(約54万円)へ劇的に低下させましたschen583.medium.comschen583.medium.com。さらに最新のADS 3.0(2024年)はニューラルネットによるプランニングを導入し、より人間らしいスムーズな運転動作を実現していますschen583.medium.com。ADS 3.0搭載車では駐車場から駐車場まで一気通貫で自動走行する「家庭→目的地フル路線」シナリオが可能となり、既存車へのOTAアップデート提供も始まっていますschen583.medium.com

センサー構成はグレードによって異なりますが、高性能版ではLiDARを最大3基搭載するなど惜しみません。例えばArcfox Alpha S Huawei Inside版は前方バンパーに3基の96線LiDAR、6個のミリ波レーダー、12個の超音波センサ、13台のカメラを備えていますnetcarshow.com。これらに加え、Huawei製SoC「Ascend」の計算プラットフォーム(MDCコントローラ)を搭載し、合計400 TOPS級の演算性能でディープラーニングアルゴリズムをリアルタイム実行しますschen583.medium.com。一方、普及版のADS 2.0ではLiDARを1基のみ(フロント長距離タイプ)とし、ADS SE(エントリー版)ではLiDAR非搭載も選択可能とするなど、コストと性能を柔軟に調整できるラインナップを揃えていますschen583.medium.com。いずれもHarmonyOSベースの車載OS上で動作し、Huaweiが提供するミドルウェア・開発ツールチェーンで車メーカーは自車へ組み込みます。

Huawei ADSのソフトスタックは垂直統合が大きな強みです。自社製半導体(Ascend AIチップ)、自社OS・ミドルウェア(MDCプラットフォーム)schen583.medium.com、自社製LiDAR(2020年に96線D2、2023年に192線D3、将来512線D5を開発中schen583.medium.com)、自社製4Dレーダー、とハードからクラウドまで一貫して押さえています。クラウド側では7.5エクサFLOPSにも及ぶAIトレーニングインフラを構築し、日々3,500万km分の走行データで5日に1回ものペースでAIモデルをアップデートしているとされますschen583.medium.com。このデータ駆動型の迅速なPDCAサイクルにより、異例のスピードで機能改善を遂げている点は他社には真似し難い部分です。またOTAでユーザー車両にソフト更新を配信し、たとえばADS 2.0搭載車をADS 3.0相当にアップグレードするといった取り組みも実施しています。

主要な採用企業は中国国内の新興EVメーカーが中心です。長安汽車(Avatrブランド)、広汽(Aion)、SERES(AITOブランド)などがHuaweiと提携し、各社の高級EVにHuawei ADSを搭載しています。地域的には中国市場がメインですが、一部技術はEU規格認証も取得しており、将来的に海外展開する可能性もあります。用途としては一般ユーザー向けの高度運転支援が主眼で、渋滞時のハンズオフ運転や市街地でのドライバー見守り付き自動運転(レベル2++相当)を実現しています。現在のところロボタクシーなどMaaSではなく、あくまで個人車両の高性能ADASという立ち位置ですが、この分野ではテスラに対抗する存在感を示しています。

技術的長所は圧倒的な技術投資による性能エコシステム掌握です。Huaweiはスマートフォン分野で培った電子・ソフト技術を自動車に投入し、従来の自動車メーカーには難しかったペースでイノベーションを起こしています。高性能センサーとAIによる「地図レス運転」は革新的であり、2023年には市街地の複雑な交通流をノーミスで走破するデモ走行映像が公開され大きな話題となりました(※安全員は搭乗)。また統合プラットフォームの提供により、車メーカーは自社で全て開発するより短期間で高機能を実装できるメリットがあります。短所は海外展開の制約安全・信頼性の検証途上です。米中技術摩擦によりHuawei製品の米欧導入は慎重にならざるを得ず、当面は中国内での競争に限られます。またリリースサイクルが速い分、市場での長期実証はこれからであり、規制側から完全無人運転の許可を得るには実績が必要でしょう。しかしHuaweiは着実に技術改良を続けており、**「テック企業による自動車産業変革」**の旗手として今後も注目されます。

8. BYD DiPilot派

https://www.byd.com/za/news-list/byd-dipilot-intelligent-driving-assistance


*BYDの「天神之眼(God's Eye)」と呼ばれる自動運転技術ソリューションは3段階のバリエーションが用意されている。左から高性能版の**天神之眼A (DiPilot 600)は3基のLiDAR搭載で主にBYDの高級ブランド「仰望(Yangwang)」向け、中位の天神之眼B (DiPilot 300)はLiDAR 1基搭載でBYD準高級ブランド「騰勢(Denza)」等に適用、右の天神之眼C (DiPilot 100)*はLiDAR非搭載で前方3カメラを主センサーとしBYD大衆車に広く搭載される。

BYD DiPilot派は、中国のEV最大手BYDが自社開発している運転支援システムで、量産EVへの全方位展開を目標としています。2025年2月に発表された新世代「DiPilotシステム」は、上位からDiPilot 600(LiDAR3基)DiPilot 300(LiDAR1基)DiPilot 100(LiDAR無し・トリプルカメラ)の3種類があり、それぞれ搭載ブランドと機能レベルが異なりますbyd.com。たとえば最高位のDiPilot 600(商品名「天神之眼A」)はBYDの超高級EVブランド「仰望(Yangwang)」向けで、車体に3つのLiDARを組み込み高度な環境把握を行います。中位のDiPilot 300(同「天神之眼B」)は高級EVブランド「騰勢(Denza)」等に採用され、LiDAR1基でコストと性能のバランスを取ります。大衆車向けのDiPilot 100(同「天神之眼C」)はLiDAR非搭載ながら前方3眼カメラ+5ミリ波レーダ+12超音波センサ(5R12V)という構成で、市販価格数十万元以下の車種にも高度な運転支援を提供しますbyd.combyd.com

技術面でBYD DiPilotの特徴は、エンドツーエンドAI制御の導入にあります。DiPilot 100では「エンドツーエンド制御アルゴリズム」を謳っており、センサー入力から車両制御までを統合的に学習したAIが担っていますbyd.com。具体的には、カメラ映像やレーダーデータから直接ステアリングやアクセル操作量を出力するディープラーニングモデルを含んでおり、従来型のモジュール分割アプローチと組み合わせることで人間に近い運転挙動を実現しています。これにより、高速道路や都市高架道路ではHNOA(High-speed Navigate on Autopilot)機能として自動で合流・車線変更・分岐走行を行い、地図に従って自動巡航が可能ですbyd.com。さらにMNOA(Memory NOA)機能では通勤経路など高頻度ルートをAIが学習し、信号停止・右左折・複雑交差点通過・追い越しといった市街地運転も自動化しますbyd.com。駐車についてもAVP(自動バレット駐車)を備え、降車後に車が自動で最寄り駐車場へ入庫することができますbyd.com。これら機能は既に一部市販モデル(例えば「漢EV」など)で実現されており、BYDは全車種標準搭載・無償提供という大胆な戦略を採っていますinsidechinaauto.com。実際2025年には、わずか10万元(約180万円)の廉価EVにも自動運転機能を持たせる計画が報じられていますrdworldonline.com

センサー・ハード構成は上述のようにピラミッド型戦略です。高級モデルでは複数LiDAR+高性能SoC(NVIDIA Orinなど)でレベル3相当の自動運転を目指し、中級では1 LiDAR+Orin単体でバランスを取り、普及帯ではLiDAR無し+Mobileye EyeQや自社開発SoCでコスト最優先と、車格に応じ最適化されていますbyd.com。しかしソフトウェアは共通基盤であるため、たとえば低価格帯モデルでも前方トリプルカメラから得た情報をディープラーニングで統合し、LiDAR無しでも高精度な認識・判断を行えるよう工夫されています。BYDはこのカメラ中心アプローチについて「God's Eye(天神之眼)」と称し、自信を見せています。必要に応じて、後付けで一部車種にLiDAR追加可能な拡張性も備えています。

ソフトウェアスタックは自社開発+一部スタートアップ技術統合です。BYDは2023年に自動運転ベンチャー「DeepRoute.ai(新智駕)」からAIアルゴリズム提供を受ける提携を発表しておりcnbc.com、これによりカメラAIの精度を上げています。また世界トップクラスの5000名以上のソフト・電子エンジニアを擁しbyd.com、中国BAT(百度・阿里・テンセント)の優秀人材も積極登用するなど社内力も充実させています。Wintel連合ならぬ「BYD+Horizon Robotics」連合で自社向けチップ開発も進めており、一部車種には中国Horizon社のJourneyシリーズSoCが載っています。開発プロセス面では、他社に比べ短期間で実装するためアジャイル開発&OTA前提で臨んでおり、市場に投入しながら改善する手法を取っています。

主要な採用用途はBYDグループ内の乗用車全般です。BYDはEV販売世界一のボリュームを背景に、2025年までに全モデルでNOA機能を実装すると宣言していますdrivencarguide.co.nz。地域的にはまず中国国内ですが、BYDは欧州・日本・東南アジアなど急速に進出中であり、それら市場でも規制に合わせて順次ADAS機能を解放していく見込みです(例えば欧州の自動車アセスメント要件に対応する形で自動運転レベル拡張)。用途は一般ユーザーの運転負荷軽減と安全向上が主目的ですが、将来的にはBYD自らタクシー運行会社を立ち上げる可能性も指摘されています。

技術的長所は圧倒的なスケールメリット普及戦略です。自社で車両を年間200万台以上生産できるため、先進技術を一気に普及させるポテンシャルがあります。DiPilot機能を全車標準・無料としたことで、中国市場では他メーカーに対し大きな競争優位を築きつつありますinsidechinaauto.com。また数百万台の走行データからフィードバックを得てAIを磨くサイクルも形成できていますbyd.com。一方短所は機能名と実態のギャップ品質管理の難しさです。例えば「1000km無介入運転可能」byd.comといったプロモーションはテスト条件付きであり、実際のユーザー環境でどこまで安定するかは未知数です。また低価格車に高度機能を搭載することで、ユーザーが過信し無謀運転を誘発するリスクも指摘されていますwired.com(例:米テスラのFSDが批判されたように、BYDの命名も誤解を招く恐れがあるとの声)。今後、BYDは実使用データを蓄積し不具合を素早くOTA修正することで、安全性と信頼性を高めていく必要があります。しかしその柔軟な開発手法と企業規模を考えれば、**「安価で高機能な自動運転車を世界に供給する」**というBYDのビジョンは十分現実的と言えるでしょう。

9. NVIDIA派

NVIDIA派は、米NVIDIA社が提供する**自動運転プラットフォーム(ハード+ソフト)を核としたアプローチです。NVIDIAはGPUメーカーから発展し、自動運転向けに車載AIコンピュータ「NVIDIA DRIVE」シリーズを展開しています。この派閥では、車載コンピュータ(SoCモジュール)+専用OS(Drive OS)+ミドルウェア&ライブラリ(DriveWorksなど)+開発ツールが一括提供され、自動車メーカーやスタートアップはこれを用いて自社の自動運転システムを構築しますinvestor.nvidia.com。いわば「自動運転のプラットフォーム提供者」**であり、自らロボタクシーサービス等は運営しませんが、多数のプレイヤーを下支えしています。

ハードウェア面では、2025年現在NVIDIA Orin™ SoC(254TOPS性能)を搭載したDRIVE AGX Orinが主力で、今後さらに強力なDRIVE Thor(推定2000TOPS級)が登場予定ですnvidianews.nvidia.com。センサーはユーザー側の構成に委ねますが、NVIDIAは自社リファレンス車両「Hyperion」においてカメラ12台・LiDAR1~2基・レーダ9基・超音波などを組み合わせた推奨構成を提示しています。AIモデルに関しても特定の方式に縛らず、ディープラーニング+従来アルゴリズムの組合せや、エンドツーエンド制御の研究など幅広く支援しています。例えばNVIDIAは2016年に最初期のend-to-end運転AI「DAVE-2」を発表し話題を呼びましたが、その後は主にモジュール別のAI(物体検知ネットワーク、路面セグメンテーション、ドライバー状態検知など)を製品ライブラリ化し、SDKとして提供しています。

ソフトウェアスタックは安全認証と開発効率を重視しています。Drive OSはASIL-D(車機能安全の最高水準)準拠の組み込みOSで、リアルタイム性と信頼性を担保しています。またミドルウェアのDriveWorksやCUDAライブラリ群により、センサーデータ取り込みからAI推論・地図処理まで高効率に実装できます。さらにシミュレーション基盤「Drive Sim(Omniverse上)」とデータセンター向け学習インフラ(DGXサーバ)も用意され、クラウドから車載機までシームレスな開発環境が整っていますinvestor.nvidia.com。NVIDIA自身はこれを「データ収集→AI学習→シミュレーション検証→車載実行」を一気通貫する3層コンピューティングソリューションと呼び、次世代モビリティ実現を後押ししていますinvestor.nvidia.com

主要な採用企業は非常に幅広く、乗用車OEM・トラックメーカー・ロボタクシースタートアップ・ティア1サプライヤーなど多数です。公式発表によれば「現在ほとんどの自動車メーカーや新興モビリティ企業がNVIDIA DRIVEを採用している」とされinvestor.nvidia.com、具体例としてトヨタ(次世代車にOrin採用)investor.nvidia.com、メルセデス・ベンツ(共同開発で2024年以降の全モデルに搭載予定)、ホンダ(2020年代後半から採用予定)、Jaguar Land Rover(2025年から全車に搭載予定)nvidia.comなどが挙げられます。新興勢も多く、米Lucid Motorsや中Li Auto・NIO・Xpeng、さらに自動運転子会社を持つVWグループやVolvo/Scania、MobilityスタートアップのZoox、Nuro、Waabi、Wayve、さらには中国の小米汽車まで名を連ねますinvestor.nvidia.com。BYDも2022年以降のモデルにOrin採用を決めておりinvestor.nvidia.com、世界的なデファクト標準プラットフォームの様相です。

技術的長所は最先端ハードの即時活用エコシステムの広がりです。自動車メーカー単独では開発が難しい先端半導体をNVIDIAが供給することで、各社は自動運転機能を迅速に実装できます。安全認証など共通部分もNVIDIA側で処理するため、各社は差別化部分(AIアルゴリズム調整やユーザー体験)に注力可能です。また採用社が多いため、NVIDIAプラットフォーム上での知見共有やサードパーティ製ツールの充実といった好循環も生まれています。短所としては各社の独自性低下リスク外部依存です。NVIDIAに乗る企業が増えるほど、最終製品の機能・性能が似通ってしまう恐れがあり、特にソフトウェア開発力を自社コアにしたいトヨタ・VWなどは過度な依存を避ける動きもあります。またハード供給面では半導体不足リスクや地政学的リスクも孕みます(米国規制により中国向け高性能チップ制限など)。しかしNVIDIA自身はこうした懸念に対応すべく、中国向けには性能調整版Orinを提供するなど柔軟にビジネス展開しています。全体として、NVIDIA派は**「黒子」**に徹しつつも業界標準を席巻する存在であり、今後Thor世代でさらなる性能リーダーシップを発揮するでしょう。

10. Autoware派

Autoware派は、日本発のオープンソース自動運転ソフトウェアを中心としたアプローチです。Autowareは2015年に名古屋大・Tier IVなどが開発開始したOSSで、ROS(Robot Operating System)上に自動運転の基本モジュール群を実装しています。完全オープンであるため研究用途やプロトタイピングに広く使われ、世界中の大学・企業がコミュニティに参加していますarxiv.org。Autowareは**「誰でも自動運転開発を始められるプラットフォーム」**を目指しており、高精度地図やシミュレータなど支援ツールも含め提供されていますarxiv.orgarxiv.org。Apolloと並び二大OSSとされますが、Apolloが中国企業主導なのに対し、Autowareは日欧研究者主導である点で文化が異なります。

技術的にはフルスタック・モジュール分離型です。センサーデータ取得から物体認識(LiDAR点群クラスタリング、カメラ物体検知YOLO統合など)、自己位置推定(NDTマッチング+EKFなど)arxiv.orgarxiv.org、経路計画(Waypointベース)、車両制御に至るまで一通りの機能を備えます。AIも活用していますが、基本は古典的手法とAIのハイブリッドで、例えばLiDAR物体検知はLシェイプフィッティング等のモデルベース手法とPointPillarsディープラーニングの両方を組み合わせていますarxiv.org。ミドルウェアにはROS2(DDS通信)を採用し、Apolloのような独自共有メモリによる速度最適化は施されていませんarxiv.org。そのため大規模データ転送時にオーバーヘッドがありますが、ROS2標準に準拠する利点として他ロボット分野との親和性やツール資産活用が挙げられます。またAutowareは安全域が限定されており、CityPilot(低速シャトル)やCargo Delivery(限定区域内運搬)など、比較的単純な運用シナリオでの利用が想定されています。

主要な採用企業・用途としては、実証実験や低速自動運転サービスが中心です。日本では自動運転ベンチャーTier IVがAutowareをベースに商用プロダクト化し、福岡アイランドシティでの無人バスや羽田空港での自動運転実験に提供しました。欧州でも仏Iveco社の低速シャトルやドイツの物流カートにAutoware派生版が組み込まれる例があります。また大学研究ではAutowareがデファクトとなっており、新アルゴリズム提案時のベースライン実装に使われます。Autoware財団にはトヨタやArm、Ubuntuなども参加しており、将来的に自動車標準プラットフォームとなる可能性もあります。

技術的長所はオープン性・透明性カスタマイズ自由度です。ソースコードが全公開されているため、安全策やアルゴリズムを理解・検証しやすく、自社要件に応じ変更できます。費用面でもOSSであるため初期投資を抑えられ、スタートアップが素早く試作するのに適しますarxiv.org。短所は性能・信頼性が商用水準に達していない点です。例えばリアルタイム性ではApollo独自ミドルウェアに軍配が上がりarxiv.org、また総合性能もWaymo派やHuawei派のような先行企業には及びません。しかしAutowareはコミュニティで改良が続いており、ROS2による実行効率向上やAWS上での大規模シミュレーションテストなど、着実に進歩しています。今後は安全認証(ISO 26262対応)やミドルウェア性能改善を進め、「車載Linux」のような存在になることが期待されています。

11. Cariad派(VW派)

Cariad派は、独Volkswagenグループの子会社Cariadが主導する大手OEM内製ソフトウェア戦略です。VWグループはAudi・Porscheをはじめ多数のブランドを傘下に持ち、それら全車種のソフト共通化と高度化を図るため2020年にCariadを設立しました。目標は統一車載OS「VW.OS」と共通ADAS/ADプラットフォームの開発で、将来的にレベル4自動運転まで自社で賄おうとしていますvolkswagen-group.cominsideevs.com。しかし創設以来困難も多く、ソフト開発の遅延からAudi/Porscheの新EV発売が延期する事態となり、2023年には経営陣刷新と路線見直しが行われましたinsideevs.cominsideevs.com

技術的アプローチとしてCariad派は自社開発+外部提携の組合せに転換しています。当初は全機能を内部で賄おうとしましたが難航したため、現在は地域毎・用途毎にパートナーと協力して開発を進めていますinsideevs.com。例えば中国市場向けにはXpeng社やHorizon Robotics社と提携し、現地ニーズに合ったAI駆動のADASを開発していますinsideevs.com。2025年から中国の次世代EVに独自AIアシスタンスシステムを搭載予定で、2TB/日・10万km/日規模の走行データを活用する計画が発表されましたvolkswagen-group.comcariad.technology。北米向けには電気ピックアップで実績のあるRivian社と協業し、VW子会社Trinityでのコード共有も図っていますinsideevs.com。欧州向けにはBoschやQualcommと連携し、2025年には新開発のADASシステム「SSP5.2」をAudi Q6 e-tron等に搭載予定です。こうした協調路線により、Cariadは自前主義の行き詰まりを打開しつつあります。

センサー構成やAIモデルは、各ブランド戦略に合わせ柔軟に設定されます。Audiは長年LiDAR搭載に意欲的で、2024年以降の上位モデルにはLuminar社製LiDARを採用予定です。VWブランドはコストに敏感なため、カメラ+4Dレーダー主体でソフトウェア側AIを強化する方向です。いずれにせよ、走行環境に応じて高精度地図を活用するモジュール式を維持しつつ、必要なところにAI学習モデルを組み込み安全性と快適性を両立させる方針です。たとえば、高速道路渋滞時のハンズオフ機能や、都市部での渋滞支援(レベル3)機能は2026年前後に一部モデルから提供すると発表されています。

ソフトウェアスタックはVW.OS(Linuxベースの統合OS)とVW.AC(統合クラウド)で構成されます。ミドルウェアにはAUTOSAR Adaptiveや自社開発フレームワークを採用し、OTA更新とアプリ生態系にも備えています。2023年にはCariad組織再編で約1600人の人員整理を発表しつつ、優秀なコーディング人材を再雇用する方針を示しましたinsideevs.cominsideevs.com。「コードを自前で書き理解する」体制への回帰で、外注頼みの悪循環から脱しようという意図です。この結果、一時期遅れていたUI/UXソフトは改善し、遅延の象徴だったVW ID.シリーズのインフォテイメント不具合も解消傾向にありますinsideevs.com。Cariadは今後、クラウドインフラやADASソフトに経営資源を集中しつつ、レベル4以上の完全自動運転は**「2030年頃に延期」**としていますinsideevs.com。まずは収益に直結するADAS・インフォテイメント領域で各ブランドの競争力を高め、その先に無人運転モビリティへの進出を図る構えです。

技術的長所は自社グループ全体を巻き込んだ標準化であり、VWグループの年千万台規模の製造力を背景に、一度うまくいけば世界最大級のソフトウェアデプロイが可能です。特に車両間のコネクティビティやクラウド連携サービスにおいて、自前プラットフォームを持つ意義は大きいです。短所は投資負担とスピードの遅さです。Cariadはすでに数十億ドルの赤字を計上し、新EVの投入遅れで数千億円規模の機会損失も招きましたinsideevs.com。またテック企業に比べ開発カルチャー醸成に時間がかかり、人材採用も苦戦しました。しかしPeter Bosch新CEOのもと、戦略見直しとコスト削減で軌道修正が進みつつありますinsideevs.com。地域毎に最適解を取り込む柔軟性も出てきたため、将来的には**「自前も活用もできるハイブリッド型」**の成功例となる可能性があります。ヨーロッパ勢の雄として、Cariad派がこのまま巻き返し、テスラ派・Huawei派などに対抗する独自ソフトウェアエコシステムを築けるか注目されます。


以上、11の派閥それぞれについて技術スタンスを概観しました。センサー重視 vs カメラ純粋主義統合エンドツーエンドAI vs モジュール冗長安全オープンプラットフォーム vs 内製囲い込みなど、アプローチは多種多様ですが、最終目標である「安全で社会受容性の高い自動運転」の実現に向け各派閥とも収斂しつつあります。2025年時点では、限定条件下での無人運転(レベル4)はWaymo派・Cruise派・Apollo派など一部で実現し始め、一般消費者向けにはTesla派・Huawei派・Mobileye派・BYD派などが高度ADASを急速に広めています。それぞれ長所短所があり、自動車メーカー各社は単独ではなく複数アプローチの要素を組み合わせ始めてもいます。今後数年で陣営の統廃合や相互提携が進むことも予想され、技術の優劣だけでなく規制動向・消費者の信頼・コストなど総合力が試されるでしょう。本稿が各アプローチの理解と比較の一助となれば幸いです。

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