電力取引所での取引が急増していることから
昨日の日経で「電力取引が急拡大、電力大手活発に、値上げ新査定売却促す」という見出しで、電力取引所の取引が活発化しているとの報道がありました。
これについて若干の補足を。
■取引所に売り始めたPPS
先日、日本の電力取引所の状況に詳しい方のお話を伺う機会がありました。彼によると、昨年ぐらいから、電力取引所で売買される電力の単価が上がっており、大変に興味深い状況が生まれているとのことです。
短くまとめると、
・取引所で定常的に売買される価格が高止まりしている。
・PPS(新電力)が自由化領域にいる顧客に小売する価格よりも、若干高い金額になるケースが多い。
・その場合は、小売に回すよりも取引所に売った方が利益が出る。
・よって、小売に回さずに、電力取引所に売るという行動が見られている。
ということです。
■背景は?
仮にこの価格を15円/kWh前後だとすると、PPSが電力取引所に売った方がよいと判断するのは、自らが契約をとって開拓した顧客に売っている価格が例えば14円台/kWhだったりするということです。だから小売をやめて取引所に売った方がよい。
そして、電力取引所を通じて買っているのはおそらく電力会社ということであり、それはすなわち、原発が停止して火力を焚き増さなければいけない状況で、LNGや重油で焚く火力の発電量を増やすよりは、電力取引所で15円なりの価格で買った方がコストは安く済むということなのだろうと推察します。これはこれで非常に合理的な行動です。
(ただし、実際の金額が14円台、15円台なのかどうかは、わかりません。あくまでも、話をわかりやすくするための例としての価格ですので、お間違いのないように)
■原発の再稼働と日本の燃料調達の関係
電力会社一般において割高な化石燃料(LNGおよび重油)を調達して焚かなければいけないのは、言うまでもなく原発が停止しているから。仮に現在のLNGの相場で調達したガスを焚いて発電した場合の発電コストが、電力取引所で定常的に売り買いされている電力価格よりも高い場合には、当然ながら取引所で調達する量を増やすということになります。変数には再稼働する原発の数と輸入LNGの相場とがあり、そこに大きな変化が起こらない限りは、電力取引所の取引価格は高止まりしたまま。PPSが小売せずに取引所に売る行動はその間、続くでしょう。
■電力自由化にとってどういう意味がある?
取引所での売買が活発化している状況は、これからコンシューマ分野まで自由化範囲が広がろうとしている電力自由化にとって、どういう意味があるでしょうか?
これまで日本の電力価格は、特にその卸電力の部分に着目しても、様々な構造が複合していて、市場価格というのがないに等しかったと言えます。様々な構造とは、総括原価方式とか電力事業の垂直統合形態とかということです。化石燃料の海外からの輸入にも市場価格が働きにくいところがあったかも知れません。
そこに過去2年の大きな環境変化があり、少しずつ市場価格というものが出来、それが周囲に影響を及ぼし始めている、ということではないかと思われます。
すなわち、市場参加者の間で、電力を安く供給するインセンティブも生まれるでしょうし、買う側は高い燃料調達を避けて安く取引所で買うということにもなるでしょう。市場参加者の間で様々な新しい行動が見られるようになります。
これが電力自由化にとっては、より好ましいことであることに違いはありません。電力自由化を是とする立場からすればです。
■電力自由化=電力料金が上がる?
しかしまあ、みんなが市場で合理的な行動を取り始めれば、電力価格は完全に需給を反映した動的な価格に収斂していきますから、安い化石燃料の調達ができにくいわが国の特性を踏まえると、長期的にはやはり電力価格は上がっていくということになるのではないかと思われます。そのなかでコンシューマー分野の小売自由化がなされれば、様々な工夫により電力料金を「下げる」事業モデルが出てくるでしょうが、電力価格そのものが需給を反映した動的なものになってしまったという現実を覆い隠す事業モデルというものは存続できないはず。つまりは、消費者も、ある場面では、高い電力を買わなければならないということになるかと思います。
■発電事業者の新たなインセンティブ
こういう状況が出てくるとすれば、電力事業に関わっていこうとするベンチャー的な精神にあふれた企業にとって、何をやるべきか?
1つは、高い電力の購入をありとあらゆる面で避けられるスマートグリッド系の技術・サービスの開発ということです。非常に賢いデマンドレスポンスということになるでしょうか。
もう1つは、発電事業側の視点で、安く発電できる発電所を新たに建設して、市場に安い電力をふんだんに提供するということになっていくかと思います。
石炭の時代ということでしょうか。