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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

「エアポートシティ」という魅力的な考え方(下)

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先日、空港民営化に関するセミナーで講師をやらせていただきました。

空港運営民営化で生まれるビジネスチャンス

二番目の話題、「世界の主要空港で重みが増す非航空系事業~主要オペレーターの取組み事例~」で、空港ビジネスにおける非航空系事業の概況と非航空系事業の収益を向上させるための指針についてお話をさせていただきました。

■非航空系事業が空港ビジネスの収益性を決める

世界的に空港ビジネスの世界では、航空会社よりも収益性が高いのは空港運営会社であるというのが通説のようで、様々な資料でそのことが指摘されています。ドイツ銀行が作成した以下はその一例。

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とすれば、これから参入するのであれば、エアライン事業ではなく空港運営事業を選んだ方が得策ということになるでしょう。
エアライン事業は世界的な景気の動きによって需要が大きく変化し、また、燃油の相場によって利益が大きく変化します。相対的に空港ビジネスの方がよさそうだということは直感的に理解できます。

空港ビジネスの中身は大きく着陸料に代表される航空系事業と、デューティフリーなどの物販に代表される非航空系事業に分かれます。前者の収益がエアラインの需要と連動してシクリカルなものであるのに対し、後者は比較的安定しており、「読みやすい」(predictable)そうです。そのへんを論じている資料には以下があります。

"Determinants of retail revenue for today’s airports", Nadezda Volkova, Berlin School of Economics
"Airport Revenues and User Charges", Amedeo R. Odoni, Massachusetts Institute of Technology
"Potential of Non-Aeronautical Revenues for Airport Duesseldorf International", Jenny Jose Parappallil, International University of Applied Sciences, Germany

空港ビジネスで大きな利益を上げている企業は、この安定していて読みやすい非航空系事業に着目し、その比率を高めることによって空港事業全体の収益向上を図っています。
世界の空港民営化事例の代表例であるヒースロー空港(BAAが運営)にしても、シンガポールのチャンギ空港にしても、非航空系事業が経営の要です。以下はチャンギ空港の事業収入の内訳。

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■第三のカテゴリー

エアポートシティはこうした空港ビジネスの延長で捉えられるものですが、非空港系事業の範疇に収まるかと言うと、収まりません。ビジネスの区分で言えば、1. 空港系事業、2.非空港系事業に続く、第三のカテゴリーになるようです。

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エアポートシティ事業は誤解を恐れずに言えば不動産業であり、既存の空港オペレーターの事業領域と内容がかなり異なります。それはオフィス、ホテル、流通小売施設、物流施設、工業団地、住宅などを含む都市開発に他ならず、投下する資金の規模、プロジェクト期間、収益モデルが空港系事業および非空港系事業とは大きく異なります。これを動かすのに必要とされるスキルは文字通り不動産業で得られたスキルです。
従って、欧州などの空港オペレーターのうち、エアポートシティに取り組み始めた企業は、社内に新しい部門を設ける、ないしは子会社を設けて、不動産業界から人材を招いて臨んでいます。
日本で空港民営化の延長でエアポートシティを検討される方々は、同じことを行う必要があると思います。

■エアポートシティの「顧客」は誰か?

エアポートシティの構想を進める際にもっとも重要なのは、「誰がそこに住むか」「誰がそこで働くか」を明確に定め、その「人に合ったシティ」にする必要があるということです。
このへんは、エアポートシティ提唱者であるJohn Kasarda教授の姿勢が参考になります。

彼は「未来を読んでかかる」学者であり、10年後〜50年後に航空機が果たす役割を先取りしてエアポートシティの構想に入れ込んでいます。
仁川国際空港と対になっている新松島(ニューソンド)の例で言うと、

1. 今後の経済発展はアジアを中心にしたものになる。
2. 欧米企業の多数がアジアのハブに拠点を設けるであろう。
3. 欧米企業アジア拠点のエグゼクティブたちは空路で毎日のようにアジア各地を飛び回るであろう。
4. 空港のそばに住宅、オフィス、コミュニティ、生活や文化のための施設などが必要になるであろう。
5. 新松島はそのような人のためのエアポートシティである。

こういう流れで発想しています。
従って、新松島の細部はそうした顧客層にカスタマイズされて設計されています。こういう割り切り方、顧客層を明確に絞って他のものは捨てるアプローチ。これもこれで1つのやり方です。また別なやり方もあると思いますが。

このように「誰が住むか?」「誰がそこで働くのか?」は非常に重要な視点です。

日本でも過去20年の間に関西国際空港や中部空港においてエアポートシティが計画され、具体化が進められてきました。また、羽田空港の国際空港化に伴い相対的に地盤沈下が予想される成田空港の周辺では、エアポートシティ的な考えに基づく開発計画がいくつかあるようです。従来の計画をアップデートする場合にも、成田などで新しい計画を作る場合でも、「誰がもっとも利用するのか?」を真剣に考える必要があると言えるでしょう。予定調和的に何かを作っても、箱ばかりができて誰も利用する人がいないということになりかねません。

向こう20年〜50年を考えるなら、隣接する中国の潜在顧客(富裕層、ビジネスマン層)の需要はもっとも重視すべき要素であり、それ抜きにしては日本のエアポートシティは成り立たないかも知れません。空港に隣接したリトル上海。それも超未来的な都市。そんな方向性に活路がありそうです。

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