MCPについてのアルトマンの発言からSIビジネスのこれからのあるべき姿を考えた
OpenAIのCEOであるサム・アルトマンが、「People love MCP and we are excited to add support across our products(みなさんMCPが大好きですね。私たちも自社のあらゆる製品でサポートを追加することを楽しみにしています)」とXに投稿しました。
多くの人たちにとっては、この発言が何を意味することなのかを分からないでしょう。そもそも、こんな情報など入ってくることなどなく、大海に落ちる雨粒の1つであり、例え一瞬目にとまってもすぐに記憶から消えてしまうのではないでしょうか。
しかし、これは、ITに関わる人たちにとっては、極めて重要な情報です。SI事業者にとっても同様です。AIビジネスのあり方が大きく変わる可能性があるからです。
MCPとは「Model Context Protocol」(モデルコンテキストプロトコル)のことです。これは生成AIモデルのコンテキスト情報を管理するためのオープンな標準プロトコルです。AIモデルが処理する情報の文脈や前後関係を効率的に扱い、異なるAIシステム間でコンテキスト情報を共有できるようにする仕組みを提供します。このプロトコルによって、AIモデルの応答の一貫性や精度を向上させることが可能になります。
アルトマンの発言は、例えば、「アメリカ合衆国が、いままで使っていた英語を辞めて、他国が使っていたライバル国の中国が使っている中国語を標準語として使いますね」といった感じでしょうか。つまり、AIサービスを提供する企業で圧倒的なシェアで第1位に君臨するOpenAIが、第2位であり、OpenAIからスピンアウトしたエンジニアたちが創ったAnthropicのMCPを採用するというわけです。
この発表による影響を整理すると、次のようになるでしょう。
- 競合の壁を超えた協力 - OpenAIが競合のAnthropicが開発したオープン標準を採用することで、業界全体の協力体制が強化されます。
- 標準化されたAI連携 - MCPは「AIアプリケーション用のUSB-Cポート」として、異なるAIモデルとデータソースを統一的に接続します。
- エコシステム拡大 - OpenAIは自社製品全体(Agents SDK、ChatGPTアプリ、Responses API)でMCPをサポート予定で、AI連携の可能性が広がります。
- 開発効率化 - 開発者がシステムごとに特別な実装を作る必要がなくなり、AIツールの開発・連携が容易になります。
なぜ、OpenAIがMCPのサポートを表明したのでしょうか。これについて、AnthropicのClaude 3.7 Sonnetに尋ねてみました。
- 相互運用性の価値認識 - MCPはAIモデルがビジネスツール、ソフトウェア、コンテンツリポジトリなど様々なデータソースから情報を引き出せるようにします。OpenAIもこの相互運用性の価値を認識し、自社製品の価値向上につながると判断したと考えられます。
- ユーザー要求への対応 - アルトマンのツイートでは「みなさんMCPが大好きですね」と述べており、ユーザーやデベロッパーコミュニティからの強い要望に応えた側面があります。
- エコシステム拡大の戦略 - MCPが数千もの統合を持つ発展的なオープン標準になりつつあるなか、OpenAIがこの成長するエコシステムに参加することで、自社製品の活用範囲を広げる戦略的判断をしたと考えられます。
- 業界標準の形成促進 - AI業界の主要プレイヤーとして、断片化されたツール連携よりも標準化されたアプローチを採用することで、業界全体の発展に寄与する意図もあるでしょう。
さて、MCPについて、ここでこれ以上取り上げることは、この記事の主意ではありませんのでこの辺りにしておきます。ただ、ITに関わり仕事をしている人たちで、こういう情報が入ってこないとか、関心がないとすれば、かなりまずいですよと言うことを申し上げたかったのです。
SIビジネスの潮流は、「システムを作る」ことから「ITを前提にした業務変革や新しいビジネスモデルの実現を支援する」ことへと確実に変わり始めています。これは、クラウドやAIの発展や普及が背景にあるからです。システムを作ることはこれらに置き換えられ、工数の需要は減少します。加えて、製品やサービスのコモディティ化が進み、差別化は難しくなります。このような市場環境での売り物は、圧倒的な技術力です。技術をどう活かしていくのかを支援し、スキルやノウハウを提供できることが競争力の源泉となります。
ITに関わる最新の動向を捉えておくことは、そのためのビジネスのきっかけを掴むために必要です。例えば、営業が次のような話しをお客様にしたら、どのような反応が返ってくるでしょうか。
「御社でも生成AIの利用をすすめようとされていますが、MCPによって、特定のAIモデルだけに頼ることなく、それぞれに得意を持つ様々なAIモデルを自社の業務アプリケーションに、適材適所で組み込めるようになります。具体的にどのように進めればいいのかを、ご一緒に考えていきませんか?」
技術力とはエンジニアにだけ必要なわけではありません。営業もまた、この程度の技術的知識なくして、案件獲得のきっかけを掴むことが難しくなるでしょう。
MCPはそんな技術的な知識のひとつでしかありません。他にも話題は尽きません。そういうことをお客様と話ができてこそ、技術力を売り物として活かせるビジネスチャンスを生み出せるのだとおもいます。
SIビジネスの売り物が変わりつとあります。この現実から逃れることはできません。ならば、この変化に対処できる常識力を磨くことは、この業界で生きていくためには必要なことであることは言うまでもありません。
実践で使えるITの常識力を身につけるために!
次期・ITソリューション塾・第48期(2025年2月12日 開講)
次期・ITソリューション塾・第49期(2025年5月14日[水]開講)の募集を始めました。

次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITに関わる仕事をしている人たちは、いま起こりつつある変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
参加費:
- 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
- 2万円(税込)/上記以外
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火)
【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
2025年8月27日(水)
AI駆動開発Conference Spring 2025
こんなことやります。私も1枠頂き話をさせて頂きます。よろしければご参加下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。