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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

やっぱり難しい?米国電力業界のスマートメーター活用

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「スマートメーターの投資回収はやはり難しいのではないか」と思わせる調査レポートが今年5月、米コンサルティング会社ベインアンドカンパニーから刊行されています。スマートメーターの投資効果について調べているなかで見つけました。

Posting profits: Beyond the meter, beyond the hype
(意訳:スマートメーターに関する巷間の過度の期待に惑わされることなく、その投資回収の方策を考える)

オバマ政権がスマートグリッド投資の政策の発表をした時期(2009年後半)には、スマートメーターが米国のエネルギー状況を救うかのようなhype(過度な盛り上がり)がありました。その後、以下の投稿でお伝えしたような社会的な反動があり(2010年前半)、その反動についても行き過ぎが明らかとなって(2010年後半)、業界もユーザーも現実的な見立てができるようになったという経緯があります。

米国のスマートメーター超過料金問題のてんまつ(上)
米国のスマートメーター超過料金問題のてんまつ(下)

上のレポートは、そのhypeは脇に置いておいて、では実際に電力会社がスマートメーターに投資するとどんなメリットがあるのかを、ごくあっさりとまとめています。

■スマートメーターで顧客が奪われる可能性もある米国

論じている内容に入る前に、レポート筆者が前提としている米国の電力業界には、以下のような特徴があるということを断っておかなければなりません。

・米国では大〜小3,000社以上の民営公営の電力会社・事業体が存在している。一部の州では電力小売の自由化がなされており、企業・消費者は電力小売会社を選ぶ(切り替える)ことができる。
・小売が自由化されている州(例:カリフォルニア州)では、競合する電力会社がスマートメーターを早期に設置した場合に、自社の既存顧客がそちらに流れる可能性がないわけではない。
・スマートメーター設置費用の回収を図る際に、電力料金に若干の上乗せをして回収できるか否かは、地域の公益事業委員会(PUC)の決定を仰がなければならない。PUCがノーと言えば、スマートメーター設置費用はその電力会社が他の経費を削るなどして捻出しなければならない。

これらを日本との対比で言えば、
・日本の電力会社は言うまでもなく地域独占が認められており、米国のスマートメーターを取り巻く状況が想定している顧客争奪を考慮する必要はない。
・スマートメーター導入費用は、原則的に総括原価方式のなかで電力料金に転嫁できる(=投資回収についてあまり難しく考える必要はない)(ただし各電力会社が実際に消費者世帯にまで導入するかどうかは現時点では不透明)。
ということであり、本レポートの内容をそのまま適用できるというものではありません。

■スマートメーター設置で追加的に得られる売上は大きくはない

このレポートによると、多くの米電力会社の経営者は、スマートメーターを早期に設置すること、および全世帯に設置することについて懐疑的になっているようです。2009年のオバマ政権の助成金により、各地でスマートメーター設置が始まりましたが、それによって得られた結果が、芳しいものではなかったということがあります。具体的には、スマートメーター設置世帯に対してピーク時間帯の料金設定を下げるプログラム(ダイナミックプライシング)を提供しても、それを歓迎する消費者がさほど多くなかったようです。また、米国のすべての電力事業体は各州の公益事業委員会(PUC)の規制を受けていますが、スマートメーターと組み合わせるダイナミックプライシングを始める場合にもPUCの決定を仰がなければならず、必ずしもPUCがそれに同意するとは限らないという事情もあるようです。これはダイナミックプライシング開始によって、料金高騰を受け入れざるを得なくなる社会的な弱者への配慮が背景にあります(ピーク時に電力使用を削減できない人たちがいる)。

レポートから興味深い記述を拾ってみましょう。

・先進国においても新興国においても、単純なスマートメーター設置だけではマイナスのNPVとなり(=投資が持ち出しになる)、プラスにするためには政府の補助金が必要。
・3つのシナリオでスマートメーターがもたらす追加的売上を推計。1つめは、消費者が節電をすることによって得られる売上。消費者の節電幅により17億〜52億ドルが得られる(今泉注:おそらくはピーク時間帯に電力卸売から調達する電力購入費の削減幅を言っているのだと思われる。米国では電力卸売市場が発達しており、需給に応じて調達単価が大きく動くことが背景にある)。
・2つめは、エネルギー効率化サービスに対して消費者が払う可能性のある金額を推計。全米には省エネルギーに関心のある消費者セグメント「環境アクティビスト」(environmental activist)と「受動的グリーン派」(passive green)が3,200万〜5,800万世帯あり、それらの世帯すべてにスマートメーターが設置され、それらの世帯が新サービスを購入するとすれば、追加的に19億〜34億ドルの売上が発生する。
・3つめは、スマートメーターの周辺領域で可能になるサービスの売上を推計。すなわち、デマンドマネジメント、データ/インフォメーション、諸サービス(今泉注:省エネコンサル的なサービスか?)、市場開拓。これが17億〜42億ドル。
・総合すれば、いずれのシナリオによっても、電力業界が追加的に得られる売上はおおむね20億〜40億ドル。営業利益で見れば10億ドル以下であり、米国電力業界全体の営業利益400億ドルと比べればはなはだ小さい。(2009年当時のhypeでははるかに巨大な数字が言われていたことを前提に「小さい」としている)。

■データ集信用のメッシュネットワーク構築コストも課題

こうした渋めの数字を挙げた上で、なお、電力会社はスマートメーターの導入について前向きに取り組むべきだとしています。GoogleやMicrosoftはスマートメーター周辺領域での事業展開を諦めましたが(インターテックリサーチブログ「Googleがスマートメーターを切り捨て?」を参照)、米国の家電メーカーや家電量販店はスマート家電などで依然としてスマートメーター周辺の領域への参入を狙っているからです。前述のように米国では大〜小の電力事業体が3,000以上もあり、1つひとつの電力会社の規模は家電メーカーや大手量販店よりは小さいです。後者が何らかのデバイスで顧客を束ね始めると、顧客とエネルギーサービスの結びつきは電力会社からそちらの会社にシフトしてしまう可能性があります。また、対消費者のマーケティングスキルという意味では、彼らが数段上です。ということを、このレポート筆者は指摘しています。

ただ、「それでもなおスマートメーターを設置せよ」というまとめ方は、このレポート内容からは若干無理があるのではないかというのが素朴な印象です。「できるだけ待った方が得」とは公言できないので、玉虫色の提言でまとめているというところでしょうか。

私個人は、米国で電力会社以外のプレイヤーが既存電力会社から顧客を奪うパターンがあるとすれば、それはスマート家電を起点としたものではなく、米国で言うコミュニティ発電(Community Owned Power Production)を組み入れた不動産業界からの働きかけではないかと思っているのですが、さてどうでしょうか。(大多数の消費者はスマート家電の購入費用を負担しないであろう→コミュニティ発電でエネルギー総費用を抑制できるのであれば住民はそのコミュニティを選択する可能性がある)

米国のスマートメーターを取り巻く状況では、スマートメーター自体のコスト負担もさることながら、スマートメーターから電波によってデータを集信するためのメッシュネットワークの構築費用の高さも課題になりつつあります(米国では広い土地に住宅が散らばっているため、メッシュネットワーク構築費用が意外と高くつくようです)。スマートメーターの投資効果を飛躍的に高める、新しい枠組みがほしいところです。

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