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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

政府が進める新しいエネルギー戦略とそこから生まれるビジネスチャンス(上)

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政府は新たなエネルギー政策を含む成長戦略をまとめた「日本再生のための戦略に向けて」を8月5日に閣議決定しました(閣議決定=全大臣がその内容と実施について了承)。

このブログに関連した領域で内容をざっと確認します。

東日本大震災と原発事故により需給構造が一変してしまったエネルギーについては、以下の5原則が定められています。

(1)原子力発電所の停止が広範に生じた場合でもピーク電力不足とコスト上昇を最小化する
(2)計画停電、電力使用制限、コストの安易な転嫁を極力回避する
(3)政策支援や規制・制度改革で持続的かつ合理的な国民行動を全面的に支援し、エネルギー構造改革を先行的に実施する。ピークカットとコストカットが持続的に進む経済や社会の仕組みを早急に築く
(4)経済活性化策としてエネルギー需給安定策を位置付ける
(5)国民参加の対策とするため、3年間の工程を提示する

注目されるのは、(3)においては「持続的かつ合理的な国民行動を全面的に支援」、(5)においても「国民参加の対策」と「国民」の参加が重視されていることです。

これは、現在の日本が抱えているエネルギー需給の深刻な課題は経産省と電力会社の努力だけでは解決できず、数多くの企業の新規参入と家庭の協力があって初めて解決できるという認識を示したものだと言えます。ソフトバンクの太陽光発電事業参入なども、まさに期待されているものの1つでしょう。

具体的な規制緩和や施策はこれから順次出てくると思いますが、意欲や技術を持っている企業には、いわゆる「エネシフ」の事業が始めやすい環境が早期に整うと見るべきです。「日本再生のための戦略に向けて」の説明資料では、2020年までに50兆円超の環境関連新規市場の創出、140万人の環境分野の新規雇用が目標とされています。

■打ち出された「分散型のエネルギーシステム」

上の5原則の下位にやや具体的な内容の3つの基本理念があり、そのうち1つはエネルギーシステムに関わるものとなっています。

基本理念2:新たなエネルギーシステム実現に向けた3原則
原則1:分散型のエネルギーシステムの実現を目指す
原則2:課題解決先進国としての国際的な貢献を目指す
原則3:分散型エネルギーシステム実現に向け複眼的アプローチで臨む

ここでは「分散型のエネルギーシステム」が強調されていることに留意すべきです。従来の電力システムは電力会社が主体となって構築し、大規模発電所を核とした集中型になっていました。また、大規模発電所は大都市に置けないため、離れたところに作って長距離送電によって大都市が電力を得るのが普通になっていました。

これが分散型になるとどうなるのか。

多様な主体が大中小の発電所を様々な場所に作り、発電事業や電力供給事業を営みます。なかにはコミュニティレベルで電力の地産地消を実現するケースもあるでしょう。企業の自家発電ももっと活発になります。そうした様々な主体が多様な発電および電力消費のスタイルを作ることのできる世界が「分散型」です。もちろん、そこにはスマートグリッドも含まれてきます。

このような電力会社以外の主体の動きを想定した「分散型のエネルギーシステム」の推進は、エネルギー政策の非常に大胆な方向転換だと言えます。日本の電力政策史上初と言ってもいいかも知れません。

従来の制度でも、契約電力50kW以上の領域は小売が自由化されており、特定規模電気事業(PPS)が電力会社と価格を競り合って顧客が獲得できるようになっていましたし、卸供給事業者(IPP)は自らの発電所を持ち、電力会社に卸売ができる環境はありました。
しかし、双方のビジネスがあまり活発になっていないのはみなさんもよくご存知の通りです。電力総需要に対するPPSのシェアは2007年の段階で1.42%。その後も拡大している風はありません。IPPについては95年の制度開始後に環境規制が厳しくなったために、2000年頃から新規参入者の採算性が悪化して多くが撤退したと認識しています。現在のようなガス・コンバインドサイクル発電機があれば話は違ったでしょう。

このように従来の制度下では、日本のあちこちに大中小様々な発電施設が設けられ、それらが採算に乗って拡大していくということはありませんでした。それが今回の分散型エネルギーシステムを重視する政策によって、どう変化するかが注目されます。
特にポイントとなるのは、新規事業者が電力会社の系統に接続するための条件や価格(託送費用)がどの程度まで「新規事業者ウェルカム」なものになるかです。電力会社側の視点で言えば「新規事業者ウェルカム」な系統にするには相応の設備投資が必要なため、それを政府が認めることも重要です。

■所管官庁のロードマップの意味

閣議決定された「日本再生のための戦略に向けて」の最後の方にある添付資料のうち、(別添7)「当面のエネルギー需給安定策工程表」と(別添8)「エネルギー需給安定関連の規制・制度改革リスト」が政府の具体的な取り組みの見取り図です。これをよく読み解くことによって、今後どのような施策が実現され、どういったビジネスチャンスが生まれるかを把握することができます。

通信でもそうですが、規制が関係する業種では政府・所管官庁が作成する数年〜十数年スパンの施策ロードマップは非常に重要です。後から振り返ってみれば、おおむね業界全体がそのロードマップに沿って動いていたとわかることがあります。ということで、この2つの書類をじっと見て、重要と思われる項目を拾い出します。

■これから生まれる可能性のある市場

「1. ピーク対策とコスト抑制に着目した需要構造の改革」から。

▼リース等を通じた省エネ機器の導入促進
・金融が関係する施策は一種のレバレッジ効果があり、直接的には目に見えにくいですが、関連業界に確実に浸透します。この施策で言う省エネ機器にはHEMS、BEMS、高効率空調設備、LEDの高効率照明、蓄電池、コージェネレーションシステム、燃料電池等が含まれます。
・こうした機器を家庭や企業が導入する場合には、通例はまとまった金額を最初に支払う必要があるわけですが、リースが使えればその負担を抑えて、支払い負担を長期に分散させることができます。また企業の場合は節税効果もあります。すでに環境省ではリース67社と連携し、リース料金の3%を補助する制度を始めています。
・今後は制度の適用範囲が広がるか、補助が厚くなることが考えられます。向こう数年にわたって中小企業での導入進展が期待されます。
・導入側の理解が進んでいるという点で、LEDへの一括交換、太陽光発電と組み合わせて使う蓄電池、自家発用途のコージェネないし燃料電池で大きな動きがあるのではないでしょうか。

▼地球温暖化対策のための税の導入
・オーストラリアなども導入したいわゆる炭素税ですが、これが法制度化されれば企業や家庭の活動に与えるインパクトは言うまでもなくきわめて大きいです。ビジネスチャンスは想像もできないほどですが、一方で、負担が増える経済界の猛烈な反発が予想されることから、制度の実現は予断を許しません。

「2. 効率性と環境性を重視したあらゆる主体の電力供給への参加」から。

▼固定価格買取制度の導入
・これについては弊ブログで何度か取り上げたので割愛します。

孫社長の太陽光発電構想を支える全量固定価格買取制度、まだ課題も残る?
固定価格買取制度と改正PFI法で再生エネルギー発電のメガトレンドがやってくる
環境省は太陽光発電がペイするとは見ていない
欧州各国の再生エネルギー買取価格(三菱総研資料による)
[メモ] 全国の未使用の下水道用地で太陽光発電事業を行うとどうなるか?

▼分散型電源システム導入促進
・ここで期待されているのは「すでにある分散型電源」、すなわち企業の自家発電設備のてこ入れのようです。資源エネルギー庁統計によると企業の自家発電の発電容量は全国で5,380万kWありますが(ここの自家用発電所認可出力表)、うち88%は火力。このうち大半が二酸化炭素排出量が多く、発電効率が悪くて電力会社から買うよりも発電コストが高くつく旧来型のもののようです。従って、ふだんは休止しているケースが多く、電力供給事業制度があってもそこからは電気が出てきません。
・仮にこれを助成などによって最新型のガス・コンバインドサイクル発電機に置き換える動きが進めば、そこからかなりの容量の電力が出てくる可能性があります。これまでコストが合わずに特定規模電気事業(PPS)や卸供給事業(IPP)への参入を見送ってきた企業も、新たに参入を始める可能性が出てきます。
・経産省は8月から低炭素型設備を導入する事業者に対して、設備導入による二酸化炭素排出削減量に応じて助成金を交付する国内排出削減量認証制度活性化事業の公募を開始しています。これは設備導入後、稼働開始日から平成25年3月31日までの期間において、温室効果ガス排出削減量について認証された国内クレジット二酸化炭素1tあたり1,500円の助成金を交付するものです。これが旧来の自家発設備の更新に使えるとすれば大きな後押しとなります。他にも自家発更新を支援する制度が始動することが期待されます。
・発電設備の市場とその後にできる電力供給事業の市場を合わせれば、かなりの大きさを持つはずです。

長くなりましたので、続きは明日に上げます。

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