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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

家庭のスマートグリッド化をパナソニックが実現する?

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先週東京ビッグサイトで開催されていた「エコプロダクツ2010」でスマートグリッド関連の展示を見てきました。現在のスマートグリッドが置かれた状況をざっと概観した後で、印象に残ったパナソニックの展示について記します。

■現在のスマートグリッドが置かれた状況

スマートグリッドは大きく分けると、「送配電網のスマート化」と「消費者の電力使用のスマート化」に別れます(厳密には企業内の電力使用のスマート化の総称Business Energy Management System、BEMSを1つの柱とすべきですが、この分野、以前から各企業で個別に取り組みが進んでおり、あえて「スマートグリッド」という言葉で括らなくとも自律的に動いている状況があるので、便宜的に省いて考えても差し支えないと思います。特に日本の場合は、長年にわたって産業界における省エネ努力が進められてきたので、BEMSを適用した時にさらなる成果が出にくいということもあります)。

日本だけでなく米国、オーストラリア、欧州などでスマートグリッドの実証実験が進められていますが、送配電網のスマート化については、おおむねやればやっただけの成果があるという通念ができあがりつつあります。

これは、特に米国のように送配電網への投資がなされてこなかった国では、停電などの電力品質が低いという問題があり、そうした問題がスマートグリッド関連方策の適用によって、目に見えて改善するからです。日本では、停電箇所の自動検知、復旧の自動化、電力品質のモニタリングなどはすでに実現しており、いわばスマートな送配電はできあがっています。しかし、よそを見ればこの状態に達している国はまだほとんどないようで、そこで何らかの投資を行うと、すなわちスマートな送配電が形になる、それがイコール、スマートグリッドであるという認識がなされています。

一方の消費者の電力使用のスマート化では、スマートグリッドの定番アイテムとも言うべきスマートメーターを設置したとたんに、ごく一部の消費者からではありますがクレームが出るというような状況があり、

・誰のためのスマートグリッドなのか?
・スマートグリッドのメリットは何なのか?
・スマートグリッドのコストを誰が負担すべきなのか?

という基本命題を解決してからでないと、先に進めない状況があります。そのへんの現状を知るには手前味噌ですが以下の投稿をお読みいただくのがよいと思います。

米国のスマートメーター超過料金問題のてんまつ(上)
米国のスマートメーター超過料金問題のてんまつ(下)
Xcel Energyのボルダー・スマートグリッド事例から学べること(上)
Xcel Energyのボルダー・スマートグリッド事例から学べること(下)

この状況を手短に要約すると、次のようになります。

・特に米国の場合ということですが、各州におけるスマートメーター設置は、実質的にオバマ政権の米国再生・再投資法の助成金が付くことによって始まったという経緯があり、国の景気浮揚策、電力の次世代化方策ではあるものの、「消費者のためのスマートグリッド」という視点で練り上げられていない。
・スマートメーターを設置して電力消費の見える化が可能になるとしても、多くの消費者にはそのメリットがわからない。(特にこれまで省エネの意識が社会に浸透していなかった国では、スマートな電力使用という「行動の変化」に至るには何段階かのステップが必要)
・スマートメーターの設置のコストを電力料金に転嫁するケースでは、多くの消費者の理解が得られない。また、地域の公益事業規制委員会が料金転嫁を認めないケースも出始めている。

こういう状況にあるため、消費者の電力使用のスマート化は再考が必要な時期に差し掛かっていると思います(とは言え、米国の各電力会社におけるスマートメーター設置は粛々と進んでいます。これはスマートグリッド促進というよりは、メーターの電子化という位置づけで取り組まれていると捉えられるでしょう。将来の「本当の消費者のためのスマートグリッド」の布石と言うこともできます)。

なお、日本では、すでに送配電網がスマートグリッドになっているため、諸外国のスマートグリッドが置かれた状況とは一線を画します。特徴は2つあります。1つは、実証実験として取り組まれているのは、スマートグリッドという相対的に狭いスコープではなく、スマートコミュニティというやや広いスコープで多数の要素の最適化を図る取り組みがなされていること。もう1つは、関西電力などでスマートメーター設置が進んでいるものの、消費者の電力使用のスマート化が大きな目的というわけではなく、年次の電力計取り替えの一環として取り組まれているということがあります。

経産省系のスマートグリッド関連研究会などにこまめに出席して動向を追っているインターテックリサーチの新谷隆之氏(スマートグリッド勉強会でご一緒させていただいております)によると、日本のスマートメーターは欧米で取り組まれているようなフルスペックの家庭のスマート化を実現するものではなく、最低限の機能セットを持ち、電力会社の通常の電力計更新費用の枠内でコストがカバーできるような「狭義のスマートメーター」が主流になる気運があるそうです。

固まってきた?日本版スマートグリッドの中身

現在のスマートグリッドが置かれた状況はだいたいこのようなところです。

■消費者領域にはブレークスルーが必要

消費者の電力使用のスマート化が勢いを持って動き始めるには、メリットが明白であること、そして、そのコストを自らが負担してもなお導入したいと思うような何かがそこにあることが必要です。これは日本だけでなく米国や欧州などでも、そのように言えると思います。

スマートグリッドが与えるメリットが省エネだけであるとしたら、それに対するコスト負担を了承する消費者は一部に限られるでしょう。
省エネよりももっと直接的なメリットがある「創エネ」、そして創エネを補完する位置づけの「蓄エネ」が組み合わさって、さらに消費者の目で見て明らかに「かけたコストに見合う」ものになった時に、消費者領域のスマート化がものすごいスピードで動き出すのではないでしょうか?

別な言い方をすれば、「創エネ」や「蓄エネ」の要素を持った家庭用スマートグリッド製品パッケージを購入することで、エネルギー関連費用がゼロになる、あるいは、売電制度などを通じて相応の収入になる、というところまで行った時に、世界中の消費者が競ってそれを導入するようになるのではないでしょうか?そうしたブレークスルーが必要です。

そこまで過激な発想をしないと、消費者の電力使用に関する行動は変わらないのではないかと考えます。

とはいえ、このブレークスルーは、消費者が電力会社の顧客ではなくなる可能性をも含みます。消費者のためのスマートグリッドを考えて行った結果、電力会社のためのスマートグリッドではなくなるということになるのでしょうか。難しい問題です。

しかし一方で、国の経済を考えた時に、ある電機メーカーが、消費者のためのスマートグリッドの先進的なパッケージを開発し、それが世界中に売れたとすれば、それはまた、まったく違う大きな意味を持ちます。

■パナソニックの創エネ、蓄エネ製品

そのような視点で、今回、エコプロダクツ2010に出展していたパナソニックの展示内容を見ると、非常に興味深く思えます。
同社が出展したもののうち、創エネ、蓄エネに関連するのは以下の製品です。

家庭用燃料電池
太陽電池HIT
家庭用リチウムイオン電池

このうち、家庭用燃料電池と家庭用リチウムイオン電池について、担当の方のお話を伺ったので、簡単にまとめてみます。

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[家庭用燃料電池]
・家庭用燃料電池の発電能力は1kW。60度のお湯を200リットル作れる。
・一般的な世帯の電力消費をすべてまかなうには5kW程度の発電能力が必要になるが、コージェネなのでお湯も同時にできてしまう(5kWなら200リットル×5で1,000リットルとなる)。
・将来的には海外での発売も検討している。

[家庭用リチウムイオン電池]
・大量生産しているリチウムイオン電池セルを140個使用したリチウムイオン電池モジュールを4つ収納して、屋外などに設置できる家庭用蓄電池ユニットを実現。
・家庭用蓄電池ユニット1つで、5kWhの蓄電容量を実現。これにより一般世帯の半日分の電力消費をまかなうことができる。
・例えば電力料金の安い夜間に蓄電しておき、昼間に使うことができる。
・販売価格は安めに設定する予定。
・将来的には海外での販売も検討。

別資料によると家庭用燃料電池の価格は120万円とのことで、まだまだ高止まりしていますが、将来的にこれがかなり下がってくれば、現実的な選択肢になるのではないでしょうか。
また、家庭用リチウムイオン電池については、安めの価格設定が予定されているそうで、こちらにも期待できます。

現在の家庭からの売電は太陽光発電に限った話ですが、将来的に家庭用燃料電池にも拡大することがあるとすれば、非常に興味深い現象が起こるでしょう。とはいえ、電力会社さんも微妙な立場に置かれることになるので、行政による中立的な調整が必要です。

ここまででわかったのは、近い将来における家庭の創エネ、蓄エネは技術的には可能なところまで来ている。あとは値段と制度の問題だけだ、ということです。
世界規模における消費者の電力使用のスマート化が、日本のメーカーの製品によって具体化するのであれば、それは大変に好ましいことだと思います。

パナソニックはその他にも、家庭内の家電や照明の電力消費を全自動でコントロールするHome Energy Management System製品やHEMS対応家電などを出展していました。

それから、エコプロダクツ2010展の会場内で使用する電力は風力、太陽光発電、バイオマス発電によるグリーン電力である旨の告知がなされていました。

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パナソニック以外にも、日立、東芝、三菱電機、NEDOなどのブースを回ってみましたが、総じて、日本の電力関連の技術の高さがよくわかる展示内容であり、スマートグリッドに関心を持っている方々は、来年は必ず行った方がよいと思います。

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