DX推進の前に立ちはだかる「学ばない壁」〜なぜベテラン社員はITパスポートに落ちたのか?〜
全社的なITリテラシー向上の試金石「ITパスポート」
昨今、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践に向けて、全社的なITリテラシーの向上を喫緊の課題として掲げています。その具体的な取り組みの一つとして、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催する「ITパスポート試験」の取得を従業員に推奨、あるいは義務付ける動きが広がっています。
ITパスポート試験は、その名からIT専門の試験と思われがちですが、実はそれだけではありません。出題範囲は、テクノロジ(IT技術)はもちろん、ストラテジ(経営全般)、マネジメント(IT管理)の3分野に及びます。
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ストラテジ系(経営全般):35問
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企業活動、法務、経営戦略、システム戦略など
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マネジメント系(IT管理):20問
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システム開発、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメントなど
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テクノロジ系(IT技術):45問
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基礎理論、コンピュータシステム、データベース、ネットワーク、セキュリティなど
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(出典:ITパスポート試験「試験内容・出題範囲」)
このように、ITの基礎知識に加えて、企業法務や経営戦略といったビジネスの根幹に関わる知識まで幅広く問われるため、特に新入社員や若手社員がビジネスパーソンとしての土台を築く上で、非常に有益な内容と言えるでしょう。
ベテランを襲った「まさか」の現実
このITパスポート試験をめぐって、あるITベンダーで衝撃的な出来事がありました。
同社は、DX時代を見据え、社員の知識をアップデートするために、経験豊富なベテランの営業職やエンジニア職、さらには管理職に至るまで、一斉にITパスポート試験を受験させることにしました。もちろん、事前の研修を実施し、学習用のテキストも配布して万全の体制で臨んだはずでした。
ところが、その結果は惨憺たるもの。合格者は全体の3割にも満たなかったのです。ちなみに、ITパスポート試験の平均合格率は50%前後です。
特に深刻だったのは、ベテランや管理者であれば常識として知っているはずの「ストラテジ系(経営全般)」で軒並み点数を落としていたという事実です。また、日々の業務に直結するはずの「マネジメント系」や「テクノロジ系」においても、AIやアジャイル開発といった「現代の常識」とも言える新しい知識には、ほとんど歯が立たなかったといいます。
なぜ彼らは「学べなかった」のか?
合格基準は総合評価で6割、かつ各分野で3割以上の得点です。決して超難関というわけではありません。なぜ、ビジネスの現場を熟知しているはずのベテランたちが、この壁を越えられなかったのでしょうか。
その根源を探ると、一つのシンプルな、しかし根深い課題が浮かび上がってきます。それは「日々の学習習慣の欠如」です。
彼らは決して仕事ができないわけではありません。むしろ、日々の業務を真面目にこなし、長年会社を支えてきた功労者たちです。しかし、多忙な毎日の中で、意識的に新しい知識を学び、自らをアップデートする時間を作ってこなかった。知識やスキルも筋肉と同じです。どれだけ立派な筋肉も、トレーニングを怠れば衰えてしまいます。彼らがかつて持っていた知識も、アップデートというメンテナンスを怠った結果、時代の変化という負荷に対応できなくなっていたのです。
この「学習しない」という傾向は、この企業だけの問題ではないようです。パーソル総合研究所の調査によれば、日本は他国に比べて「社外の学習・自己啓発活動を行っていない人」の割合が突出して高く、その数値は52.6%にものぼります。
(出典:APACの就業者における学習実態調査 - パーソル総合研究所)
さらに、パーソル総合研究所フェローの小林祐児氏は、その著書『リスキリングは経営課題』の中で、日本人の多くが「学ぶ意欲があるのに何かの障害があるわけでもなく、『学ばないぞ』と主体的に選んでいるわけでもなく、『なんとなく』学んでいない」と指摘しています。
(出典:小林祐児著『リスキリングは経営課題』(光文社新書))
まさに、この「なんとなく学んでいない」状態が、ベテラン社員たちの足元をすくんだのではないでしょうか。
DXの掛け声の前に、変えるべき「企業風土」
多くの経営者がDXの重要性を説き、変革の必要性を訴えています。しかし、その変革は経営層の号令だけで成し遂げられるものではありません。現場の従業員一人ひとりがその意義を理解し、主体的に変化を受け入れ、行動して初めて、成果へと結びつきます。
ITパスポート試験の悲惨な結果や、「半数以上が自己研鑽しない」というデータは、この変革がいかに困難であるかを示唆しています。
DXは「企業の文化や風土の変革である」とよく言われます。今回の出来事は、その言葉の意味を改めて私たちに突きつけます。変革すべき文化とは、まさに「日々の学習習慣がない」という文化そのものではないでしょうか。
不確実性が高まる現代において、企業に求められるのは、変化に俊敏に対応できる組織能力です。そのためには、ビジネスの最前線に立つ現場チームに大幅な権限を委譲し、自律的に行動できる組織を築く必要があります。そして、その大前提となるのが「自律した個人による、自律したチーム」の存在です。
それは、最新のデジタルツールを導入すれば解決する問題ではありません。もっと本質的な、個人の学びと自己研鑽の習慣を「企業の文化」として深く根付かせること。DX成功の鍵は、テクノロジーの議論の前に、まずそこから始めるべきなのかも知れません。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
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100名/回(オンライン/Zoom)
いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
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2025年8月27日(水)
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