読後メモ:「大衆化するIT消費」
「大衆化するIT消費」
野村総合研究所 消費者マーケティング研究チーム/東洋経済新報社
一言で言うと、常時接続の速い回線が浸透して数年で、日本の消費者がどう変化したかをまとめてある本です。一昨年来、Web2.0系マーケティング関連の本がいくつか出ましたが、その集大成という印象があります。いまこの時点なら、これ1冊読んでおけば間に合うという感じがします。新しく出てきた消費スタイルを以下の10に分類していますが、これも見事。
1. マルチウィンドウ消費:認知→探索→購入が同時に起こる
2. アラート消費:欲しいモノが出てくるまで待つ
3. テイスティング消費:徹底探索した後に「お試し」で納得
4. オーダーメード消費:自分で欲しいモノは自分で作る
5. ロングテール消費:死に筋商品がネット上で生き残る
6. スパイク消費:突発的に消費量が拡大する
7. スカイロケット消費:商品の普及が急速に立ち上がる
8. 一点豪華消費:高くても好きなものには金を出す
9. 使いまわし消費:必要なければリサイクルに回す
10. 自己責任消費:多くの情報から自分で判断する
個人的には、ここに抜け落ちているものとして、ふだん定常的に読んでいるブログの書き手などから影響されてつい買ってしまう”CGMによる影響→被影響→消費”があるなと思いました。弊ブログで最近述べている消費者経験情報に誘発される消費です。あとは、社会ネットワーク分析的な文脈で言う”特定のノードにおいて膨大なリンクが発生することで誘発される消費”みたいなものも掬えていればいいのになと思いました。(第4章で触れられている「『鳥の群れ』の原則に似た消費価値観」はややそれに近いですが)
上の10分類は消費の”型”に着目した分類ですね。そうではなく、消費者の脳裏において”価値”がどのように生じて、それが現実的な消費行為に至るか、みたいなネット消費の捉え方があるように思います。
以前も少し書きましたが、非常に特殊な名詞によって誘発される消費がその一例です。パワーアンプの特定の型番を見ただけでむくむくと物欲が盛り上がって、万難を排してオーダーしにかかるみたいな。なんというか、特定のコンテキストにおいて(例えば特殊な言葉の検索の際に)特定の名詞が目に飛び込んでくることで、がぜん脳内の消費意欲が喚起されるといったパターンへの着目です。脳内価値生成定番パターンみたいな視点。ネット空間ではこれがモデル化しやすいと思うんですよ。
ところで、この本では、AISAS、AISCEASに代わるモデルとして、AISTARを提唱しています。
Attention - Interest - Search - Trial - Action - Repeat の略ですね。
検索の後に試用があり(例えば楽曲の試聴など)、よければ買ってみて、ほんとによければリピートで買うというパターンを想定しています。
AISASの最後のS、AISCEASの最後のSは、いずれもShareの頭文字で、言うまでもなくWeb2.0文脈におけるCGMの使用後レビュー記述を表しています。これはこれで、消費者の動きを捉えたよいモデルですが、マーケティングの現場で活用するとなると、「消費者行動の変化の説明」には使えても、数値化可能なマーケティングのマネジメントには使いづらいということがあるのではないかと推察します。Shareが特定件数発生したとして、それがどう売上に結びついたかが説明しにくい。説明しにくいものに新規の予算は付けにくい…といったことです。
その点、AISTARは、Trialがカウントしやすい上にコンバージョンレートのような数字も設定できます。また、Repeatをカウントすることでマーケティング全体の効果測定もしっかり行えるわけです。いいですね。
そして個人的にはもっとも有用な情報だったのが、マーケティングダッシュボードの説明。
-Quote-
消費者のIT化が進むわけであるから、企業も、それ以上にIT化をすることが求められる。顧客ファネルの状態をチェックし、素早く対応策をとることができる体制が必要である。そのためには、企業が実施したマーケティング戦略の効果を「見える化」し、マーケティングのPDCAのサイクルをきっちり回すことが必要である。
マーケティング戦略の効果を「見える化」するためのツールとして、マーケティングダッシュボードが注目されている。マーケティングに関する指標を体系的に、わかりやすく見せるためのツールである。
経営ツールとして注目されているダッシュボードとは、欧米を中心に普及している考え方である(今泉注:バランススコアカードのマーケティング版として普及したのでしょうか)。自動車のダッシュボードのように、いくつかの指標をわかりやすく運転手(経営者)に表示する仕組みである。
中略
マーケティングダッシュボードでは、顧客に関する情報を多く取り扱うべきである。認知率、記憶に残る割合、店頭での接触率、購買意向、購買率、リピート率などである。このような指標まで取り扱っているダッシュボードの例は少ない。
-Unquote-
この後に、現実的にどうやって使うかが示されています。僭越ながら本書のなかでもっとも価値が高い部分だと思います。内容については本書に直接当たってみて下さい。
上のAISTARで言うと、一般的な企業では、Attention - Interest - Search - Trial - Action - Repeatの個々のフェーズを受け持つ部門が別々であることが多いわけです。Attentionは広告宣伝部が受け持つけれども、Trial(試供品を流通店舗に提供するなど)は営業部門が受け持つとかですね。
いずれのフェーズにおいても数字をとって、マーケティングダッシュボード上で全部見られるようにしておき、さらに5つのフェーズを担当する5つの部門の上のレイヤに総合管理者のような職制を置くと、顧客対応が有機的なものとなり、かつ、全体のROIの向上がやりやすくなります。そのへんについて具体的な記述があります。
インターネットマーケティング関係者は必携でしょうね。