荏原製作所におけるDXの取り組み・100年企業の老舗ポンプ屋さんの本気を見た
ITソリューション塾・第48期が、昨夜の講義で、無事完結致しました。2月から始まる2ヶ月半・11回にわたる講義の大トリを飾って頂いたのは、小和瀬 浩之 (こわせ ひろゆき) 様/株式会社 荏原製作所・執行役 CIO(情報通信担当)兼 情報通信統括部長の以下のお話です。
荏原製作所におけるDXの取り組み
〜経営~業務部門~IT部門の三位一体の企業変革〜
荏原グループでは、グローバル企業として発展するために、全社をあげてDXによる「企業風土の改革」「業務の効率化」「組織やビジネスモデルの変革」を進めています。さらに、インターナショナル経営からグローバル経営への転換のために、経営~業務部門~IT 部門が一体となり、基幹システムを含めた情報基盤のグローバル化を推進しています。今回は、荏原グループの企業変革への挑戦についてご紹介します。
驚きました。100年以上の歴史を持つ老舗ポンプメーカー(いまやポンプだけではありませんが)が、ここまで取り組んでいるとはという驚きです。どうやって岩盤のような伝統的な組織文化をデジタル前提の変革に向かわせたのか、そのドラスティックな展開は、DXとは何かという「本質」を考えさせてくれる機会となりました。
この塾の受講者である製造業のシステム企画部門の方からこんなコメントを頂きました。
「頷く事ばかりで、自分の中で何となく思っていたことがだいぶクリアになりました。今後の製造業についても話があり携わる立場として何ができるか早急に考えていかなくてはと身が引き締まりました。」
このタイトルである「経営~業務部門~IT部門の三位一体の企業変革」とあるように、DXをデジタルの取り組みとしてではなく、経営戦略として捉え、経営メンバー全員が変革にコミットしていること、そして、それぞれにリーダーシップを発揮されていることなどを伺い、まさにDXとは何をすることなのかを再確認できた思いです。
「あなたの取り組んでいるDXは、Dx?それともdX?ですか。(デジタルを使うことなのか変革することなのか、どちらが目的なのか?)」
この例えはとても分かりやすく、私も使わせて頂こうと思っています(笑)。このことを端的に示す事例として、SAP S4/HANAの導入に触れ、次のような話しをされました。
「SAPを導入することが目的ではありません。グローバルで業務を標準化し、一体で運営することが目的です。その手段としてSAPが最適であったということに過ぎません。」
2018年・荏原製作所に小和瀬さんがCIOとして就任される前から、SAPの導入についての議論が続いていたそうです。小和瀬さんがこれに結論を出すに当たって、「経営が何を目指すのか」という「あるべき姿」に立ち返り、そのためには業務の標準化が前提という原理原則を示すことで、判断の基準を明確にされました。CIOの本来の役割とは何かに改めて気付かせて頂くお話でした。
また、DX推進組織の取り組みも、実にユニークです。「DXとは何をすることなのか」がよく分かるものです。
荏原製作所のDX推進組織は、「多才」と呼ぶにふさわしい人たちの集団です。映像製作者、脳科学者、プロデューサー、デザイナーなど、それぞれの分野の第一線級のプロ集団によって構成されているそうです。その多くは、社外から採用した人たちです。伝統的な日本の製造業に、なぜそんな人材が必要なのでしょうか。
「DXとは企業文化を変える取り組みです。だから、企業内の同質の人たちで構成するのではなく、社外からまったく違う文化、しかも一流のプロを集めて、新しい取り組みに関わらせています。」
言うまでもありませんが、DXとは「経営戦略として企業の文化を変革すること」です。だからこそ、異質の文化を背負う人たちを積極的に取り組み、社内に良い意味での軋轢や化学反応を起こして、変化を起こさせるというのは、実に理にかなったやり方です。
こんなことをやっているDX推進組織を私は初めて知りました。多くのDX推進組織は、DXの取り組み事業部門に丸投げし、その成果をとりまとめて経営に報告したり、他社の事例を集めて、これがDXですから、こういうことをやりましょうと宣伝活動をしたり、収拾のつかない「DXとはなにか、なにをすることか」の議論を延々と続け、一向に変革に結びつかないなどの話しをよく聞きます。その意味では、異質とも言える取り組みです。
また、DX人材を外部から採用するにしても、「システム開発ができるエンジニア」に留まっている企業も多いわけで、そういう企業の多くがなかなかDXつまり、DxはできてもdXでの成果をあげられないはもはや周知の事実です。
小和瀬さんが、日経クロステックが選ぶCIO/CDOオブ・ザ・イヤー2023」の大賞を受賞されたのも大いに納得です。
「日経クロステック編集部と有識者からなる審査員が、(1)ビジョン・戦略(2)事業創出(3)組織風土改革(4)推進体制・人材育成(5)キャリアの5つの観点で評価し、表彰者を選定しています。」
CIOの役割とは、本来こうでなくてはけません。
「小和瀬氏は花王のシステム部長やLIXILの上席執行役員CIO、資生堂のグローバルICT副本部長を経て2018年に荏原に入社しており、日本における「プロCIO」の先駆けともいえる存在だ。」(日経クロステックの記事より)
そんな小和瀬さんのお話を伺いながら、私が強く印象に残ったのは、ご自身についての明確なパーパスです。
「日本の製造業をこのままにしてはいけない。製造業におけるCIOとしての1つのロールモデルを示すことで、日本の製造業を蘇らせたい。」
そんな明確かつ熱い想いがあるからこそ、老舗企業の風土や文化の変革という、とてつもなく大変なことに向き合える覚悟があり、それを乗り越える力を生み出せているのでしょう。また、ITについて、技術的にもトレンドについても実に詳しいのも、そんなプロのCIOとしての自覚を持っていらっしゃるからなのでしょう。ITに詳しくないCIOは少なくはありませんが、それではDXの推進役を担うことはできません。そのことに改めて気付かせて頂きました。
ITソリューション塾・第48期はそんな小和瀬さんの熱い話で無事終えることができました。私は、このお話を伺い、改めてSI事業者・ITベンダーの方に申し上げたいのですが、このような方と経営や事業をどうすべきかをITの視点から話ができる知識と教養を磨いて頂きたいと言うことです。
ビジネスのグローバール化が進めば、ITの意志決定は日本である必要はなくなります。むしろ、経営×事業×ITの議論ができ、イニシアティブを採れるところに移っていくでしょう。また、クラウドやAIの発展に伴い、製品やサービスの差別化できなくなり、工数という売り物がなくなります。そういう時代に、SI事業者・ITベンダーは、ITを前提に「業務プロセス」や「ビジネス・モデル」をどのように変えていくべきかをお客様に提言し、語ることができなくてはなりません。そこに競争力の源泉を見出す必要があるのです。
私は、2008年からITソリューション塾を続けて16年なります。この間、ITのトレンドの最前線で様々な動きを見てきました。それに伴い、ITビジネスの環境が大きく変わる姿も見ています。そんな中で、その変化が、いま、かつてないスピードで動き始めていることを実感しています。
自分たちは、いかなる価値をお客様にお届けすべきか
そんなパーパスを問い直し、いまの時代にふさわしいパーパスに再定義しなくてはなりません。SI事業者・ITベンダーのDXは、いままさに、そんなことから取り組む必要があるでしょう。
実践で使えるITの常識力を身につけるために!
次期・ITソリューション塾・第48期(2025年2月12日 開講)
次期・ITソリューション塾・第49期(2025年5月14日[水]開講)の募集を始めました。

次のような皆さんには、きっとお役に立つはずです。
- SI事業者/ITベンダー企業にお勤めの皆さん
- ユーザー企業でIT活用やデジタル戦略に関わる皆さん
- デジタルを武器に事業の改革や新規開発に取り組もうとされている皆さん
- IT業界以外から、SI事業者/ITベンダー企業に転職された皆さん
- デジタル人材/DX人材の育成に関わられる皆さん
ITに関わる仕事をしている人たちは、いま起こりつつある変化の背景にあるテクノロジーを正しく理解し、自分たちのビジネスに、あるいは、お客様への提案に、活かす方法を見つけなくてはなりません。
ITソリューション塾は、そんなITの最新トレンドを体系的に分かりやすくお伝えするとともに、ビジネスとの関係やこれからの戦略を解説し、どのように実践につなげればいいのかを考えます。
詳しくはこちらをご覧下さい。
今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円
AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。
営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。
本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。
参加費:
- 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
- 2万円(税込)/上記以外
お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。
現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
いずれも同じ内容です。
【第1回】 2025年6月10日(火)
【第2回】 2025年7月10日(木)
【第3回】 2025年8月20日(水)
営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。
100名/回(オンライン/Zoom)
2025年8月27日(水)
AI駆動開発Conference Spring 2025
こんなことやります。私も1枠頂き話をさせて頂きます。よろしければご参加下さい。
【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版
生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。