知識がリアルオプションバリューを持つことに関する素朴な論理
数学がダメダメな私にとってもリアルオプションの考え方は非常におもしろく、様々なものにリアルオプションがもたらす価値(リアルオプションバリュー)を見て、おぉと喜んだりしています。
システムをモジュール化することにより、個々のモジュールがリアルオプションバリューを内包できるようになり、それによってシステム全体の価値が向上するという、ボールドウィン-クラークの「デザインルール」の指摘は、いまだに自分にとっては鮮烈です。(小分けせよ、さらば価値が増大せん…)
お金を稼ぐことができる実物資産の価値は、将来のキャッシュフローを推計することで純現在価値(NPV)として定量化できます。けれどもそれだけでは見過ごしにされている価値があるだろうということで、
「景気がよくなったら実物資産に対する投資を拡大する」
「景気が悪くなったら実物資産の一部を切り売りする」
「商売がダメダメになったら実物資産を売却する」
「最初からフルセットの実物資産を買わずに当初はテスト的に使ってみる」
といったオプション(実行可能な選択肢。意思決定を要する選択肢)を設定し、そうしたオプションがはらんでいる価値を定量化しようというのがリアルオプションの考え方でした。数学がダメダメな当方としては、それらの価値の全体は、純現在価値+リアルオプションバリューということで取り出せるというあたりでやめておきます。
さて。このリアルオプションの「オプション」が持つ価値ですが、例えば、「途中から投資規模を拡大する」というオプションを設定した場合、あくまでもその判断が正しければ価値が実現するのであって、判断が間違っていた場合、価値はゼロに留まります(オプションなので、損失には至らないはずです。。。自分の理解では)。
問題にしたいのは、その判断の正しさは何によって担保されるのかということです。
リアルオプションの算出式は、二項モデル、ブラック-ショールズなどがありますが(←受け売り)、いずれも原資産価値などの値が定まればあとは機械的に算出できるという形で、「その意思決定を行使する人は誰であるか」「その意思決定は正しいものであるかどうか」を問題にしません。
あくまでも正しい意思決定がなされたものと仮定して、価値を算出します。
けれども現実世界はどうかといえば、ある状況において、正しくリアルオプションを行使して、価値を実現できる人というのは、その場に立たされる人全員でないということは明白です。
つまり、リアルオプションの考え方は、それを行使する人の行使技術の習熟という問題をまったく考慮に入れていません。
ここの空白地帯にうまくはめ込むことができるのが、ドラッカーらが「ナレッジワーカー」という時の「ナレッジ」(以下「知識」)です。
実物資産をよいように操作したり、つなげたり、拡張したりといったオプションを行使するのは「そうした技量を学んだ人」です。言い換えれば、その「学び」こそがリアルオプションバリューを実現させる原動力なのです。
個人的には、知識社会、知識資本主義、知識資産といった文脈で使われる「知識」とは、何らかの資源(時間、人、モノ、金、さらには三次元的高さや広さをもった空間、そしてTransportation=移動できること)に対して、何らかの積極的な働きかけを行って(オプションを駆使して)価値を増やすことができるための能力であると理解し始めています。
それも、ひとつ数億円といった実物資産だけでなく、何らかの業務プロセス(これも個々の業務プロセスレベルでキャッシュフロー生成に関わっているので、リアルオプションが想定する実物資産の一種だと考えることは可能です)や、プロフェッショナルが自由裁量で使うことのできる時間や、チームの作業能力などもある種の実物資産であると考えることができ、それらに関するよりよい意思決定を可能にするものも、ここで言う「知識」に該当すると思います。そうした知識がリアルオプション価値を現出させるのです。
この考え方は何もオリジナルだなどと言うつもりはさらさらなくて、どこかの書物ですでに記されているのを私が知らないだけなのでしょうけれども、非常に魅力的であり、ねちねち考えていきたい対象です。
知識が持つ価値がリアルオプションを駆使できる能力だとすると、たぶん定量化もできるだろうというのが、数学がダメダメである私の読みです。
定量化できるとすれば、その知識に”価格”が付きます。価格があるところ、市場が成立するというのは古来からの経済原理であり、市場があることによって、言い換えれば、知識に価格がついて流動性が生じることによって、そこが富の源泉となります。産業が成立すると考えています。
付言すれば、年収が高い人(年収3000万とかそれ以上のあたり)の給与なども、彼/彼女が習得した知識によって、より多くの資源をよりよく活用して、より大きなリアルオプションバリューを現出させることが出来ることに対する対価だと考えれば、十分に納得がいきます。