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「スカートが巻き起こす風」 競争とはコンクールとはーⅩⅠ

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近頃の音楽コンクールは、韓国人ピアニストの素晴らしい活躍が目立っています。
 
2005年ショパン国際コンクールに、イム・ドンミン、イム・ドンヒョクが兄弟揃って第3位入賞、2006年浜松国際コンクール第3位にキム・テヒョン、そしてリーズ国際ピアノコンクール優勝のキム・ソヌク。
 
特にキム・ソヌクは、2008年に韓国芸術大学を卒業したばかりの現在21歳。リーズのときは学生で、まだ18歳だったことになります。その早熟ぶりにも驚きますが、通常、大学は欧米の音大に留学することも多い韓国人ピアニストの中、キム・ソヌクは韓国で勉強しているのです。
 
数年前まで、留学から帰ってくる人たちは「ヨーロッパに行ったのに、音大は韓国人と中国人ばかり。」と口を揃えていたのですが、これからは、彼らも国内で学ぶようになりそうな予感がしています。
 
韓国出身世界的演奏家のパイオニア的存在と言えば、ヴァイオリニストのチョン・キョンファ、キョンファの弟でもある指揮者のチョン・ミョンフン、そして二人の姉でもあるチェリストのチョン・ミョンファがすぐに思い浮かびます。
1960年代、彼らをアメリカで学ばせるために、母親のイ・ウォンスクは、あらゆる手をつくし無理を押して留学に踏み切りました。
 
しかし、この教育熱心さはいかばかりのものでしょう。
韓国では、猛烈な教育ママのことを「チマパラム」、スカートが巻き起こす風、という意味の言葉で表現します。イ・ウォンスクはまさに元祖チマパラムでした。
 
「東洋人であるという不利をはねのけて開拓者としての道を歩いてきた私の家族からは3人が世界の音楽界に頭角を現した。外国で長い間苦労をしながら勉強して、いつも思っていたのは後進たちの手助けが何かできないだろうかということでした。もっと楽な方法でその道を歩けるようにしてやらなけらばならないというのが私の考えであり、みんなの義務だと思います」と著書「世界がおまえたちの舞台だ」で語っています。そのために、その後、世和(セファ)音楽財団を立ち上げています。
 
そして今、韓国政府は、国をあげて韓国国内での音楽家育成に力を入れています。世界に羽ばたく音楽家を輩出するため、才能のある子供たちに英才教育を施す教育システムを作っています。
国内での競争力を上げる努力を国全体で行っているのです。
その結果が、若手音楽家たちのめざましい活躍として、だんだんと実をむすびつつあるのですね。
 
韓国はその他に、国際的な競争に勝つための人材育成として、英語教育にも力を入れています。
例えば、「英語幼稚園」という英語教育中心の幼稚園があり、普通の幼稚園で一ヶ月25万ウォン~30万ウォンのところ、70万ウォンくらいかかります。(10ウォン=約1円)
その他に家庭教師、ピアノのおけいこなど、遊ぶひまもないほどだと言います。
 
韓国のチマパラムたちは、子供たちのために投資することは惜しいことでもなんでもない、親として当然の義務だ、と思っているようですね。
 
元祖チマパラム、イ・ウォンスクは「私の歩いてきた道は結局、愛国なんです」と言っています。この「国を愛する力」が韓国を動かす原動力となっているのではないでしょうか。

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