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「プライベートも仕事の勉強をすべきですか?」という問いへの答え

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ある研修でのことでした。入社1〜2年目ほどの若手社員から、次のような質問を受けました。

「仕事以外のプライベートな時間にも、仕事に関わる勉強をする必要があるのでしょうか」

正直なところ、その質問のあまりの純粋さに、私は一瞬言葉を失いました。私を含め、ある程度のキャリアを重ねた人間の多くは、反射的に「当然だろう!」と喉まで出かかるはずです。しかし、それは私たちが「当たり前」として無批判に受け入れてきた常識に過ぎません。

この「当たり前」を説明できないようでは講師は務まらない。私は自身の考えを反芻し、一息ついてから、こう答えました。

「それは、あなたが決めることです。私がとやかく言えることではありません」

自由という名の「重荷」と、人生の操縦桿

突き放したように聞こえたかもしれません。しかし、これは決して冷淡な答えではなく、もっとも誠実な答えだと私は信じています。

20世紀を代表するフランスの哲学者、ジャン=ポール・サルトルは、著書『実存主義とは何か』の中で、あまりにも有名な言葉を残しています。

「人間は自由の刑に処せられている」

(Jean-Paul Sartre / "Man is condemned to be free")

人生には、神や運命によってあらかじめ用意された設計図など存在しない。人間は自分のあり方を、自分自身の選択と責任によって一つひとつ決定していかなければならない。サルトルはそう説きました。

あなたの人生は、あなたのものです。会社のためでもなければ、親のためでもない。

学ぶ機会として会社があり、プライベートがあります。その時間をどう使うかは、誰かからの強制ではなく、あなたが「自由」に行使すべき権利であり、同時にその結果を引き受ける義務でもあります。

勉強するか、しないか。

その選択権は、上司ではなく、あなたの手の中にあります。

「器」で終わるか、「人間」になるか

私は彼にこう続けました。

「"仕事に関わる勉強"と言いましたが、仕事というのはあなたの人生の一部でしかありません」

今の業務に直結するスキル、例えば、エクセルの使い方やプログラミング、営業トークだけが「勉強」ではありません。読解力、言語化力、共感力。これらは一朝一夕には身につきませんが、社会で活躍するための土台となります。

文学、美術、歴史、科学。

一見、明日の業務には役に立たないように見えるこれらの教養こそが、世界を深く理解するレンズになります。

中国の古典『論語』の為政編に、このような一節があります。

「君子は器(うつわ)ならず」

(君子不器 / 孔子)

「器」とは、特定の用途にしか使えない道具のことです。茶碗は茶を飲むため、刀は切るためにあります。しかし、人の上に立つ立派な人物(君子)は、特定の機能しか持たない道具のような存在であってはならない、と孔子は説きました。

もし、あなたが「業務マニュアルに書かれたこと」しか学ばなければ、あなたは交換可能な「機能(パーツ)」になってしまいます。 職場であれプライベートであれ、貪欲に学ぶことは、あなたを単なる「器=労働力」から、替えのきかない「人間」へと進化させる唯一の手段なのです。

積み重ねた水だけが、船を浮かべる

もちろん、業務時間内で身につく知識だけで十分だと考えるなら、それでも構いません。給料の分だけ働けばいいという割り切りも、一つの生き方です。

しかし、忘れてはならないことがあります。

「その結果は、全て自分に返ってくる」ということです。

中国戦国時代の思想家、荘子は『逍遥遊篇』でこう述べています。

「水之(こ)れを積むこと厚からざれば、則ち其の絶大なる舟を負うの力無し」

(水が深く溜まっていなければ、大きな船を浮かべるだけの力はない)

浅い水たまりには、芥(ごみ)のような小舟しか浮かびません。大きな船を動かし、遠くへ旅をするためには、その土台となる深い水が必要です。

学びもこれと同じです。日々の積み重ねという「水」が浅ければ、あなたの人生という「船」は、大きな海原へ漕ぎ出すことができません。選択肢は限られ、見える世界も狭いままになってしまうでしょう。

「自分の人生をどう生きるか」を引き受ける

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どんな人生を生きたいかは、他人が決めることではありません。

しかし、これだけははっきり言えます。

学ぶことに貪欲である方が、人生において「できること」が増えます。

世界をより深く理解し、多様な人とつながり、人生の選択肢が広がります。

自分がどんな人生を生きたいかは、自分で決めるしかない。

そして、その結果として目の前に広がる景色は、あなたが積み上げてきた時間の総決算なのです。

あなたは、自分の人生という船を、どこまで遠くへ進めたいですか?

そのための「水」を貯めるのも、漕ぎ出す覚悟を決めるのも、他ならぬ「今のあなた自身」なのです。

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