2020年 SIビジネス・10大予想 予想10:ITリテラシーの低い企業/人たちはビジネス・チャンスを失う
100人ほどの受講者を前に、次のような質問をした。
「arm(アーム)を知っている人は手を挙げてください。」
10人ほどが手を挙げる。
「では、armを持っているか使っている人は手を挙げてください。」
今度は、10人にも充たない。
受講者の大半がSI事業者の社員であり、ITに従事している人たちだ。当然のことながらarmが日本企業(ソフトバンク)のグループ会社であることを知っている人はさらに少ない。
コンテナ、マイクロサービス、サーバーレスなどの言葉についても「言葉は知っているが説明ができない」人がほとんどであり、AIと機械学習とディープラーニングの違いを説明できる人はほとんどいない。
だからといって、仕事に困ることはない。Javaが書けて、ネットワークが構築できる。自社の製品やサービスを売るのに、そんな知識は不要だ。だから、そんなことを知る必要がないと考えているのかも知れない。お客様から聞かれることもないし、要求されることもないので、知らなくてもいいと考えているのかも知れない。
SI事業者は、情報システム部門が直接の顧客であり、そこからの仕事で収益を維持している企業が多い。そこから依頼されることに確実に応えることで仕事の需要を維持している。こちらから新しいことを仕掛ける必要もなく、彼らから依頼される仕事を粛々とこなすことで収益が維持できる。そういう時代が続いてきた。
しかし、インフラやプラットフォームは、これから次第にクラウドへの移行がすすみ、自動化の適用範囲が拡大してゆけば、そういう仕事は少なくなっていく。では、アプリケーションとなるが、少なくとも戦略的に重要なアプリケーションは事業部門が主導して内製化をすすめてゆくはずだ。つまり、情報システム部門は、アプリケーションについては、既存の、あるいはレガシーなテクノロジーを引きずった情報システムの維持や保守が主な仕事となるだろう。その仕事を任されるのが、SI事業者となる。
「ウチの情報システム部門は、業務を知らないから、アプリケーションについて相談できません。」
何人もの事業部門の人たちからこんな話しを聞かされた。この現実を考えれば、情報システム部門にしか接点を持たないSI事業者もまた同様に、収益を生みだす、あるいは、企業変革を実現するアプリケーションについて相談されることはないだろう。
戦略的なIT活用であったり、デジタル・トランスフォーメーションであったりと看板を掲げることは大いにけっこうなことだが、まずは自分たちがいま置かれている状況がどうなっているかをしっかりと見据えることだ。ましてや、冒頭に紹介したような「ITリテラシー」が低い人たちを、事業部門の人たちがITの専門家としてパトーナーに迎え入れてくれることはないだろう。
そんなことは、コンサルの仕事であると割り切るべきではない。そもそも営業にITリテラシーがなければ、お客様の相談相手にはならないから、案件のきっかけを掴むことはできないだろう。アプリケーション開発もインフラの構築も、急速に新しいテクノロジーに置き換わっているいま、コスト・パフォーマンスやサービスの価値を高めるためには、これに対応できなくてはならない。事業部門のITへの期待は、まさにこの点に尽きる。だとすれば、その常識のない人たちに仕事を任そうとは思わないだろう。自ずと、SI事業者の仕事は、既存&レガシーなシステムの仕事に限られてしまう。
そんな仕事は嫌だと転職したくても、新しいITについてのリテラシーがない人を採用しようという企業はない。
purpose beyond profit (企業の存在意義は利益を超える)
IIRC(International Integrated Reporting Council/国際統合報告評議会)の2018年の報告書のタイトルだ。詳しくはこちらの記事をご覧頂きたい。
【参考】何のためのDXなのかの原点に立ち返り、自分たちの取り組んでいることを改めて再定義してみてはどうでしょう
言葉を換えれば、「利益は企業が自らの存在意義を追求した結果としてもたらされる」となるだろう。
ビジネス環境が急速に、そして劇的に変化し、顧客のニーズも求められるテクノロジーもどんどんと変わってしまう。そんな時代に、自分たちが世の中やお客様に対して果たすべき役割や自分たちの価値、すなわち存在意義を問い続けなければ、事業の継続も企業の存続も難しい時代になった。
ITを生業にこれからも会社として、あるいは、個人として生きてゆくのなら、まずは自分たちのITリテラシーを世の中の常識に合わせてアップデートし続けなければ、どのような戦略も施策も見いだせない。
事業部門(LoB)や経営者にアプローチしたい。
まさにそれが、これから事業を継続してゆくために必須であるが、ITのリテラシーが低く、テクノロジーとビジネスを結びつけて話ができない人たちに何ができるというのか。
SI事業者がこれからも生き残り、成長してゆくためには、この本質的課題に向きあうことではないか。まだ、これまでの工数需要で収益があげられるうちにそのための施策を打つべきことは言うまでもない。
2020年 SIビジネス・10大予想
- 予想1:デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関わるビジネスの多くはかけ声倒れに終わる
- 予想2:SI事業者のプラットフォーム戦略は、大きな成果をあげられない
- 予想3:アジャイル開発に関われないSI事業者のビジネス・チャンスが制約される
- 予想4:オンプレミスにクラウド・ネイティブが浸透する
- 予想5:5Gがスタートするもビジネスの方向性を描けないでまごつく企業が続出
- 予想6:「働き方改革」の成否がSI事業の成否を分ける
- 予想7:ユーザー企業がSI事業者と競合する時代を迎える
- 予想8:ヒューマン・オーグメンテーション(人間拡張)を見据えたビジネスの再定義が必要になる
- 予想9:クラウド・ネイティブへの対応の差がSI事業の業績に決定的な差を生みだす
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総集編
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パッケージ編
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【改訂】これからのビジネス戦略
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ビジネス戦略編
【改訂】変革とは何か p.4
【新規】テクノロジーによる産業構造の転換 p.7
【新規】イノベーション p.10
【新規】イノベーションの本質 p.11
【改訂】デジタル・トランスフォーメーションとは何か p.36
【改訂】複雑性を排除してイノベーションを加速する p.57
【新規】最適な解決策を見つけ出すためのデザイン思考 p.87
【新規】新規事業の成功確率を高めるリーン・スタートアップ p.88
【新規】SI事業者の抱える3つの不都合な真実 p.183
【新規】情シスへの依存がビジネスを萎縮させている(1) p.184
【新規】情シスへの依存がビジネスを萎縮させている(2) p.185
【新規】情シスへの依存がビジネスを萎縮させている(3) p.186
【新規】新しいデマンドを開拓できない(1) p.187
【新規】新しいデマンドを開拓できない(2) p.188
【新規】新しいデマンドを開拓できない(3) p.189
【新規】「木こりのジレンマ」に陥っている p.190
【新規】ITビジネスのトレンド p.191
ITインフラとプラットフォーム編
【改訂】ソフトウェア化するインフラストラクチャー p.62
【新規】パスワード認証のリスク p.109
【新規】FIDO2による認証プロセス p.110
【新規】FIDO2とSSO p.111
【新規】本人認証の方法 p.112
クラウド・コンピューティング編
【新規】クラウドがもたらす本質的な変化 p.21
サービス&アプリケーション・先進技術編/AI
【新規】Googleが発表した自然言語処理モデル BERT p.88
【新規】新しい学習法 p.105
テクノロジー・トピックス編
【新規】ムーアの法則 p.6
下記につきましては、変更はありません。
開発と運用編
サービス&アプリケーション・先進技術編/IoT
サービス&アプリケーション・基本編
ITの歴史と最新のトレンド編