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「優秀な人材」はなぜあなたの会社を辞めてしまうのでしょうか

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GitHub Copilotのような生成AIが、当たり前のように開発現場で使われるようになりました。これは単なる「便利なツール」の登場ではありません。ソフトウェア開発のあり方を根底から覆し、長年日本のIT業界を支えてきたSIer(システムインテグレーター)のビジネスモデルそのものに、構造的な変革を突きつけています。

今、多くのSIerは岐路に立たされています。SaaSの普及という大きな潮流に加え、生成AIという新たな波。この変化の本質を見誤れば、顧客だけでなく、未来を担うはずの優秀なエンジニアからも見放され、静かに衰退していく未来は避けられません。

本記事では、なぜ今、SIerが根本的な自己変革を迫られているのか、そして、これからの時代を生き抜くために何が必要なのかを深掘りしていきます。

■ 加速するコモディティ化:SaaSの次にAIが飲み込む領域

かつて自社で開発・運用するのが当たり前だったアプリケーションは、次々とSaaSに置き換わっています。メールやオフィスツールに始まり、今や人事、財務会計、販売管理といった基幹業務でさえ、SaaSを利用するのが合理的という時代です。

これは、企業が競争力の源泉となる「戦略的なIT活用」にこそリソースを集中させたい、という明確な意志の表れです。独自性を求められない領域は、完成度の高いSaaSに任せる。この流れはもはや誰にも止められません。

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そして今、このコモディティ化の波は、生成AIによって「ソフトウェア開発」そのものに押し寄せています。

これまでエンジニアの経験とノウハウに依存していたコーディングや、定型的な設計作業は、AIが瞬時に生成できるようになりました。AI駆動開発(AI-Driven Development)は、開発の生産性を劇的に向上させると同時に、これまで「人手」をかけて行ってきた作業の価値を相対的に低下させています。

ある先進的なオンラインサービス事業者がSaaSを多用する理由は、コストやスピードだけではありません。「世の中のデファクトを使えない企業に、優秀な人材は集まらない」という切実な事情があるのです。そして、その「デファクト」には、もはや生成AIツールが含まれ始めています。 優秀なエンジニアほど、最先端のツールを使いこなし、自身のスキルを磨くことに貪欲です。旧態依然とした開発環境は、彼らにとって成長の機会を奪う「足かせ」でしかありません。

■ 「人月ビジネス」の限界と、本当に価値あるスキルの変化

日本のSIerの多くは、長らく「人月」という単位でビジネスを行ってきました。これは本質的に、エンジニアの労働時間と引き換えに、経験の蓄積に支えられた「ノウハウ」を提供するビジネスです。

しかし、生成AIがその「ノウハウ」の一部を民主化し、コモディティ化する時代において、もはや「人月」という尺度は意味をなさなくなりつつあります。

では、これからのエンジニアに求められるスキルとは何でしょうか。それは、AIという強力な武器を使いこなすための、より本質的な能力です。

  • AIに的確な指示を出し、最適な解を引き出す能力

  • AIが生成したコードや設計を評価・検証し、品質を担保する能力

  • より複雑で高度なシステムアーキテクチャを設計する能力

これら全ての土台となるのが、ソフトウェアエンジニアリングやコンピュータサイエンスといった、流行り廃りのない普遍的な「基礎」や「基本」の知識です。小手先の技術や経験則ではなく、なぜそうなるのかを理論的に理解していることの価値が、かつてなく高まっています。

このスキルシフトに企業が対応できなければ、何が起こるでしょうか。答えは明白です。成長意欲の高い、優秀なエンジニアから流出していきます。

自分のキャリアを真剣に考えるエンジニアは、企業を「成長の機会」として捉えています。基礎を学び、モダンな開発環境で実践する機会がなければ、その会社に留まる理由はありません。外部の勉強会への参加を快く思わないような閉鎖的な文化を持つ企業なら、なおさらです。

■ レガシーITに未来はない。モダンITへのシフトこそが唯一の生存戦略

SaaSの活用、クラウドネイティブな開発、そしてAI駆動開発。これらを積極的に取り入れた「モダンIT」へのシフトこそが、これからのSIerにとって唯一の生存戦略です。

この変革に舵を切れないレガシーな企業は、顧客から選ばれなくなるだけでなく、自社の社員からも「未来がない」と判断されてしまいます。

  • SE:コードを書かず、プロジェクト管理や調達だけを行ってきたSEの仕事は、SaaSや開発の自動化によって確実に減少します。求められるのは、顧客のビジネス課題を深く理解し、テクノロジーで解決策をデザインできる、よりコンサルティングに近い能力です。

  • 営業:単なる「モノ売り」や御用聞きはもはや通用しません。顧客自身も気づいていない潜在的な課題を発見し、新たなビジネスを共に創り出す「価値創造型」の役割へとシフトする必要があります。

これは単なる「人材育成」の問題ではありません。経営戦略、事業戦略そのものの問題です。

経営陣がこの本質を理解せず、「DXに貢献する」といった耳触りの良い言葉を並べるだけでは、顧客にも、そして最も感度の高い社員にも、その中身のなさはすぐに見透かされてしまいます。

■ 経営者が下すべき「覚悟」と「再定義」

優秀な人材をつなぎ止めるために、給与や待遇を改善することは一時的な効果しかありません。問題の根源は、自社の企業価値と役割を、この新しい時代に合わせて再定義できているかという点にあります。

  • 我々のビジネスは、本当に顧客の価値創造に貢献できているか?

  • 「人月」に代わる、新しい価値の尺度は何か?

  • 社員がプロフェッショナルとして成長し続けられる環境を提供できているか?

これらの問いに、経営者自らが明確なビジョンと覚悟をもって答えを出す必要があります。

労働人口が減少していく日本において、優秀な人材はこれまで以上に貴重な経営資源です。彼らを惹きつけ、その能力を最大限に活かせる企業だけが、生成AI時代の厳しい競争を生き抜き、成長を続けることができるのです。

今こそ、過去の成功体験を捨て、自社のビジネスモデルを根本から見直す時です。その覚悟がなければ、SIerの未来はありません

8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」発刊します!

AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。

本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい

今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円

AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。

本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。

参加費:

  • 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
  • 2万円(税込)/上記以外

お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。

営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

2025年8月27日(水) ※1回のみ

現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

いずれも同じ内容です。

【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)

こちらに登壇させて頂きます。まだ参加可能ですよ!

【図解】これ1枚でわかる最新ITトレンド・改訂第5版

生成AIを使えば、業務の効率爆上がり?
このソフトウェアを導入すれば、DXができる?
・・・そんな都合のいい「魔法の杖」はありません。

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ご紹介

【正式告知/最終視察内容決定】上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー

私たちインフラコモンズ株式会社では、先日ご紹介の「シリコンバレー最先端ヒューマノイド企業視察ツアー」に続いて、上海と北京のIT人材教育に積極的なトップ大学を訪問し、日本企業が各大学の優秀なIT新卒人材を獲得できるパスづくりの視察ツアーを実施します。

【視察日程】

922日月曜日〜926日金曜日 申込締切826日火曜日

【視察設計のポイント】

  • IT人材教育を積極的に行なっている上海と北京のトップ大学における新卒人材窓口を訪問し、御社と各大学とのパスが構築できる機会を目指します。
  • ベテランの日本人中国語通訳が付きます。
  • 旅行会社はJTBになります。参加申込はJTBの予約申込ページOASYSから行っていただきます。8月上旬に開通したURLを告知、正式なお申し込みができるようになります。
  • 月曜出発、金曜日帰国。最少催行人数10名。最大2020名になった時点で締め切ります)
  • 中国における視察コーディネート会社:CARETTA WORKS。視察実施後の個別企業様と各大学との交渉等を個別のコンサルティングサービスとして請け負うことも可能です。
  • 視察代金は80万円(航空サーチャージおよび空港使用料別)

【対象となる企業】

  • 日本の大手IT企業。特にAIやクラウド人材を求めている大手IT企業
  • 日本の自動車メーカー及びティア1企業でSDVSoftware Defined Vehicle)開発人材を求めている企業、及び、ADAS開発人材を求めている企業
  • 日本の大手企業において、業務部門内でアプリケーションを内製するチームの充実を図りたいとお考えの企業
  • 日本のIT人材企業で中国IT人材企業とのパイプを作りたいとお考えの企業

【視察スケジュール】

Day 1東京上海

  • 午前:東京(羽田/成田)発
  • 午後:上海浦東空港着
  • 夕方以降:自由行動/休憩歓迎会・オリエンテーション
  • 宿泊:上海市内ホテル

Day 2上海市内訪問(午前+午後で2大学)夜に北京へ移動

  • 上海交通大学、復旦大学の2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 夜便:上海北京移動(例:1921時台便)
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 3北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 4北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 5北京東京

  • 午前:自由時間/チェックアウト
  • 午後:北京首都空港または大興空港へ送迎
  • 夜便:北京発東京着

【資料請求および旅行について】

 株式会社JTB  
 https://www.jtbcorp.jp/jp/
 ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
 TEL: 03-6737-9362
 MAIL: jtbdesk_bs6@jtb.com
 営業時間:~/09:30~17:30 (土日祝/年末年始 休業)
 担当: 稲葉・野田
 総合旅行業務取扱管理者: 島田 翔

お問い合わせは、株式会社インフラコモンズ (ホームページ下端の問い合わせ欄よりお送りください)まで

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

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