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2020年 SIビジネス・10大予想 予想1:デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関わるビジネスの多くはかけ声倒れに終わる

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SIビジネスに関わる私の2020年の10大予想を紹介する。最初の予想は、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)に関わるビジネスの多くはかけ声倒れに終わる」だ。たぶん、現場の多くの人たちがこのことを実感しているのではないだろうか。

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DXについては様々な定義や解釈がなされているが、概ね「社会や経済の視点/社会現象」と「経営や事業の視点/企業文化や体質の変革」の2つに区分できるだろう。

社会や経済の視点/社会現象」としてのDXとは、2004年、スエーデン・ウメオ大学教授のエリック・ストルターマンらによって初めて示された言葉で、「ITの浸透により、人々の生活が根底から変化し、よりよくなっていく」との定義に沿った解釈だ。これは、デジタル・テクノロジーの発展によって社会や経営の仕組み、人々の価値観やライフ・スタイルが大きく変化し、社会システムの改善や生活の質の向上がすすむという社会現象を意味している。

経営や事業の視点/企業文化や体質の変革」としてのDXは、2010年以降、ガートナーやIMDの教授であるマイケル・ウイードらによって示された概念に沿った解釈だ。これは、デジタル・テクノロジーの進展により産業構造や競争原理が変化し、これに対処できなければ、事業継続や企業存続が難しくなるとの警鈴を含むもので、デジタル・テクノロジーの進展を前提に、競争環境 、ビジネス・モデル、組織や体制の再定義を行い、企業の文化や体質を変革することを意味している。

ビジネスの観点に立てば、後者の解釈が前提となるだろう。SIビジネスにおけるDX事業、あるいはDX案件は、ユーザー企業のこの「変革」に関わる取り組みと言える。

なお、後者に含まれる解釈として、「経済産業省・DXレポートの視点/変革の足かせとなる課題の克服」がある。本レポートでは、IDC Japanの次のDXの定義を採用している。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」

この解釈は、概ね「経営や事業の視点/企業文化や体質の変革」と共通しているが、本レポート全体を見れば、「老朽化したレガシー・システムや硬直化した組織、経営意識といった変革の足かせとなる課題を克服する活動」に焦点が当てられている。そして、この課題を払拭しなければ、「企業文化や体質の変革」は難しいという問題提起である。

詳しくは、以下の記事をご覧頂きたい。

【参考】デジタルトランスフォーメーション(DX)とは? 起源・歴史・組織・成功率など

ではなぜ、SI事業者によるDX事業あるいはDX案件の多くが「かけ声倒れ」になるのかと言えば、事業を行う当事者であるSI事業者のDXへの取り組みが遅々として進まないと考えられるからだ。

急速なデジタル・テクノロジーの進展を踏まえ、圧倒的なビジネス・スピードを手に入れ、イノベーションを加速しようという取り組みがDXであるとすれば、そこに関わってゆけるSI事業者は、DXを自ら実践し、そのノウハウを、模範を通じて提供できることが前提になる。しかし、それができる企業は多くないだろうし、そのことに関心のない企業も少なからずある。

昨今よく目にするようになったコンテナ、サーバーレス、アジャイル開発、DevOpsなどの言葉は、この文脈から導かれるわけだが、いまだSI事業者内の変わり者や特別の人たちに委ねられており、主流とはなっていない。また、意味を失ってしまった手続きやルール、儀式化した会議といったビジネス・スピードの足かせとなるようなことが当たり前に行われている。そんな企業文化であるSI事業者が他人のDXをとやかくいうことなどできないだろう。

言葉だけは、流行言葉としてのDXを看板に掲げるものの実体を伴わない取り組みがうまくいくはずがない。従って、「かけ声倒れ」あるいは、成果の上がらない「自己満足のDX事業」に終わるだろう。

誤解なきように申し上げたいのは、DXは「かけ声倒れ」であっても、受託開発などの工数ビジネスが直ちになくなるわけではない。むしろ、クラウドへのリフト・アンド・・シフトや既存システムのモダナイゼーションなど、変革を伴わない改善・最適化の需要は当面は続くだろうから、収益面で直ちに影響が出ることはない。

しかし、「看板だけのDX」企業は、DXの実現を目指すユーザー企業からは信頼されることがないので、既存の延長線上の案件でしか仕事は依頼されないだろう。また、新たな付加価値を伴わない案件あるいはコモディティ化した業務しかやらない企業からは優秀な人材が流失してしまう。そうなると、「稼働率は維持できても利益率は低下する」ことになり、やがて既存システムの改善や最適化が一巡して、既存業務の需要が低迷し新たな事業に出ようとしてももはや対応できないという状況に陥る。このこともまた「かけ声倒れ」につながる。

自分たちの将来を考えるのであれば、DXの本質に真摯に向き合い、実効性のある取り組みを行うことが大切になる。詳しくは、下記の記事をご覧いただきたい。

【参考】「ボーッと生きてんじゃないよ!」と叱られないための「DX」と「共創」の基本の「き」

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テクノロジー・トピックス編
【新規】ムーアの法則 p.6

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