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たった一人のエンジニアが3週間で起こした「革命」

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「うちの社内システムは、なぜこうも使いにくいんだ!」

多くの企業で、そんなため息が聞こえてきます。もしかしたら、あなた自身がそう感じているかもしれません。報告のためだけに作られる資料、形骸化した情報共有。この『変わらない現実』を打ち破るヒントが、あるエンジニアの起こした小さな『革命』の物語に隠されています。

今回は、まさにそんな状況に陥っていたある大手設備メーカーで起こった、痛快な「革命」の物語です。この話は、これからの時代にSIerが本当に提供すべき価値とは何かを、私たちに教えてくれます。

絶望的なシステムと「エンジニア」

そのメーカーには、SharePointで作られた情報共有サービスがありました。しかし、実態はテキストベースのインターフェースで、「とにかく使いにくい」と現場の評判は最悪。全国600ヶ所以上に散らばる工事現場の状況など、誰もリアルタイムに把握できていませんでした。

そこで立ち上がったのが、「地図をクリックすれば、全国の現場の予実や進捗が一目でわかり、詳細な数字もグラフで見られる」という、システムの構築でした。

実は、この話、「情報システム部門の社内的な地位が低い」というえ問題意識がきっかけでした。情シスがユーザー部門に改善や新しい提案をしても、「お前たちはこちらの要望通りのシステムを作れば良い。余計なことを言うな!」といった状況でした。そこで、情シスの地位向上のための「社長ダッシュボード」を作ろうと言う提案を、私がしたことがきっかけでした。

当初は、「ユーザーの要望も聞かずに情シスだけでやってしまうのはどうか」という部門長の不安もありましたが、既に稼働している情シス管理下の「SharePointで作られた情報共有サービス」の改善ですから、問題はないでしょうと言うことになり、スタートしたのです。

私は、旧知の優れたエンジニアにこの話を相談しました。すると彼は、笑顔でこう言ったのです。

「面白そうですね。やりましょう。納期は1ヶ月もあれば十分です。」

私は耳を疑いました。SharePointを使いこなすのはもちろん、地図サービスとの連携など、一筋縄ではいかないはず。 「本当に大丈夫? SharePointは使ったことがある?」 という質問に、彼の答えは、次のようなものでした。

「いえ、使ったことはありません。でも、1週間も触ればだいたい分かりますよ。簡易言語みたいなものだし、コンピューターの仕組みなんて、基本は同じですから。」

ただ一つ、彼からの要望は「クラウドの地図サービスを使うので、社内システムからアクセスできるよう、インフラの設定だけはお願いします」というものでした。

わずか2週間で完成したが、そこに立ちはだかった「SIerの壁」

いよいよプロジェクトはスタート。しかし、私たちの度肝を抜く事態が起こります。

わずか2週間後、彼は見事なプロトタイプを完成させ、デモを行ったのです。

地図に示された工事現場のマークをクリックすると現場の状況がポップアップします。数字はドリルダウンでき、美しいグラフが瞬時に描画される...。情報システム部門の面々は、期待を遥かに超える出来栄えに感動し、システム部門長は「こんなものが2週間で...」と驚きを隠せませんでした。

しかし、ここで問題が発生します。彼が唯一依頼していた「インフラの設定」が、うまくいかないのです。長年この会社のインフラを担当してきたITベンダー(SIer)が、試行錯誤しているにもかかわらず、「社内ネットワークの制約で、クラウドサービスに接続できない」の一点張り。SIerの「専門家」にも来てもらったのですが、「もう少し時間を下さい」ということでした。

30分で解決! これが「本物の技術力」

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万策尽きたシステム部門は、彼に助けを求めました。ITベンダーが2週間も頭を抱えていた問題を、彼は一瞥し、ログを数分確認しただけで、静かにこう告げたのです。『ああ、原因はこれですね』。解決にかかった時間は、信じられないことに、わずか30分でした。なぜ、長年担当してきたはずのSIerが解決できず、彼には瞬時にわかったのか。それは、彼が単に特定の製品知識を持っていたからではありません。その背後にあるコンピューターサイエンス、ネットワーク、ソフトウェアといった技術の『原理原則』から物事を捉え、本質を見抜く力を持っていたからです。目先の事象に惑わされず、問題の本質を見抜く力。それこそが、彼の持つ「圧倒的な技術力」の正体でした。

導入後に起きた「悲喜こもごも」という名の成果

システムは結局、納期を1週間前倒しした3週間で本番稼働を迎えました。その後の反応は、実に対照的で示唆に富むものでした。

  • 経営者層:「素晴らしい!すべてがリアルタイムで見える!」と大絶賛。 経営会議ではこのシステムが必須となり、意思決定の透明性とスピードは劇的に向上しました。

  • 現場の工事責任者:「これではごまかしが効かない...」と不満の声。 これまでは報告書の「表現の工夫」や提出のタイミングで曖昧にできていた進捗の遅れが、数字とビジュアルで白日の下に晒されることになったのです。

現場からの不満。それは一見ネガティブな反応に見えるかもしれません。しかしこれこそが、システムがビジネスの核心を突き、ごまかしの効かない『真の見える化』を達成した何よりの証拠なのです。

SIerが売るべきは「工数」ではなく「技術力」

この一人のエンジニアが示した「技術力」とは何だったのでしょうか。

  1. 原理原則への深い理解:未知の技術や予期せぬ問題にも、本質からアプローチして解決できる。

  2. ビジネスへのコミットメント:言われた通りに作るのではなく、「どうあるべきか」を考え、より良い形を提言する。

  3. 体験に裏打ちされた知識:新しい技術を「知っている」だけでなく、「使いこなし、その価値を体感している」からこそ、提案に説得力が生まれる。

  4. 真のフルスタック:インフラ、アーキテクチャ、プログラミング、デザインまで見通せる広い視野。

「人月」や「工数」をベースに、言われたものを作るだけの仕事は、いずれAIに代替され、終わりを告げるでしょう。

だからこそ、「システムインテグレーション革命」が必要です。この革命の本質は、ビジネスモデルの根本的な転換にあります。売り物を「工数」から「技術力」へ。そして、収益のあげ方も、人材のあり方も、すべてを新しく作り替えるのです。

もちろん、顧客のビジネスを深く理解し、その成功のために圧倒的な技術力という武器を自在に使いこなせる「家庭教師」や「先生」のような人材を育てることは容易ではありません。そんな困難な取り組みだからこそ「革命」なのです。

「工数」という旧時代の価値基準から脱却し、「技術力」という新たな価値を提供する。この変革を成し遂げることこそが、これからのSIerが生き残るための「革命」なのです。

明日・8月8日!新著・「システムインテグレーション革命」発刊!

AI前提の世の中になろうとしている今、SIビジネスもまたAI前提に舵を切らなくてはなりません。しかし、どこに向かって、どのように舵を切ればいいのでしょうか。

本書は、「システムインテグレーション崩壊」、「システムインテグレーション再生の戦略」に続く第三弾としてとして。AIの大波を乗り越えるシナリオを描いています。是非、手に取ってご覧下さい

今年も開催!新入社員のための1日研修・1万円

AI前提の社会となり、DXは再定義を余儀なくされています。アジャイル開発やクラウドネイティブなどのモダンITはもはや前提です。しかし、AIが何かも知らず、DXとデジタル化を区別できず、なぜモダンITなのかがわからないままに、現場に放り出されてしまえば、お客様からの信頼は得られず、自信を無くしてしまいます。営業のスタイルも、求められるスキルも変わります。AIを武器にできれば、経験が浅くてもお客様に刺さる提案もできるようになります。

本研修では、そんないまのITの常識を踏まえつつ、これからのITプロフェッショナルとしての働き方を学び、これから関わる自分の仕事に自信とやり甲斐を持ってもらおうことを目的としています。

参加費:

  • 1万円(税込)/今年社会人となった新入社員と社会人2年目
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お客様の話していることが分かる、社内の議論についてゆける、仕事が楽しくなる。そんな自信を手にして下さい。

営業とは何か、ソリューション営業とは何か、どのように実践すればいいのか。そんな、ソリューション営業活動の基本と実践のプロセスをわかりやすく解説。また、現場で困難にぶつかったり、迷ったりしたら立ち返ることができるポイントを、チェック・シートで確認しながら、学びます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

2025年8月27日(水) ※1回のみ

現場に出て困らないための最新トレンドをわかりやすく解説。 ITに関わる仕事の意義や楽しさ、自分のスキルを磨くためにはどうすればいいのかも考えます。詳しくはこちらをご覧下さい。

100名/回(オンライン/Zoom)

いずれも同じ内容です。

【第1回】 2025年6月10日(火) ※受付を終了しました
【第2回】 2025年7月10日(木) ※受付を終了しました
【第3回】 2025年8月20日(水)

こちらに登壇させて頂きます。まだ参加可能ですよ!

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ご紹介

【正式告知/最終視察内容決定】上海・北京トップ大学新卒IT高度人材獲得ツアー

私たちインフラコモンズ株式会社では、先日ご紹介の「シリコンバレー最先端ヒューマノイド企業視察ツアー」に続いて、上海と北京のIT人材教育に積極的なトップ大学を訪問し、日本企業が各大学の優秀なIT新卒人材を獲得できるパスづくりの視察ツアーを実施します。

【視察日程】

922日月曜日〜926日金曜日 申込締切826日火曜日

【視察設計のポイント】

  • IT人材教育を積極的に行なっている上海と北京のトップ大学における新卒人材窓口を訪問し、御社と各大学とのパスが構築できる機会を目指します。
  • ベテランの日本人中国語通訳が付きます。
  • 旅行会社はJTBになります。参加申込はJTBの予約申込ページOASYSから行っていただきます。8月上旬に開通したURLを告知、正式なお申し込みができるようになります。
  • 月曜出発、金曜日帰国。最少催行人数10名。最大2020名になった時点で締め切ります)
  • 中国における視察コーディネート会社:CARETTA WORKS。視察実施後の個別企業様と各大学との交渉等を個別のコンサルティングサービスとして請け負うことも可能です。
  • 視察代金は80万円(航空サーチャージおよび空港使用料別)

【対象となる企業】

  • 日本の大手IT企業。特にAIやクラウド人材を求めている大手IT企業
  • 日本の自動車メーカー及びティア1企業でSDVSoftware Defined Vehicle)開発人材を求めている企業、及び、ADAS開発人材を求めている企業
  • 日本の大手企業において、業務部門内でアプリケーションを内製するチームの充実を図りたいとお考えの企業
  • 日本のIT人材企業で中国IT人材企業とのパイプを作りたいとお考えの企業

【視察スケジュール】

Day 1東京上海

  • 午前:東京(羽田/成田)発
  • 午後:上海浦東空港着
  • 夕方以降:自由行動/休憩歓迎会・オリエンテーション
  • 宿泊:上海市内ホテル

Day 2上海市内訪問(午前+午後で2大学)夜に北京へ移動

  • 上海交通大学、復旦大学の2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 夜便:上海北京移動(例:1921時台便)
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 3北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 4北京訪問(午前+午後で2大学)

  • 清華大学、北京大学、北京航空航天大学、北京郵電大学、北京理工大学のいずれかのうち、2校のIT新卒人材にアクセス可能な窓口を訪問
  • 宿泊:北京市内ホテル

Day 5北京東京

  • 午前:自由時間/チェックアウト
  • 午後:北京首都空港または大興空港へ送迎
  • 夜便:北京発東京着

【資料請求および旅行について】

 株式会社JTB  
 https://www.jtbcorp.jp/jp/
 ビジネスソリューション事業本部 第六事業部 営業第二課内 JTB事務局
 TEL: 03-6737-9362
 MAIL: jtbdesk_bs6@jtb.com
 営業時間:~/09:30~17:30 (土日祝/年末年始 休業)
 担当: 稲葉・野田
 総合旅行業務取扱管理者: 島田 翔

お問い合わせは、株式会社インフラコモンズ (ホームページ下端の問い合わせ欄よりお送りください)まで

神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO

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八ヶ岳南麓・山梨県北杜市大泉町、標高1000mの広葉樹の森の中にコワーキングプレイスがオープンしました。WiFiや電源、文房具類など、働くための機材や備品、お茶やコーヒー、お茶菓子などを用意してお待ちしています。

8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。

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