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宇宙インターネットを支える光衛星通信

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データ通信量の爆発的な増加と次世代通信インフラ需要の高まりを背景に、宇宙での光通信技術が大きな注目を集めています。レーザーを用いた光衛星通信は、電波に比べて格段に高速・大容量で、かつ高い秘匿性を備えることから、次世代の基幹通信インフラを支える切り札として期待されています。

地上ネットワークとシームレスに接続された「宇宙インターネット」により、離島や航空機上でも高速通信が可能となり、災害時のバックアップにも衛星ネットワークが活躍する未来が見えてきました。

日本も早くから衛星間光通信の実証に成功し技術基盤を培ってきましたが、いま米欧中で巨大衛星ネットワーク構想を競うなど国際競争が本格化しています。

今回は、2025年3月25日に宇宙政策委員会が公表した「宇宙技術戦略の改訂版」から、宇宙インターネットの鍵を握る光衛星通信技術の背景や現状、そして日本の戦略と今後の展望について、取り上げたいと思います。

光衛星通信の現状と将来像

通信衛星は、静止衛星による広域カバーと低軌道コンステレーション衛星によるグローバルカバーを用途に応じて使い分けてきました​。観測衛星から得られる膨大なデータのリアルタイム中継ニーズや低軌道衛星インターネットの拡大を背景に、衛星通信の需要は今後も増大すると見込まれています​。

この需要拡大に応える形で、電波より高速・大容量かつ高セキュアな光衛星通信技術が実用段階に入りつつあります。光通信は周波数帯の制約を受けず通信速度を大幅に高められるため、衛星同士や衛星-地上間で大量のデータを遅滞なくやり取りすることが可能になります。衛星通信は地上ネットワークに並ぶ基幹インフラとなり、陸・海・空・宇宙あらゆる場所でシームレスに繋がる通信網の一翼を担うと期待されています​。

Beyond 5G/6G 時代には地上と宇宙のネットワーク融合が進み、離島や航空機上でもブロードバンド通信が可能となり、観測衛星データもリアルタイムで得られる世界が展望されています​。

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出典:宇宙政策委員会 宇宙技術戦略の改訂版 2025.3

海外での光衛星通信の取り組み状況

光衛星通信の分野では、米欧中が熾烈な開発競争を繰り広げています。米国ではSpaceX社のスターリンクが約6千機の低軌道インターネット衛星を既に打ち上げ、衛星間をレーザーで結ぶネットワークを構築しつつあります。国防総省の宇宙開発庁(SDA)による軍事通信網PWSAでは、2023年に実証衛星を打ち上げ​、2026年までに光通信端末を搭載した小型衛星を含む174機の衛星群を配備する計画です​。

一方、欧州では静止衛星EDRSによる光データ中継システムを2020年から運用中です​。さらにESAは地上光ファイバーネットワークを宇宙に拡張する次世代高速衛星通信の実証計画「HydRON」に着手し、欧州委員会も2023年から多軌道型の通信ネットワーク計画IRIS²を始動しました​。

中国も約1万機規模の「国網」(GuoWang)コンステレーション構想で追随しており、主要国が競って宇宙に巨大な通信インフラを築こうとしています。

日本の取り組みと課題:実証成果と民間の挑戦

日本は2005年に世界初の衛星間光通信実験に成功しており​、2020年には静止軌道に光データ中継衛星を打ち上げました。さらに2024年、その衛星と低軌道観測衛星(ALOS-4)との間で1.8Gbpsのレーザー通信実証にも成功しています​。これはGEO-LEO間通信として世界初の成果です。一方で、この実証に用いた光通信装置は大型であり、小型衛星に搭載可能な国産端末の開発が今後の課題です​。

現在、JAXAに加え民間企業も光衛星通信に挑戦し始めています。NTTとスカパーJSATの合弁会社Space Compassは低軌道小型衛星の光通信コンステレーション実証に乗り出し、自社の静止衛星と組み合わせた多層型ネットワークを構築するとともに、ESAのHydRON計画との相互運用性も検証する計画です​。

産官一体となったこうした取り組みが加速する一方、国際競争に遅れず実用化に漕ぎつけるスピードが日本に問われています。

自律性確保に向けた戦略的技術開発

衛星通信は経済安全保障上重要なインフラで、米国のPWSAや欧州IRIS²に見るように自国で衛星通信の供給網を確保しようとする動きが進んでいます​。

日本が技術的優位性と自律性を維持するには、衛星通信の重要技術を国内で確保し、自前で衛星ネットワークを運用できる体制を築く必要があります。政府も光通信技術の開発支援を戦略的に推進し、民間企業による市場開拓を促しています​。

また、宇宙空間でのデータ流通を他国任せにしないため、光データ中継など宇宙通信サービスを国内事業者が担うことも重要です​。

その実現に向け、重要インフラとなる光衛星ネットワークを国際的な動向に遅れず早期に社会実装することが重要です​。

さらに、衛星用光通信機器の国産化と国際競争力強化も欠かせません。超高速大容量の宇宙通信を実現するため、光増幅器やデジタルコヒーレントなど先端要素技術の研究開発が進められ、国際標準化にも関与していく方針です​。

宇宙インフラとしての光通信:社会的・経済的意義

宇宙で構築する光通信ネットワークは、社会・経済に大きなインパクトをもたらすことが期待されます。地上と宇宙を統合したネットワークにより、離島や山間部、航行中の船舶や航空機でも高速インターネット接続が可能となり、地域格差の是正や新サービス創出につながります​。

さらに、観測衛星のデータをリアルタイムで大量伝送できれば、防災や農業などで宇宙データを高度に活用できるようになります​。地上通信が寸断された災害時には衛星ネットがバックアップとなり、社会のレジリエンス向上にも寄与します​。

経済面でも、衛星通信サービス市場は今後拡大が続く見通しで、2032年までにデータ通信分野が現在の2倍以上に成長するとの予測もあります​。高速光通信網の確立により、宇宙データ活用やグローバルIoTサービスなど新産業の創出が期待され、日本経済にとっても大きな価値を持つ基盤となるでしょう。

今後の展望

各国の大型プロジェクトが進行する中、日本も2020年代後半までに光衛星通信コンステレーションの実証を行い、2030年代の本格運用を目指す計画です​。

Beyond5G(6G)が実用化する2030年代には、宇宙と地上がシームレスに接続された通信環境が現実となるでしょう。日本発の光衛星ネットワークがその一翼を担うことで、世界の通信インフラの勢力図にも変化をもたらす可能性があります。技術開発と社会実装の双方で「スピード感」が鍵を握り、遅れれば他国の衛星網に依存せざるを得なくなる恐れもあります。

一方、日本には光通信や衛星技術で培った強みがあり、標準化への貢献や国際連携を通じて存在感を発揮できる余地も大きいでしょう。宇宙ネットワーク時代の到来に向け、日本が優位性をさらに強化し、自らの宇宙インフラを自律的に構築できるか──今後数年の動向に注目が集まります。

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