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2025年のサプライチェーンテクノロジートレンド

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サプライチェーンの複雑化と変動性が年々高まる中、デジタル技術を活用した生産・物流・在庫管理の最適化が経営における大きな課題になっています。企業が世界的な環境変化に迅速に対応し、新たなビジネスチャンスを捉えるためには、サプライチェーン全体の可視化や効率化、さらなる競争力の創出が求められます。

労働力不足への対策やコスト削減など、多面的な取り組みが必要です。こうした状況の中、Gartnerが提唱する「2025年のサプライチェーンテクノロジートレンド」は、企業が競争優位を築くうえでの鍵として大きな注目を集めています。今回は、これらのトレンドがもたらすメリットや課題に着目しながら、企業がどのように活用すべきかについて取り上げたいと思います。

Gartner Identifies Top Supply Chain Technology Trends for 2025


進化するサプライチェーン、コネクティビティとインテリジェンスが新潮流に

サプライチェーンをめぐる環境は、需要予測の複雑化や世界的な市場変動の激化など、常に新たなリスクと機会にさらされています。こうした中、競合他社との差別化を図るためには、従来のシステム改善だけでなく革新的なテクノロジーを大胆に導入し、自社独自の強みをつくり出す必要があります。Gartnerが提唱する2025年のサプライチェーンテクノロジートレンドは、まさにこの課題への一つの指針といえます。

このトレンドの根底には、「コネクティビティ(接続性)」と「インテリジェンス(知的進化)」という二つの大きな潮流があります。コネクティビティを活用することで、ネットワーク上に散在するモノや情報をスムーズにつなぎ、リアルタイムの可視化や自動化を進められます。一方のインテリジェンスは、AIやアナリティクスを駆使して組織全体の意思決定を高度化し、事業成長へと結びつける原動力として注目されています。


8つのテクノロジートレンド

Gartneは、以下のとおり8つのサプライチェーンテクノロジートレンドを示しています。

アンビエント・インビジブル・インテリジェンス(Ambient Invisible Intelligence)
超低コストで小型化されたスマートタグやセンサーが大量に活用され、サプライチェーンのリアルタイム監視をリーズナブルに実現する技術です。温度や湿度が厳格に管理される生鮮品の輸送や医薬品のトレーサビリティ確保などに効果を発揮します。導入が進めば、これまで属人的だった監視業務が大幅に自動化され、全体のオペレーション効率が向上する可能性があります。

拡張コネクテッドワークフォース(Augmented Connected Workforce, ACWF)
デジタルツールによる作業手順書や教育マニュアルの可視化を通じて、作業のばらつきを減らしながら生産性を高めるアプローチです。労働力不足が深刻化するなか、新人や技能実習生でも標準化された手順を短期間で習得できます。製造業や物流センターなどでも導入しやすく、現場力の底上げが期待できます。

マルチモーダルUI(Multimodal UI)
音声、タッチ、ジェスチャーなど複数の操作モードを組み合わせた新たなユーザーインターフェースです。物流業界では、ドライバーが音声認識を使ってハンズフリーで情報を取得できるようになるなど、安全と効率の両立が進んでいます。操作性の向上は、生産性だけでなく人材定着にも影響を及ぼす可能性があります。

ポリファンクショナルロボット(Polyfunctional Robots)
複数のタスクに対応できる柔軟性の高いロボットで、倉庫内での仕分けから梱包までを一気通貫で行います。用途が拡張できるため導入コストを分散でき、人的リソースが不足している現場にとって魅力的です。ただし、ロボットの初期投資費用やメンテナンスの専門性など、実装にあたっての課題も無視できません。

エージェンティックAI(Agentic AI)
自己判断を行うAIエージェントを活用し、在庫管理や配送スケジュールの最適化などを自律的に行います。従来の意思決定を人間が行う場合、判断に時間がかかったりバイアスが介入するリスクがありました。しかしエージェンティックAIを導入すれば、リアルタイムの需要予測に基づいて自動で調達と在庫配分を変化させることができ、対応力が大きく向上します。

自律的なデータ収集(Autonomous Data Collection)
ドローンやモバイルロボットを使って在庫カウントや機器点検を自動化し、作業者の手間とリスクを大幅に減らす仕組みです。誤差の少ない情報を定期的に収集できるため、棚卸や在庫照合にかかるコストが抑えられます。一方で、データの精度やプライバシー保護への配慮など、導入時には細心の注意が求められます。

デシジョン・インテリジェンス(Decision Intelligence, DI)
意思決定を支援・自動化するために、決定モデルやAI、アナリティクスを組み合わせた手法です。人間のノウハウに依存しがちだった工程管理や需要予測などが、データに基づいて高精度で行われるようになります。説明性と追跡性を備えた判断プロセスを構築できれば、社内の合意形成もスムーズに進むでしょう。

インテリジェント・シミュレーション(Intelligent Simulation)
AIと機械学習(ML)を伝統的なシミュレーションモデルに統合した仕組みで、需給バランスや物流ルートを高精度で予測します。複雑なサプライチェーンの変更を試す際に効果が高く、失敗コストを最小化しながら最適解を追求できます。将来的には、実際の業務と連動してシミュレーションが自動更新されるようになり、より高い柔軟性を備えると期待されます。

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出典:ガートナー 2025.3

こうした最先端技術がもたらす利点は大きい反面、実際の導入には注意すべき点もあります。初期コストやインフラ整備の負担は問題となるでしょう。ポリファンクショナルロボットや高精度センサーのように、設備が高額になるケースでは、投資回収期間が長期化することも考慮する必要があります。

また、エージェンティックAIやインテリジェント・シミュレーションなどの高度なAI技術を導入するためには、専門人材の確保や内部スキルの育成が不可欠です。AI人材が世界的に不足している現状では、採用や育成コストも膨れ上がる可能性があります。データの取り扱い方やプライバシー保護、情報漏えいリスクへの対策も企業の信頼性に直結する大きな課題です。

新技術を使いこなすための業務プロセスの見直しや、従業員の意識改革も避けては通れません。現場の混乱や抵抗感を最小限にとどめるために、小規模なパイロットプロジェクトを通じてメリットとリスクを可視化しながら段階的に導入を進めることが望ましいでしょう。


テクノロジートレンドを効果的に活用するには

企業がこれらのテクノロジートレンドを効果的に活用するには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。まずは、導入する技術をビジネスゴールと結びつけることです。コスト削減なのか、迅速な市場対応なのか、人材不足の解消なのか、目指す方向性によって最適な技術と優先順位は変わります。

そして、パートナーシップやアライアンスの活用です。自社だけで新しいシステムをゼロから構築するのは、開発費や時間の面で大きな負担になります。外部の専門企業やスタートアップなどと連携し、必要な部分をアウトソースしたり共同開発を行うことで、効率的にプロジェクトを進められます。

データガバナンスとセキュリティ対策の徹底も必要となります。サプライチェーンの可視化や自動化を進めるほど膨大なデータが生成されるため、その管理体制の不備は企業の信頼を根底から揺るがすリスクがあります。データの活用戦略を明確化し、情報セキュリティの基準やルールを社内外で共有しておくことが重要です。

今後の展望

これらのテクノロジートレンドは、サプライチェーンの構造そのものを変革し、企業の競争優位性を高めていくことが期待されます。リアルタイムなモノや情報のつながりと、高度なAIによる判断力が融合することで、従来の「在庫をどう置くか」「コストをどう抑えるか」といったレベルを超え、サプライチェーン自体が新たな価値創造の装置へと進化する可能性があります。

将来的には、サプライチェーン全体が自己学習型のデジタル基盤として機能し、市場変動や突発的なトラブルにも即応できる強靱さが実現されるかもしれません。新技術は競合他社にとっても同様の機会をもたらすため、先行者としてのリードを確保するにはスピード感が求められるでしょう。

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