生成AIもたらす企業とベンダー関係の再定義
企業がDX推進に本腰を入れ、生成AIを業務に活用することが当たり前となりつつあり、その影響は単なる効率化やコスト削減ではありません。
IT組織の在り方や企業とITベンダーとの関係性までもが、根底から見直される時代が到来しています。中でも、IT業務の内製化を最小限に抑える「ミニマリズム(最小限主義)」への移行や、生成AIを活用したベンダー評価の導入などが具体的に進むとみられています。
Gartnerのレポートをもとに今回は、生成AIが企業のIT業務とベンダー関係をどのように変容させるかについて、取り上げたいと思います。
Gartner、生成AIが、企業のIT組織業務やITベンダーとの関係性を大きく変容させるとの見解を発表
IT業務のミニマリズム (最小限主義)への移行が加速
DXが本格化した現在、多くの企業では従来のIT業務に加え、データ・サイエンスやAIアーキテクチャなど新たな領域への対応が求められています。しかし、企業内のIT組織がこれら全てを内製することは現実的ではありません。
Gartnerの中尾晃政氏は、「IT組織が今後行うべきことは、業務の棚卸しと内製すべき業務の絞り込みだ」と述べています。
IT組織は無理に業務範囲を拡大するのではなく、内製を必要最小限に限定し、それ以外の業務はアウトソースや生成AIを含む技術的な省力化手段に委ねる方向にシフトすると予測しています。
生成AI導入で期待と成果のギャップが拡大
生成AIは業務効率化の救世主と期待されていますが、その導入や運用を自社だけで完結する企業は少数です。多くの場合、ITベンダーやコンサルティング会社に依存しています。この依存は新たな問題も引き起こしています。
Gartnerの調査によると、生成AIを導入した企業の多くは期待した成果を得られていません。その原因は、ベンダー側のテクノロジー・ノウハウの不足や、顧客側の過度な信頼にあるといいます。
バイスプレジデントの海老名剛氏は、「企業がベンダー任せにせず、戦略策定から成果物評価までを明確に契約スコープに含める必要がある」と指摘しています。今後も、このギャップはさらに広がる可能性が高く、契約時に十分な取り決めを行うことが重要となります。
ベンダー評価における生成AIの活用
ITベンダー評価の客観性と信頼性を向上させるために、生成AIの活用が広がっています。従来の評価方法は、担当者による定性的なアンケートに偏りがちで、客観性に欠けることが課題でした。これを解決するため、ベンダーとの議事録やチャット履歴、メールなど日常のコミュニケーションデータをAIが多面的に分析し、評価の精度を高める取り組みが進んでいます。
Gartnerの土屋隆一氏は、「まず対象を限定し、信頼性の高い議事録データから検証を始めるべき」と提案しています。これにより、ベンダー評価は主観的な判断からデータドリブンな意思決定へとシフトしていくことが想定されます。
今後の展望
生成AIが企業活動に与える影響はさらに拡大する中、過度な期待と実際の成果のギャップが課題として顕在化し、企業とベンダー双方が試行錯誤を繰り返す状況がしばらく続くと予想されます。
また、IT組織のミニマリズム化が進行することで、IT業務の内製・外注の境界線が再定義され、生成AIを前提とした新たな組織形態や管理手法が登場する可能性も想定されます。
AIを駆使したベンダー評価が普及すれば、ベンダーはこれまで以上に業務プロセスや顧客対応の透明性・品質向上が求められます。生成AIがビジネス環境を根本から変えるなか、企業はその利便性を享受しつつ、リスク管理のバランスをとりながら、業務を遂行していくことが求められています。