企業はオンプレミスからAIを活用したプラットフォームへ
日本企業が長年培ってきたオンプレミス基盤は、長期的な安定稼働とコスト効率を追求するうえで大きな役割を果たしてきました。しかし、近年ではメインフレームのサポート終了や仮想化基盤ライセンスの変更など、多数の外部要因が重なり、レガシー・インフラの再検討が急務となっています。経営層やビジネス部門からは、新興テクノロジへの積極投資やコスト最適化が強く求められ、従来型インフラのままで本当に良いのかが問われているのです。こうした流れの背景には、AIや生成AIなどを活用したプラットフォーム戦略への期待が高まっていることがあります。
今回は、オンプレミスの近代化とAI/生成AIを活用したプラットフォーム戦略への転換について、取り上げたいと思います。
オンプレミスを取り巻く現状と課題
2025年2月26日にガートナーが発表した最新の展望によると、2026年末までに日本企業の半数は、従来型の仮想化基盤の近代化に失敗する見込みとされています。サーバ仮想化技術が長年にわたり企業の基幹システムを支えてきた一方で、ベンダーによるメインフレームのサポート終了、主要な仮想基盤のライセンス変更などの事情が生じ、さまざまな新技術への移行が検討課題になっています。
Gartner、オンプレミスに関する最新の展望を発表:2026年末まで、日本企業の半数は、従来型の仮想化基盤の近代化に失敗する
現場では「これまで大きな問題が起きていないから安心だ」といった意識が残っているため、新たなオペレーションモデルへの移行が進まず、結果としてレガシー環境に高額な維持費をかけ続けているケースが多いです。さらに、オンプレミスの仮想化基盤をクラウドにリフトするだけで終わってしまうと、コスト削減は思うように進まず、むしろ増大のリスクすらあるとガートナーは指摘しています。
このような状況下で企業が迫られているのは、レガシー・インフラへの過度な依存を見直し、新興テクノロジを取り入れながらインフラを近代化していくことです。そして、単にコスト削減だけでなく、新たなビジネスモデルやサービスを生み出す可能性を追求するには、AIや生成AIを最大限に活用できるプラットフォームを構築する視点が必要となります。
レガシー・インフラがもたらす影響
従来型のITインフラは「枯れたテクノロジ」とされてきましたが、枯れているとはいえ成熟しているので、安定稼働の実績があることは事実です。しかし、実際にはハードウェアの老朽化、人材不足、サポート終了によるリスク拡大など、見過ごせない問題が山積しています。これらを放置すると、次のような影響が顕在化する可能性があります。
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コスト肥大化
レガシー環境を維持するためのサポート費用や保守作業が、年々高騰する傾向にあります。しかも、問題が発生すると修繕費がさらに嵩み、IT予算の多くが維持運用に吸い取られてしまいます。 -
ビジネス機会の損失
新たなテクノロジを活用したサービス開発やDX(デジタルトランスフォーメーション)施策を円滑に進めにくくなります。レガシー・システムとのデータ連携が複雑になるため、イノベーションを阻害する一因になるでしょう。 -
人材育成の遅れ
レガシー・インフラに習熟した技術者は年々減少しており、業務を承継できる人材が不足しがちです。一方、コンテナやKubernetes、ハイパーコンバージド・インフラストラクチャ(HCI)など、新しい技術に精通した人材とのミスマッチが起こり、組織全体のスキルギャップを広げる要因にもなります。 -
経営層からの追及
ガートナーは2028年末までに、日本のIT部門の70%がオンプレミス・インフラの老朽化対応で予算を超過し、経営層から厳しく追及を受けるとしています。前例踏襲型の投資では、経営判断を納得させる根拠を示しづらくなるでしょう。
AI/生成AI活用のプラットフォーム戦略
AIや生成AIは、データ分析や高度な予測、さらには自然言語処理を活用した新たなサービス創出など、多彩な可能性を秘めています。ただし、これらの可能性を引き出すためには、それを支えるインフラの柔軟性と拡張性が不可欠です。クラウド・サービス上でのVMインスタンスやコンテナ/Kubernetesを活用することで、インフラをスケーラブルに設計・運用し、新規プロジェクトの立ち上げスピードを大幅に向上させることができます。
さらに、AIや生成AIの導入は、単にアプリケーション層だけを更新する話ではありません。ハードウェアリソースの選定やデータ処理基盤の構築、セキュリティ対策などを包含したプラットフォーム戦略が求められます。オンプレミスの老朽化に直面している企業は、クラウドへのリフトだけではなく、いかに最適化とシフトを同時に進めるかがカギとなるのです。AIが高度化するほどデータ処理量は膨大になるため、ストレージやネットワークのスループット、レイテンシなど、さまざまな要素を考慮した設計が必要です。
近代化(モダナイゼーション)が失敗する原因とリスク要因
オンプレミス環境の近代化が失敗に陥る要因としては、以下のような点が考えられます。
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十分な調査・分析の不足
移行プロジェクトを急ぐあまり、アプリケーションの依存関係やデータ移行に伴うリスクを見落とすことがあります。オンプレミス環境に深く根付いた業務ロジックを理解しきれずに、仮想マシンをそのまま移行してしまい、結果的に最適化されないままコストが膨らむケースがよくあります。 -
スキルやケイパビリティの不足
新しいプラットフォームを利用するための人材育成や、組織としてのオペレーション手法が定まらないまま、先進的なテクノロジだけを導入してしまうと、大規模なインシデントを招くおそれがあります。 -
レガシーとの共存を考慮しない極端なリプレース
一気にすべてのシステムを新環境へ移行するアプローチは、短期的には見た目の合理性を感じさせるかもしれません。しかし、実際には業務ロジックが複雑に絡み合っているため、一部のモジュールだけが移行しづらい、移行が完了しても同時運用が長期間にわたるといった問題に直面します。 -
経営層と現場との温度差
経営層が新規投資に積極的でも、現場の技術者にとっては日常業務の圧迫やスキル転換の負担が重く、抵抗が生まれる場合があります。この温度差を解消しないまま移行プロジェクトを推進してしまうと、結局は組織のモチベーションが維持できずに頓挫しがちです。
オンプレからの転換に向けた具体的アプローチ
オンプレミス環境からAI/生成AIをフル活用できるプラットフォームへ転換するためには、以下のようなステップが考えられます。
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アプリケーションポートフォリオの可視化
まずは業務システムの棚卸しを行い、クリティカル度や利用頻度、レガシー度合いなどを整理します。これにより、移行優先度を明確にし、段階的にプロジェクトを進めやすくなります。 -
段階的なハイブリッド化
すべてを一度に変えるのではなく、クラウドとのハイブリッド環境やHCIなどを導入しながら、徐々にオンプレミスの負荷を軽減していきます。これによりリスクを分散し、コスト管理もしやすくなるでしょう。 -
AI/生成AI活用プロジェクトとの連動
インフラの近代化とAI活用を別々に進めるのではなく、最初から一体として考えます。AI開発チームやビジネス部門と共同で目標を設定し、早期に成果を出せる領域を探りながらPoC(概念実証)を繰り返すことで、社内外への説得力を高めます。 -
オペレーションとスキル転換の計画
新技術を導入する際には、運用・保守の面で誰が、いつ、どう担当するのかを明確にしましょう。組織全体で必要となるスキルセットを洗い出し、研修や採用計画を早めに用意することが重要です。 -
IT投資の可視化と経営への説明
経営層やビジネス部門と対話を重ねる際、投資対効果を示すデータがカギを握ります。レガシー環境を維持した場合のコスト試算と、新環境に移行した場合の期待効果を比較し、説得力ある資料を整備しましょう。
今後の展望
レガシー・インフラからの脱却は、単にコスト削減を追求するだけではなく、企業そのものの競争力強化につながる道といえます。AIや生成AIへの投資が進む今、ITインフラ自体もイノベーションの源泉となることが期待されるます。一方で、闇雲にクラウドへ移行するだけ、あるいは最新技術を導入するだけでは成果を得られない可能性が高くなります。重要なのは、経営層から現場担当者までが同じ目標を共有し、アプリケーションの再設計や人材のスキル転換などを段階的かつ計画的に進めることが求められます。
また、ベンダー各社の戦略も年々変化しています。レガシー・マイグレーションに高額なコストがかかる一方で、クラウドやHCIを組み合わせたハイブリッド環境の導入が容易になる選択肢も増えています。こうした市場の変動はリスクであると同時に、企業が新興テクノロジーを積極的に取り入れる好機にもなるでしょう。