地方創生2.0とデジタル行財政改革
日本が直面する急速な人口減少や少子高齢化、地方衰退といった社会的課題に対応する、持続可能な行政基盤への取り組みが求められています。
デジタル庁は2024年11月12日、「第8回デジタル行財政改革会議」を開催し、これまでの成果を振り返り、「デジタル行財政改革」における今後の具体的な方針と行動計画が示しています。本記事では、デジタル行財政改革の基本的な考え方から地方創生2.0との連携、データ利活用、今後の展望などを取り上げていきたいと思います。
デジタル行財政改革の基本的考え方と取組方針
デジタル庁は、日本が直面するさまざまな課題への対応に向けて、デジタル技術を活用した改革を進めています。利用者起点で公共サービスを再設計することを掲げ、具体的な取組方針として以下の3つを示しています。
- 規制・制度の見直し
技術の進化に合わせ、古い規制や制度を撤廃・改訂することで、デジタル活用を阻害しない環境を整備。具体例として、入札資格審査のオンライン化や、データを活用した新たな調査手法の導入など - 公共サービスの質向上と効率化
国と地方自治体間のシステム統一や共通基盤の整備を通じて、自治体の現場負担を軽減するとともに、サービスの質を向上。小規模自治体では、デジタル化に伴うコストやリソース負担が課題であり、国がその支援を強化 - 政策の見える化と改善
EBPM(Evidence-Based Policy Making)の手法を活用し、政策の効果を定量的に評価・改善。「政策ダッシュボード」を通じて、進捗状況を可視化し、予算や事業内容の見直しを迅速に行う仕組みを構築
地方創生2.0とデジタル行財政改革の連携イメージ
デジタル庁は、「地方創生2.0」のビジョンのもと、地域経済の活性化と住民サービスの向上を目指しています。
この連携の具体例として以下を挙げています。
- オンライン診療
離島やへき地における医療アクセスの向上を目指し、郵便局や駅ホームで受診可能なシステムを構築。オンライン診療は、医師不足解消と住民の利便性向上を実現 - NFTの活用
地域資源の高付加価値化や新たな販路の拡大に向け、農産品や伝統工芸品にNFTを組み合わせた取り組みを実施。例えば、北海道ニセコ町のスキーNFTプロジェクトなどが成功事例として紹介
- 地域交通の再構築
広域モビリティサービス基盤を活用し、移動需要に応じた柔軟な交通サービスを提供。観光地や過疎地域でのライドシェアや自動運転バスの導入を検討
これらの取り組みは、単なるデジタル技術の導入にとどまらず、地域独自の特性や課題に対応した包括的な解決策を提供することを目的としています。
デジタル行財政改革のこれまでの成果と今後の取組
これまでのデジタル行財政改革では、いくつかの分野で具体的な成果が報告されています。
- 教育DX
全国の小中学生に配布されたGIGA端末を基盤に、校務支援システムのクラウド化やオンライン授業基盤の整備が進行中。また、地方間での教育環境の格差是正にも注力 - 医療DX
電子処方箋の普及が進み、併用禁忌や重複投薬の防止が可能に。また、医療データの二次利用促進に向けた基盤整備も進行中 - 介護DX
ICT機器や介護ロボットの導入により、介護現場の負担軽減とサービスの質向上に。人材不足に対応するための効果的な支援策として期待
- 共通基盤の拡充
国と地方のシステム統一を進め、自治体ごとの負担を軽減。共通SaaS(Software as a Service)の導入が検討 - 政策の進捗管理
政策ダッシュボードの活用により、政策効果をリアルタイムで評価し、課題解決のスピードを向上
データ利活用の重要性と展望
医療、教育、福祉など、あらゆる分野でデータの利活用が進められています。例えば、医療分野では電子カルテの共通化やAIを活用した診断支援を挙げています。教育分野では、生徒一人ひとりに適した個別最適化学習を実現するためのデータ連携に取り組んでいます。
EUではGDPRやデータ法を通じて個人情報保護とデータ利活用の両立が進んでおり、日本でもこうした制度整備の必要性が指摘されています。2025年夏には、日本独自のデータ利活用制度の基本方針が策定される予定です。
今後の展望:デジタル行財政改革で公共サービスは変わるのか?
デジタル行財政改革は、以下のスケジュールで取り組みを進めていく計画です。
デジタル行財政改革は、単なるデジタル技術の導入にとどまらず、社会全体を巻き込んだ包括的な変革を目指しています。地方創生の加速、新たなデジタル基盤の確立、そして個人や地域が活躍できる未来社会の実現。このビジョンの実現には、官民の連携と住民の積極的な参加が不可欠となります。
デジタル行財政改革は、行政サービスの提供方法を根本的に見直し、利用者目線での再設計を目指しています。例えば、これまで自治体ごとにバラバラだったシステムを国・地方共通基盤として統一することで、業務の効率化と市民への迅速なサービス提供。また、電子処方箋やオンライン診療といった医療DXは、地域医療の質を向上させるだけでなく、過疎地域に住む人々の利便性を大幅に高めることが期待されます。
さらに、政策ダッシュボードを活用した「見える化」によって、公共サービスの進捗状況がリアルタイムで把握でき、必要な改善が迅速に行われる仕組みが整いつつあります。これにより、行政の透明性が向上し、政策効果が最大化されることが期待されます。
今後、地方自治体間の格差解消や、システム導入におけるコスト負担の軽減に取り組んでいくことが求められています。デジタル行財政改革は単なる効率化ではなく、住民一人ひとりの生活を支える新たな公共サービスのモデル構築が期待されるところです。