新紙幣発行にともなう日本経済への影響
帝国データバンクは2024年7月12日、「新紙幣発行にともなう影響アンケート」を公表しました。
新紙幣発行の背景と目的
2024年7月3日、日本銀行は20年ぶりに新しいデザインの紙幣を発行しました。今回の紙幣刷新は、最新技術による偽造防止の強化とユニバーサルデザインの導入を目的としています。
具体的には、3Dホログラムを用いることで偽造防止を強化し、視覚に障害のある人や外国人など、誰でも使いやすいデザインが採用されました。このような取り組みは、社会全体の利便性を向上させ、偽造通貨による被害を減少させることを狙っています。
経済効果の期待と企業への影響
新紙幣の発行に伴い、自動販売機やレジ、両替機などを保有・設置する企業はシステム改修や機器の入れ替えに追われることになります。その一方で、新紙幣発行による経済効果も期待されています。
帝国データバンクが実施したアンケート調査によれば、全体の35.1%の企業が「プラスの影響が大きい」と回答しました。前回の紙幣刷新が行われた2004年には、1年間で流通する紙幣の6割が新紙幣に置き換えられたことから、今回も同様のペースで新紙幣が普及すると見られています。
具体的な影響、「費用負担の増加」が55%
アンケート調査は2024年7月5日から10日にかけて行われ、1,003社が回答しました。その結果、以下のような具体的な影響が報告されました。
- 費用負担の増加(55.5%): 機器の入れ替えやシステム改修に伴うコスト増加が最も多く報告されました。多くの企業が、新紙幣対応のための設備投資に対する懸念を表明しています。
- 特需による企業の売り上げ拡大(37.3%): 新紙幣対応のための機器購入などで特需が見込まれます。特に、紙幣関連機器を製造・販売する企業にとっては一時的な売り上げ増加が期待されています。
- 肖像の人物ゆかりの地・企業の活性化(35.6%): 新紙幣に描かれた人物に関連する地域や企業の活性化が期待されています。例えば、渋沢栄一が新しい紙幣の肖像に選ばれたことで、彼の生誕地である深谷市などではイベントや観光客の増加が見込まれています。
プラスの影響とマイナスの影響
調査に回答した企業からは、以下のようなプラスの影響が報告されています。
- 飲食店: 「新紙幣への変更など、目先を変えることで経済は大きく変化する。ぜひ良い方向で経済効果が出てくることに期待したい。」
- 繊維製品小売業: 「企業負担の増加は別として、市況やこの停滞しているマインド・空気の入れ替えという意味では一定の効果がある。」
- 機械製造業: 「機種対応など売り手の負担はあるが、新紙幣交換によるタンス預金の流出は一定の需要喚起につながる。」
一方で、以下のようなマイナスの影響も報告されています。
- 運輸・倉庫業: 「コロナ以降、非接触やデジタル化が進む中、新紙幣発行は一部業界では入れ替え需要などの特需が見込まれるが、それを利用する多くの中小零細企業は、機種入れ替えやシステム改修などで費用捻出を迫られ、景気浮揚に逆効果となる恐れの方が高い。」
- 化学品製造業: 「機種対応の費用を単価に転嫁すると、また値上げになる。」
大企業と中小企業の差
プラスの影響を感じる企業の割合は、大企業が45.0%であるのに対し、中小企業では27.5%と大きな差があります。大企業は新紙幣対応のためのコストを吸収しやすい一方で、中小企業はその負担が重くのしかかる傾向があります。このため、行政による補助金や支援が求められています。
今後の展望
新紙幣発行に伴うプラスの影響は、特需や地域活性化、キャッシュレス化の後押しなどが挙げられます。
一方で、企業の費用負担増加については行政の支援が必要とされるでしょう。偽造防止の強化やユニバーサルデザインの導入など、紙幣刷新の目的が達成されることを期待しつつ、経済全体への良い影響を見守る必要があります。
また、新紙幣発行に伴うキャッシュレス化の進展も注目されます。多くの企業が、新紙幣対応の一環としてキャッシュレス対応を強化しており、これが消費者の利便性向上や経済のデジタル化を促進する可能性があります。
今回のアンケート調査により、新紙幣発行が日本経済に「プラスの影響」をもたらすと回答した企業の割合は35.1%であり、「マイナスの影響」(14.3%)を大きく上回っています。
特需や地域活性化など、具体的なプラスの影響が期待される一方で、企業の費用負担増加という課題も明らかになっています。
新紙幣発行が日本経済に与える影響を注視しつつ、行政の適切な支援が求められます。新紙幣の導入が、経済の活性化や社会全体の利便性向上につながることを期待されるところです。