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日本のWeb3政策の方向性を示す「Web3ホワイトペーパー 2024 」

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自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部Web3プロジェクトチームは2024年5月21日、「Web3ホワイトペーパー2024」を発表しました。

本ホワイトペーパーは、新たなテクノロジーが社会基盤となる時代に向けた日本のWeb3政策の方向性と具体的な提言をまとめています。

本ホワイトペーパーは、日本がWeb3エコシステムの発展を取り込み、他のテクノロジーと融合させることで、社会基盤となりうるブロックチェーン技術のさらなる発展を強力に後押しするための提言として位置づけています。

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出典:自民党 Webホワイトペーパー 2024
これまでのWeb3政策

政府は2023年4月に「Web3ホワイトペーパー」を発表し、その後、政府や事業者、官公庁が一丸となってWeb3事業環境の整備を進めています。

NFTホワイトペーパーで指摘された課題の多くが解決され、パーミッションレス型ステーブルコインの流通やDAO(自律分散型組織)の法制化が進展。特に、事業者が暗号資産を安全かつ効率的に活用できる環境を整えるための取り組みが成果を挙げてきたといいます。

また、2年前には「NFTホワイトペーパー」を発表し、「Web3.0時代の到来は日本にとって大きなチャンスであるが、今のままでは必ず乗り遅れる」と危機感を指摘しています。

その後、日本のWeb3規制は明確かつ厳格であり、危機に対する耐性も高く評価されましたが、イノベーションの創出という観点からは法制・税制など多くの課題がありました。多くの事業者が課題を訴えていたものの、事業環境の整備は急速に進んでいます。

特に、DAO(自律分散型組織)の法人格取得に向けた法整備や、パーミッションレス型ステーブルコインの流通が認められるなど、革新的な取り組みが行われています。これにより、起業家が安心して新たなサービスを提供できる環境が整いつつあり、投資家にとっても有利な環境が整いつつあります。

世界で加速するWeb3

世界中でWeb3の大規模な普及が進んでおり、特にドル建てのステーブルコインの時価総額は10兆円を超える規模に成長しています。

アメリカではビットコインの現物に連動した上場投資信託(ETF)が承認され、多くの投資家が暗号資産に投資するようになっています。

Web3技術を用いたグローバルDAOは、国境や地域を超えてネットワークを構築しており、今後さらに重要な役割を担うことが期待されています。

日本国内でも、Web3の大規模な普及の波が押し寄せつつあります。パーミッションレス型ステーブルコインの法整備が進んだことで、スタートアップから大企業まで多くのプレイヤーが参入を表明しています。また、地方自治体でもDAOを活用した取り組みが広がっており、地域社会の活性化にもつながるケースが出始めています。

さらに、Web3技術の活用はWeb3経済圏の外にも広がりつつあります。日本が約10年前に提唱した「Society 5.0」の世界観が現実のものとなりつつあり、AI、IoT、メタバースといった技術に加え、ブロックチェーンも重要な役割を果たしています。

決済手段としてのステーブルコインや、コミュニティインフラとしてのDAO、自己の存在を証明する手段としてのVC(Verifiable Credentials)およびDID(分散型ID)への期待が高まりつつあるといいます。

本ホワイトペーパーの位置づけ

本ホワイトペーパーは、拡大するWeb3エコシステムを日本の発展に取り込むための提言としています。

Web3推進に向けて対処すべき論点、さらなる発展を見据えた議論を開始し、過去に公表した提言項目についてのフォローアップを行うとともに、政府や事業者、専門家の協力を得て、Web3ビジネスの実現と普及を推進していく決意表明としても位置づけています。

Web3の推進に向けて対処すべき論点

・「Society 5.0」実現を見据えた横断的検討の推進

サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合を目指す「Society 5.0」の実現には、AIやIoT、メタバースなどの他分野との連携が必要不可欠となっています。

現在、政府各部局は各テーマごとに検討を行っていますが、分野横断的な検討が不十分です。

「Society 5.0」実現のためには、Web3政策をブロックチェーン領域に閉じたものではなく、フィジカル空間との連動性を意識したメタバースや、新たなデジタル経済圏のエンジンとなり得るAIとの連動性を意識して推進する必要があるといいます。

・国際的なルール策定への貢献

世界的に暗号資産業界が冬の時代を迎える中、日本は消費者と投資家の保護を重視した規制を早くから導入し、破綻事案に対する耐性を示しています。

G7財務大臣・中央銀行総裁会議では、日本がリーダーシップを発揮し、責任あるイノベーションの推進を提言しました。

今後も国際的な勧告を踏まえ、技術中立的で責任あるイノベーションを主導していく必要があるとしています。

・VCおよびDIDの利活用促進

分散型ID(DID)や検証可能な資格情報(VC)は、デジタル社会のデータ利活用とプライバシー保護を両立するために重要な技術です。

政府はこれらの技術の標準化を推進し、国際的な相互運用性を確保することが必要となっています。

また、VCやDIDの活用に際しては、関連する技術動向や標準化動向に関して所管省庁を中心に官民が連携し、国内外のユースケースの開拓を進めるべきとしています。

・ブロックチェーン関連事業への投資の多様化

スタートアップが暗号資産やトークンに投資できる環境を整備するため、投資事業有限責任組合(LPS)法の改正が必要となっています。

経済産業省は、業界の意見を聞きながらLPSの暗号資産への投資を現実的に機能させるための下位法令の策定に努める必要があり、金融庁は、暗号資産交換業との関係を明確にし、LPSによる投資を実現可能にするための対応を進めるべきとしています。

・税制改正

日本のWeb3ビジネス発展に向けた税制上の障害として、法人税の期末時価評価課税と個人が保有する暗号資産に対する所得課税の問題があります。

法人税については一定の解決が得られましたが、個人の暗号資産取引に関する所得課税の見直しが必要としています。

暗号資産取引による所得を申告分離課税の対象とし、損失の繰越控除を認めることが検討されています。また、暗号資産同士の交換による損益を非課税とする提言もなされています。

・暗号資産発行企業等の会計監査の機会確保

暗号資産発行企業に対する会計基準の整備と公認会計士による監査を促進するため、ガイドラインの策定と実務への浸透が必要となっています。

日本公認会計士協会や日本暗号資産ビジネス協会は、Web3関連企業の会計監査に関するガイドラインを策定・公表しており、関係省庁もこれらの取り組みを後押ししていくべきとしています。

・DAOの活用促進

合同会社型DAOの設立と運用に関する実務的な課題を解決し、匿名性の確保や銀行口座開設の支障を取り除く措置が求めらるとしています。

また、既存の法形式にとらわれないDAOに特化した法形式の創設や、海外のプレイヤーが日本においてDAOを組成するための積極的な措置が必要の点も挙げています。

政府は、DAOの業界団体と協力し、実務的な課題の解決に向けた取り組みを進めるべきとしています。

・決済・投資手段のデジタル化

パーミッションレス型ステーブルコインの流通を促進し、円建てステーブルコインの発行を銀行に認めるための法整備が必要として、ステーブルコインの発行と流通に向けた業界の取り組みを支援し、関連法令の整備を進めるべきでとしています。

また、セキュリティトークンの流通市場の整備と税制面の取扱いについても検討が進められてるといいます。

・NFTビジネスの活性化

NFTを活用したファンタジースポーツやコンテンツ産業のビジネスモデルの検討が進められています。政府は、関係省庁やスポーツ団体と連携し、ガイドラインの策定と実施を推進すべきとしています。

また、アート、ゲーム、映画、漫画、アニメ、音楽などの分野でもNFTの利活用が進んでおり、関連する課題の解決に向けた取り組みが求められるとしています。

まとめ

本ホワイトペーパーは、日本がWeb3時代の中心となるための道筋を示し、AIやIoT、メタバースといった技術と連携し、「Society 5.0」を実現するための今後の発展に向けた具体的な提言をしています。

日本はWeb3推進に向けてさまざまな施策を進めており、技術革新と規制整備を両立しつつ、Web3を推進するという難しい舵取りが求められています。

政府だけでなく、企業によるビジネスモデル創造など、Web3エコシステムの健全な発展を進め、Web3の社会基盤の整備と発展を目指していくことが求められています。

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