農林水産業の研究開発を総合的に推進する「農林水産研究イノベーション戦略2024」
農林水産省は2024年6月4日、中長期的な視点で農林水産業の研究開発を総合的に推進することを目的とした「農林水産研究イノベーション戦略2024」を公表しました。
日本では、急速な人口減少が予測される中で、国内の食料供給を担うための基盤を確立することが求められており、効率的な農林水産の経営やイノベーションへの展開が重要となっています。
今回は、本戦略のポイントと今後の展望について取り上げたいと思います。
農林水産研究をめぐる最近の社会・経済や政策の情勢
国際的な食料需要の増加と供給の不安定化
2022年には世界人口が80億人を突破し、特に新興国や途上国で人口の急増が続いています。この人口増加に対応するため、世界の食料需要も増加していますが、異常気象や地政学的リスクが食料供給の安定性を脅かしています。特にロシアのウクライナ侵略や頻発する自然災害により、穀物価格の高騰と暴落が繰り返されています。
日本における経済的地位の低下
日本経済は低下しつつあり、2020年時点での一人当たりGDPは世界13位です。特に食料や肥料の買付競争が激化しており、必要な生産資材の安定的な調達が困難になっています。
人口減少と高齢化による農業者の減少
日本の人口は減少に転じており、特に農業従事者の減少が顕著です。20年後には基幹的農業従事者が30万人程度に急減することが予測されており、農業経営の強化やスマート農業技術の導入が急務となっています。
海外市場の開拓
国内市場の縮小が避けられない中で、海外市場も視野に入れた農業・食品産業への転換が求められています。日本食への需要が増加しており、日本食の強みを活かした輸出拡大のための戦略が必要となっています。
農林水産研究における重点分野
農林水産研究およびイノベーション推進に向けて、スマート農林水産業をはじめとした重点分野を示しています。
スマート農林水産業の加速化
スマート農業技術の開発と導入を加速し、低コストでの技術普及を目指しています。また、気候変動に対応した栽培技術の開発や生成AIの活用
「みどりの食料システム戦略」の実現
持続的な食料システム構築に向けた研究開発を推進し、カーボンニュートラルや化学農薬・肥料の低減に貢献する技術を開発
食料安全保障と生産力向上
国内生産の増大を目指し、海外依存度の高い品目の生産拡大や省力的で安定的な生産技術の開発を推進
「持続可能で健康な食」の実現
日本食の持続的な生産とエビデンスに基づく健康増進効果の高い食品開発を進め、特に魚や大豆、米粉などの国内生産を維持・拡大する研究開発を推進
バイオ産業市場獲得
ゲノム編集技術や高機能バイオ素材の創出、新たなバイオ産業の育成を目指した研究開発を推進
農林水産研究開発環境の整備
研究開発の環境整備においては、産学官の連携拠点やスタートアップ支援の強化などをあげています。先日、私自身、農業関連のスタートアップ関連施設にお伺いし、担当の方と情報交換をしましたが、農業×スタートアップの可能性を感じています。
産学官共同連携拠点の整備
産学官が連携し、農業研究の中核を担う農研機構の施設・設備を最大限に活用するためのオープンイノベーションを推進
スタートアップ支援の強化
新たな技術シーズを活用し、大規模技術実証の支援や初期需要創出などの革新的なイノベーションを創造するスタートアップを支援
知的財産マネジメントと国際標準化の強化
知的財産の保護・活用を強化し、国際標準化も視野に入れた戦略的な知財マネジメントを推進
国際連携による研究開発の推進
ASEAN諸国との協力プロジェクトを推進し、国際的な技術の普及と人材育成強化
異分野を含めた人材育成
異分野との連携を強化し、農業と情報・機械・バイオなどの分野に精通した人材を育成
研究インテグリティの確保
研究活動の透明性と説明責任を確保し、適切なリスクマネジメントを実施するための取り組みを推進
今後の展望
本戦略は、日本の農林水産業の持続可能な発展を目指し、さまざまな研究開発を推進していく方針です。これにより、スマート農業技術の普及やカーボンニュートラルの実現、新たなバイオ産業の創出など、多岐にわたる取り組みの推進が期待されています。
農林水産分野におけるスタートアップ支援を強化し、若い人材をもっと流入させ、新しいビジネスモデルやエコシステムを創造していくことも重要となるでしょう。
また、国際連携や異分野との連携を強化し、グローバルな視点での技術革新と人材育成を進めることも求められます。
日本の農林水産業が持続可能な形で発展し、国内外の食料供給の安定に貢献していく仕組みをどう構築していけるか、政策的な支援とともに、農林水産の領域をイノベーションの視点での創造力と行動力が求められていくでしょう。